第293話森の中で魔女さんに出会った
「今日は思い切って進んでみるのはどうかしら? 少しペースアップすべきだと思うんだけれど?」
そんな提案から、今回のダンジョンアタックは始まった。
提案を言い出したのは月読 カノン。
その日の彼女はずいぶんやる気のようだった。
彼女の実力は頭一つ抜けていて、そんな彼女の言葉には力がある。
そして自分達はもっとやれるともどかしさを抱えていたメンバーにとって、彼女の凄味は追い風になった。
「いいわね! 10階を越えてからポーションのドロップも増えていい感じだもん!15階には珍しい薬草もあるんだって! ちょっと探してみようよ!」
そしてやる気なのは、天音 真紀。
彼女の動機は10階層を越えてからアイテムの質が跳ね上がり、景気が良くなったことでテンションが急上昇中という単純なものだが、探索者のモチベーションとしては真っ当だった。
「よし、じゃあ。今日は15階層を目指してみるか!」
そして提案に乗り気なのはやはり最近調子のいい、草薙 彼方である。
パーティのリーダーである彼が乗り気であるのなら、方針は決まったようなものだ。
「……ああ、そうだな」
ただ一人、ぼんやりと羽々霧 翔は返事をする。
今一つ覇気の無いそんな様子に、カナタは首をかしげて尋ねた。
「どうしたんだ? ショウ?」
「ん? ああ……少しな。大丈夫、問題ないよ」
そう答えると真紀は、ショウの顔を覗き込む。
「本当に大丈夫ぅ? あんたが実家に帰ってる間にも私達ダンジョンアタック頑張ってたんだから、ペースに着いて来られるかな?」
よほど自信があるのかニュフフと笑う真紀だったが、しかしショウはその挑発には自信ありとニヤリと笑って返す。
「ああ。そこは心配しなくていい」
「へぇ……秘密の特訓はお互いさまってわけ?」
「まぁそういうことだ」
全員が実りのある夏を過ごしていたことは間違いない。
パーティとしての熱量はとても高く、積極的な探索は必然だった。
そんな風に随分気軽な提案で始まったダンジョンアタック。
もう一息で目的の階層に到達できたことと、生徒会の提供するマップの力もあって探索はあまりにも順調に進んでいた。
その快進撃は襲い掛かってくるモンスターを楽々と葬る前衛の働きが大きい。
そして本日のMVPは早くも決まりそうであった。
「ふぅ……」
モンスターをまた一体仕留め、ショウは額の汗を拭った。
まだ着慣れていない真っ白な学生服の様な衣装には傷どころか染み一つなく、圧倒的な性能を証明している。
そして新しい階層だというのに槍でまた一体、大きな蜂を仕留めたショウに真紀は悔しそうに歯噛みした。
「ぐっぬぬぬぬ……! おかしい! あんな変な格好なのに強いだなんて!」
「へ、変な格好じゃない! ちゃんと探索者の専門店に行って仕立ててもらった装備だ! 他所のダンジョンじゃこれが普通なんだよ!」
「え? ……そ、そうなの?」
「ああ。ユグドラシルもどきのダンジョン専門店だ」
「俺はカッコイイと思ったけどな! しかもすごく強くなってる! 一体何があったんだ?」
だがそんな質問にはショウは言葉を濁した。
「……ちょっとした特訓……かな? 簡単には教えられないが」
「教えなさいよ! いいじゃんケチ!」
マキは唇を尖らせて随分直接的な文句を口にしたが、それは焦りから来るものだろう。
休みが終わり、ショウは明らかに纏う雰囲気から変わっていた。
動きがとてもアグレッシブで、戦い方も少し変化している。
まるでそれは一つ上のレベルに戦い方が適応したようだった。
それはパーティ内での共通認識で、改めてカナタは感心したように彼を見て唸っていた。
「装備もだけど……なんか強くなってるよなショウは」
「そうね……休みの間に何かあったのかも。レベルの高い探索者に混じって他のダンジョンにでも潜ったのかもね」
「……そうだな、動きも装備もレベルが高い。いい探索者が多いダンジョンに行ったんだな。……俺も頑張んないと」
「そうね……」
実際ショウの新装備の槍は相当にすごい物の様で、本来傷つけることが容易ではないモンスターの外皮をいとも簡単に貫いていた。
その結果、あまりにも順調に探索は進み、パーティはすぐに目的の階層に到達した。
だが順調な時ほど危ないのがダンジョンだ。
階層が変わるたびに、そう戒めるのはすでに彼らの習慣になっていた。
「ここが15階層か……慎重に行こう」
「そうね……何が出てくるかわかったものじゃないし」
「しっかりアイテムを探していきましょうよ。私もサーチに磨きをかけたんだから」
「おいおい、少しがっつきすぎじゃないか? 警戒を怠るなよ?」
「わかってる。でも探索だって重要でしょ?」
各々警戒を最大にしてパーティは進む。
その階層は迷宮と森が混然一体となっていて視界が悪く、何が飛び出してきてもおかしくはなかった。
ただ15階で初めて遭遇したのは想定していた普通のモンスターではなかったのだあ。
ピョコリと茂みから飛び出したのは天使の輪。
「へ?」
茂みに目を向けていた真紀は 大きな籠を担いだ天使と顔を合わせて素っ頓狂な声を上げる。
「あ、なんかいたでち」
「何がいたんですか? 報告は正確にと教えているでしょう……」
そしてそんな天使を追って出てきたのは大きな帽子と黒い衣装をまとった、いかにも魔女風の女だった。




