第279話つかみはOK
「実は依頼したいことがあるんだが……構わないだろうか?」
とある日。売店で出会った生徒会会計の先輩はこんな相談を僕に切り出してきた。
「……なんです?」
僕はまだ警戒が残っていて身構えてしまったが、会計先輩のリクエストは案外普通だった。
「ダンジョン内での技術指導をお願いしたいんだよ」
「えぇ? 無理でしょ? 僕一年ですよ?」
しかしハードルとしてはとても高い。
前回は合同探索でなし崩しにレベルアップを強要することになったが、本来教える側には一年生は立場が弱すぎると思う。
角が立たないようにそっとお断りしようと思ったのだが、会計先輩は売店のポスターに視線を向けて言った。
「分かっているとも。これはファイアーボールヘッド氏への依頼だよ。相談を承っているんだろう?」
「……」
よりにもよって会計先輩がそれを言い出す意図を掴みかねたけど、ポスターを張ったのは僕自身。
教えて欲しいというのなら教えますとも。
そんなやり取りがあった後、そういえばエルフの探索をすることになっていたことを思い出し、それならまとめてというわけである。
聞かれたら答えるスタイル、疑問を解消していく形式を、僕は攻略君から継承したいと思っている。
心の中で回想していると、筒抜けだったのか攻略君が照れだした。
『いやぁ。いいことを言ってくれるじゃないか』
世話になっているからね。その距離感を見習いたいとも思っている。
『え? それは遠すぎない? モテない君に送る、彼女を作る冴えたやり方チャートとかいる?』
いらない。もはやそのノリ、懐かしいまである。
『……そうかぁ』
だけど、大人数を素早くこの階層に適応させる方法は必要かも?
『……じゃあ一先ず、アレをプレゼントでもすればいんじゃないかな?』
そう言って攻略君が授けてくれた助言は、何気に大盤振る舞いだった。
「……」
まぁ効果的ではあるだろう。
怖がっている彼らの肩の力をホッと抜く必要もあるし、今回は一つ会計先輩から注文もあった。
それは指導するにあたって出来る限り簡単な攻略法にしてほしいとのこと。
ここ最近様々な挑戦的な試みに疲れた彼らに、アメを与えてやる気を引き出したいのだとか。
この先、生徒の活動階層が広くなれば、生徒会がカバーしなければならないと言われれば納得もできた。
何なら今後僕らも手が足りない時は助けてもらいたい下心もあるし、可能ならばせっかく作ったネットカフェくらいまで利用して欲しいところだった。
これからの期待に胸を膨らませていると、会計先輩の話が終わってようやく僕の番がやってきたようだ。
「ではファイアーボールヘッド氏に直接助言をしていただくので、傾聴するように!」
「……」
会計先輩? そんな先生みたいにふられると緊張してしまうんだけれど、まず話すことなどあるわけもない。
しかし僕はおもむろに懐からステッカーを取り出すと、一旦全員に配った。
そして全員に行き渡ったことを確認して、ようやく口を開いた。
「まずはそれを自分のスマホに貼って欲しい。使用可能になるので」
「「「「「!」」」」」」
さざ波のようなどよめきを感じて、掴みは成功だったと僕は確信した。




