第276話どいつもこいつも
ワタヌキ君がクラスメイトの推しへの愛の強さに頭を悩ませていたその頃。
「……」
学校の一室である男は一人、自らの膨れ上がる感情に苦悩し、頭を抱えていた。
「……あの方が、静観を好んでいることは分かっている……しかし」
軽んじられることはまた違うとそう感じる。
だが他ならぬ自分自身がそうであったように、彼を他愛のない存在だとそう感じる生徒もまた多いのだと実感して、男は益々深く肩を落とす。
そう、男は自身こそが愚かだったと言う自責の念を感じていた。
しかしだからこそ許せない。
そもそもあれほどの存在が軽んじられていることが何かがおかしいのだ。
本来であるならば、全ての探索者の……いや、すべての人類にすら君臨する器を彼は持っている。
人知の及ばない知識の数々。
世界の目をくぎ付けにするほどのカリスマ性。
そして何より、どのような存在でもひれ伏させる圧倒的な―――純然たる戦闘力。
思い出すだけでも身震いするような体験こそが、男に気づきをもたらした。
きっとこの心の中に燃える感情は尊敬では収まらないのだろう。
当てはまる言葉を探して男は一つの言葉にたどり着く。
「そう、これは……崇拝だ。崇拝と言っていい。だから彼が許したとしても、私が彼を軽んじられることを許せないのだ」
感情のままに行動して、そんな態度を是正することもできるかもしれないが……同時に彼がそれを望まないこともわかっていた。
「私が直接彼を崇拝することを、彼は拒絶するだろう。……だから、彼が作り出した偶像こそを崇拝する」
男は今日もそれを見上げた。
「そう、リスペクトが……あまりにも足りないのだ。人にはそれが必要なのだ。彼は語らないだろう。しかし試練という形でそれを与え、より良い方向へ私達を導くのだろう―――」
見上げる壁に飾られているのは、男が特注で発注した頭の燃えた彼の肖像だった。
「セントエルモの灯は祝福します―――すべては……ファイアーボールヘッドのために」
まずは正攻法で、彼の名声を高めて見せる。そんな意思の籠った祈りは自然と口からあふれ出る。
一先ずファングッズ製作は軌道に乗り始めている。
そして公式動画のPVも順調に伸び。
そろそろ学内での知名度をより上げていく段階だろう。
幸い名前は既に知れ渡っているのだから、後はいかに偉大な存在であるかを気づかせればそれで済む。
そのための道はすでに示されていた。
男の手にはポスターの写しが握られていて、そこにはファイアーボールヘッドお悩み相談と記されていた。




