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ダンジョン学園サブカル同好会の日常  作者: くずもち


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第275話その後チル

 解散の後、突然ハバキリ君から連絡があった。


 連絡の内容は謝罪と話せないかというお誘いで、少し用事もあるという。


 とりあえず部室で待ち合わせをして、やって来たハバキリ君と僕は特に意味もなくテニスゲームに興じていた。


 やはり探索者だけに反応速度は恐ろしく速い。


 やり慣れていない分を補って余りあるテニスセンスにも注目したいところである。


 そして事のついでに、僕はハバキリ君に訊ねた。


「……結局何を話したかったんだと思う?」


 純粋に、草薙君の熱烈歓迎態勢に困惑して尋ねると、ハバキリ君はアハハと微妙な顔で笑っていた。


「本当に話を聞きたかったんだと思う……たぶんこれはボクのせいだ。新装備を貰ってしまったから」


「そういえば……アレで行くんですね? きつくなったら言ってよ? もっと性能が良くて、もう少し好みに合わせることもできると思うから」


 あのイベント会場周辺であればともかく、とてもコスプレ味が強い衣装ではあると思う。


 趣味のファッションも、時と場所は選ぶモノ。


 そこは変な遠慮はせずにきっちり言ってもらわないといけないけれど、ハバキリ君は白ランファッションで通すみたいである。


「だ、大丈夫だから。気に入ってるよ。それでなんだが……あいつは勘がいい。たぶん、スカウトも視野に入っていたかもしれない……」


「本気かな?」


「おそらく……まぁボクも勘だけどな。でももしパーティに加わってくれるなら歓迎するよ。天音さんの態度も気になるなら僕の方で窘めることはできると思う」


 そんなセリフを真顔で言われ少し考えたが……結局僕は首を横に振った。


「いや、誘われても無理だね。絶対に足並みを崩しちゃう。今僕は部活優先だから」


「……だろうな。少なくともダンジョンを踏破できるような探索者が、無理にボクらと一緒に潜って、得るものがあるとは思えない」


「……ゴメンね。とはいえ天音さんからも嫌われているから連携的にもちょっと問題ありそうなんだよね……。本当にスカウト本気そうだったら無理しないように止めておいてよ」


「うーむ。そうだな人間関係で崩壊するパーティは少なくないというし、なんだか……すまない。少し天音さんは君を煙たがっているようで……でも言葉が強いから勘違いされがちだが、悪い子ではないんだ」


 やんわりと断る僕にハバキリ君は天音さんへのフォローを入れる。


 もちろん誰に対しても攻撃的と言うわけではないことは分かっている、ただ僕が特別嫌われる理由は残念ながら存在した。


「ああいや、嫌われる心当たりは残念ながらあるんだよ。……やはり推しの近くの悪い虫が気になるのはどうしようもないのかもしれない」


「すまない。何を言っているのかわからないが……」


 ハバキリ君が戸惑うのもわかるけど、まぁすごく個人的な感情の話だった。


「いや、レイナさんのファンなんだよ、彼女。それなのに僕が原因で喧嘩になっちゃってねぇ……」


「ああ、それは、そんな話を聞いたな。いや……しかしそんなに尾を引くような話なのか? 自業自得の様な所もあったと聞いているから気に病み過ぎる必要はないと思うが……」


 困惑するハバキリ君の言う通り、まぁ一見すると大した問題ではないようで、僕は結構根深い問題ではあると思っていた。


 彼女が愛してやまないのは、探索者という荒っぽい世界で、同世代でありながら燦然と輝き、頭角を現しているレイナ=トーレスであって、決して趣味に傾倒してサブカル研究部に所属するオタ友ではないというのが、そもそもの意見の食い違いの元なのだ。


 そこにあるのは純粋な憧れと善意であり、天音さんの中では譲る必要もないあまりにも常識的な大前提の可能性がある。


 だから彼女にしてみれば、レイナさんが落ちぶれる原因を断らない僕こそ悪なのだろう。


「とはいえ不仲の原因だからねぇ。……でも僕にも人間関係の優先順位ってあるから仕方がない。天音さんには悪いけど、レイナさんにはお世話になっているからさ、日本にいる間くらい極力希望は叶えてあげたいんだよね」


「それは……そうだね」


 僕の中で優先順位としては圧倒的にレイナさんが上である。


 彼女も留学生なんだから、そのうち母国に帰るのだろう。


 いくら趣味を楽しんでいるとはいえ、住み慣れた土地を離れて、異国で頑張ることが大変なのは容易に想像がつく。


 何かの縁で、しかも趣味を通じて仲良くなれたんだからせめて気分良く楽しんでもらいたいとは思っていた。


 いやまぁでも、最近は随分僕の個人的な我儘につき合わせてしまっているけど、それについてもプラスに働いて欲しいと願うばかりだった。


 ただハバキリ君は希望を叶えると聞いて、どんなことをしているのか察したのか、恐る恐る聞いて来た。


「……彼女もその、ダンジョンの奥へ?」


「まぁ……付き合ってもらっているね」


「それは逆に大変そうな話だと思うが……」


 逆に心配そうなハバキリ君だけれども、それは直接聞いてみない事にはわからない感想だった。


「どうだろうねー……いちおうサブカル的な部分にも気を使ってはいるよ? 僕らのコレクションは共有してるし、ゲームで遊ぶし、コスプレ楽しんだし……探索者として足を引っ張る……なんてことにもなってないはず」


 きっと今なら母国に帰っても、日本で遊んでいて衰えたなんて言われることはないと断言できる。


 探索者としての気構えは、サブカルチャー研究部の誰よりというか、おそらく全人類レベルで意識が高いと僕はそう認識しているから、きっとレイナさんはすべて踏まえた上で納得して生徒会ではなくこちらに在籍しているのだと、そう思いたいところだった。


「そうか……まぁ君がそういうのなら、そうなんだろう」


 そんな確信が伝わったのか、ハバキリ君はそれ以上深く追求することはしなかった。


「ハバキリ君は、僕らと探索したりしたい?」


「……ボクは……いやすごく気になるが、入学してから一緒に頑張って来たパーティに愛着もある。そんなに簡単に縁を切ろうとは思わないよ。やり方も間違っていたとは思っていないから」


「そうだね。僕のやり方が絶対正解だなんて、僕はとても言えないし」


「そうなのか?……いや、そうだな。君達のやり方を君達無しでやるのは、命がいくらあっても足りないとは感じた」


「ははは、言うねぇ。でもその肌感覚、捨てない方がよさそうなんだよなぁ……」


 そんな呟きの後、ラリーが続いていたコートの逆サイドにボールが突き刺さる。


 これでゲームセット。


 僕は勝利を手にしておもむろに拳を握り締めるのだった。


「クッ……負けた」


「よし! いや強かった。初めてとは思えなかったよ。……そう言えばハバキリ君はどんな用事で?」


 ゲームが終わって、そうだったとハバキリ君から連絡があったことを思い出した僕は今更ながら聞いてみると、悔しそうにしていたハバキリ君の表情が唐突に真顔になる。


「ああ、ええっと……実は」


 そしてなんだかとても言いづらそうにしていたが、意を決したように僕と視線を合わせ、しかし極力小声でこう言った。


「……先日借りた漫画の……続きを貸してもらえないか?」


「全部一気に貸すよ。もう完結してるやつだから」


「あ、ありがとう……」


 どういたしまして。


 ひょっとすると毒殺の危険が増えるかもしれないけどそんなものはどうでもいい。


 すでにスナイパーとかに狙いを付けられているのかもしれないけど、僕は即答した。


 共通の趣味さえ持っていれば来る者拒まず、去る者追わず。


 とにかく楽しむことこそ趣味の大正義だ。


 この綿貫 鐘太郎。オタクとそれ以外の人間なら迷わずオタクを応援する、そんな男であるからして。

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― 新着の感想 ―
つまり忍者ヒロインものに沼を広げるなら毒も遠のく?
ハバキリくんいいやつですね…普通に友達でいたいタイプ
流石魔王ワタヌキ。何処までも真っ直ぐにオタクである事を曲げないその姿勢…素晴らしいね!
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