第274話天音さんのテスト
「じゃあ行きましょう……」
「ちょっと! どこに行くんだ!」
「決まってるでしょう? ダンジョン攻略よ……」
草薙君の制止も聞かず、天音さんは転移宝玉を取り出すと発動させる。
そうして連れてこられたのは更に別の階層だった。
「ええっと……ここは?」
僕はおずおずと天音さんに訊ねると、天音さんは現在の階層を告げた。
「11階層よ。ここでモンスターを一匹倒せる? そうすれば連れて行ってあげないこともないわ」
「11階層……」
「おいおいマキ、まさか一人でやらせるつもりじゃ……」
流れを変えようと草薙君が止めに入るけど、天音さんに引くつもりはないようだった。
「一人でやらせるつもりよ。どの程度戦えるのか見せてもらうのが一番じゃない。大丈夫。この階層ならいつでも助けられるわ」
ただハバキリ君と月読さんは今一つ緊張感もない様子。
「どう思う? ハバキリ君」
「……いや、まぁ大丈夫じゃないだろうか?」
「そうね。私もなぜかそう思うわ」
月読さんとハバキリ君は完全に言っても無駄だと静観の構えだ。
いや、止めて? なんかおかしなことになってるから。
ただダンジョンを回りながら軽く話をするくらいのはずが、どんどん面倒くさいことになってきてる。
まぁ……でもそりゃそうか。
我が最初の精霊、カメラ君だってこの階層のモンスターなら倒せる。
パーティ4人中2人がぼんやりと大丈夫なのでは?っと思っている影響は大きく、むしろさっさと終わらせてしまってくれという空気が漂っているのをひしひし感じる。
僕はため息を吐いて、11階層を草薙君パーティを先導する形で歩き出す。
「ええっと……何か用事があるなら今のうちに話してもらっても?」
「集中しなさい! 危ないじゃない!」
「……はい」
う、うん。じゃあ適当なモンスターをサクッと倒して、用件をすませてしまおう。
素手でもいいが、何か武器はないかとアイテムボックスを漁ってみるといい感じのが出てきた。
それはいつかのダンジョンで買ったお気に入りの黄金の大斧だった。
「おお、お前がいたな。ゴールデンマサカリアックス」
「おお! カッコイイなその斧!」
「え?……どこから出したのよそれ?」
その疑問は大切にしといて? そしてこれでとりあえずいいか。
かなり慎重すぎるほどに慎重に探索すると、そんなに歩くこともなくモンスターは現れた。
意図して避けなければ、ダンジョンなんてそんなものだ。
さて倒そうとゴールデンマサカリアックスを構えたまでは良かったのだが……。
「ん?」
しかし、今回遭遇したモンスターを前にして、僕は固まってしまった。
「黒い豹……?」
「珍しいモンスターね。じゃあ倒してみて」
「……え?」
まぁなんだ。黒豹のモンスターは何も珍しいモンスターではない。
しかしこの階層にいるかというと、僕には若干疑問があった。
……っていうかアレ? ワカンダ君じゃね?
「んん?」
疑念は彼が僕の顔を見て固まってから、急になんでもなさそうに前足を舐め始めたことで、確信が深まった。
いやあれワカンダ君だよ。
浦島先輩のテイムモンスターは素材集めを今も続けているはず。
指示しだいではここにいても何ら不思議ではない。
「……」
「どうしたのよ? まさか怖気づいたの?」
「僕が? アレを?」
「当たり前でしょ。出来ないならさっさと尻尾を巻いて帰る事ね」
背後から煽るような声と、戸惑いの声も聞こえる。
しかし僕はその場に片膝をつき、ゴールデンマサカリアックスを床に置くと、じっとワカンダ君と見つめ合った末―――答えを出した。
いや……出来るわけないない。
とりあえず僕は己の直感を信じて黒豹に歩み寄る。
「え? ちょっと……」
そしてしばし見つめ合い、さっと手を出してみた。
「お手」
「ガウ」
ガリ。
超噛まれた。
「何やってんのぉぉぉ!?」
まぁ自分のテイムモンスターじゃなければこんなもんか。
しかし向こうも面識があるのが分かっているらしく、全力じゃない甘噛みである。
やはり君だったか。
一通り腕をベロベロ舐められると、ワカンダ君はさっさと走って行ってしまった。
「……」
僕は涎だらけの手のまま戻って、ちょっとシュンとして言った。
「ダメでした」
「あったりまえでしょうが!」
スッパンと額に炸裂したツッコミは驚くほどいい音がした。
「ちょっと手を出して!」
そう言って天音さんは回復呪文をかけてくれるけど、随分慌てさせてしまったみたいだった。
「これで……あれ? 怪我はないわね……」
「なんか、ゴメンね?」
とはいえ、僕の気の迷いがいらぬ混乱を招いてしまったのは間違いない。
何となく謝ると、天音さんは妙に動揺した様子で目を逸らした。
「……私も悪かったわ。意地悪し過ぎた」
「え?」
「……何よ?」
「なんだか意外なことを言うなと」
そんなことを思わず口にしたら、それはもう睨まれた。
「そりゃあ、アンタは嫌いだけど、大怪我したって後味が悪いだけよ」
「そんなもの?」
「当たり前でしょ! ……ああもう! 分かったわよ!……じゃあ、あんたがパーティに入るの認めてあげる! ちゃんと守るから! 絶対言うことを聞くこと!」
僕はなるほどと頷いて即答した。
「お断りします」
「なんでよ!」
「いや……一応パーティは結成したばかりだし」
「え? じゃあ、なんであんたついて来たのよ?」
「君らが連れて来たんじゃないっすか」
「……」
そしてなんも事情わかってないじゃないですか天音さん。
そもそもバーティ希望じゃないですし。
そして僕らのパーティ、活動方針的にいつでも集まるとか無理なので、クランに参加も無理です。
またご機嫌が悪くなった天音さんを宥めるのにも時間がかかりそうだし、今回は話をする雰囲気にはならなさそうだった。
「……なんという敬意のなさ……ありえない」
ただ―――そんないざこざを見られていたことに、僕は全く気が付いてはいなかった。




