第264話ひのたまちゃんの中の人
『全世界の探索者のミンナ! 今日も燃えてる? 私は燃えてる! 来てくれてありがとね! 火の玉チャンネル、今回は5階層に突如現れたお店の紹介をしていくよ!』
頭身低めのひのたまちゃんが、画面の中からカートゥーンバリにコミカルに目をクルクルさせながら、こちらに手を振っていた。
僕がやっていた時より確実にエンタメしているその姿に、僕は熱いものを覚えて呟いた。
「おぉ……かわいい」
「よせやい。照れるじゃない?」
褒めると、ひのたまちゃんの中の人が大いに照れている。
浦島先輩は結構ノリノリでひのたまちゃんをやってくれているようだが、驚くべきは僕がやっていた時よりも様々な数字が桁違いだということだろう。
「チャ……チャンネル登録者数が1000人を超えてる……」
「すごいっしょ? 賞賛しなさいな頑張った先輩を」
フッフッフッと得意げな浦島先輩に、僕は頭を垂れて敗北を認めた。
無理無理こんなん、僕じゃ絶対無理。
サムネといい編集といい、絶妙なバランス感覚はもはやセンスの領域である。
「なんかもう……張り合う気も起きないほどの完全敗北ですよねー……先輩かわいっ」
「お、おいおいよせやい。ストレート過ぎだぜ。それほどでもあるけどさ」
「実際凄いです。ライバーってこんな風にやるんですねぇ」
「そうだよ? 何ならやってみたら? 教えちゃうよ?」
「え? このボディで? ……それもアリ?」
バ美肉というやつか……そうか……うん。
キメ顔でピノキオみたいに鼻が伸びていた先輩だったが、急に真顔になるとそれと気になることがと管理画面を見せてくれた。
「でもおかしいんだよ。いくらなんでも伸びが早すぎるというか……」
「そうなんですか? いい事じゃないですか?」
こういうのは突然伸びることもある、みたいな話を聞くがそういうのとは違うらしい。
浦島先輩はグラフの画面とにらめっこしながら難しい表情を浮かべて、画面を指でなぞった。
「いや、リアルの事件が火付け役になった……と思わなくもないんだけどさ、なんか伸び方が不自然というか……」
どうにも腑に落ちないと浦島先輩は腕を組む。
不自然か。
とそんなこと言われても僕にはよくわからない。
ただ、コメント欄にやたらと多いユーザー名が気になると言えば気になった。
「このセントエルモの灯って人よくコメントしてくれてますよね」
「ああ、その人。ずっとコメント入れてくれてるよ? ワタヌキ君のファンなんじゃない?」
「え? マジですかぁ? そんなことある?」
満更でもない気分で僕は頭を掻くと、謙遜しなくていいでしょと浦島先輩は快活に笑った。
「いいとこ認めてくれる人もいるってことなんじゃない? こういうの頑張ってるのわかるものだし?」
「せ、先輩……」
そんなこと言われたら僕、感動してしまうよ?
とはいえ応援してくれているであろう奇特な誰かさんもコメントが始まったのはごく最近であることを、僕は知っていた。
そんな話をした数日後、僕はふと売店を見て回っていると、商品棚の一コーナーに見たこともない物を発見して首を傾げた。
「……何でひのたまちゃんステッカーが売店に?」
思わず声に出す。
すると松林君がああそれかと、ここに並んで経緯を教えてくれた。
「なんか、生徒会の人が置いてったんだけど?」
「え? どういうことそれ?」
最近生れたばかりのキャラグッズをなんで生徒会が置いていくの?
そもそもなんでこれを作ろうと思ったんだろう?
謎は深まるが、まぁたぶん浦島先輩辺りが生徒会と何かやっている姿は容易に想像がついた。
「……生徒会長と仲いいからかな? ステッカーも真面目に良く出来てるしなぁ」
「ああ。うん。なんかかわいいよなこれ」
松林君は同意する。
実際ステッカーとそのイラストは妙にクオリティが高く、商品として十分通用しそうである。
しかしまさか自分のオリキャラが自分以外の誰かにキャラグッズを作ってもらえるとはこいつはすごい事だなと、僕はなんとなくむずがゆく思いながらその時は比較的素直に喜んでいた。




