第265話魔王城お試し
社会科見学に、工場見学なんてものはある。
ただ本日見て回るのが工場ではなく魔王城だというのは、言葉にすると趣深い。
現在この魔王城は本当に真っ白で、大理石の様な透明感のある石材の壁や床は染み一つない美しい建物だ。
そして妙に明るく、バッチリ照明が輝いているが、電気で動いているわけではないらしい不思議な空間だった。
「まるで僕の心のように美しいね!」
『そこは保証できないよ? いや、ホントにね?』
「なんでだよ? 心象風景の具現化だろう? 目の前にある物を信じないでどうするよ?」
なんて言ってはみたけれど、攻略君の言わんとせんことはわかる。
魔王城というには少々神聖すぎる気配を漂わせる白亜の城へと変貌しているのは、きっと僕の心がどうこうというよりも、ジョブ辺りのせいっぽいのだ。
「マジレスすると……職業柄? ってことなんだろうか? やばいくらい神殿風味」
『実に職業柄という言葉がレアな使い方をされた感じだね。正解だよ』
ふーむなるほど?
さすが100階層までかけて鍛え上げて来ただけあって、しっかり聖騎士の影響が出ていたか。
あまり実感はないし、どちらかといえばあまり落ち着かないというのが素直な感想だった。
「なーんか……柄じゃない感じがすごい。元の魔王城の方がしっくり来るくらいなんだけど?」
あのドヨンというかジメッとした薄暗い感じは少し落ち着くと思ったのだが、攻略君からは一言あった。
『私的にはそこで堂々としないで欲しいわけだが? こう……この階層に見合う様に君には厳かであって欲しいね。正直図書館というのは実に知的で素晴らしい』
「……ホントに? 城の本棚だいたい漫画と薄い本なのに?」
『もちろん。すべての書物は知識の結晶だよ。そして伝えようとする意志にあふれている。もちろん善意も悪意もあるだろうが……すべては情熱の賜物なのだから、大切にしてほしいと思うね』
なんのつまりもなく真っすぐ言われるとちょっと気まずい。
僕もそれこそテレはあるがお気に入りなのだし、何よりその価値を認めていることは間違いなかった。
「……それはそうか。どんな本だって簡単にできるもんじゃないもんな」
たった一枚作文用紙に読書感想文を書くだけでも、大変なんだ。
ましてや本一冊に知識をしたためるのにどれだけの労力がかかる事か。
もしそれをするというのなら、相応の情熱が必要なことは容易に想像がつくというものだった。
『そういう事さ。情報に上も下もない。それにこの図書館。きっと君にとってだけではなく、人類規模で価値の高いものだよ? この階層には君達の世界に存在したありとあらゆる書物が存在する……いや、存在しないものすらあるかもしれないぞ? 現代にだってバッチリ対応しているし』
「なにそれ?」
ただ思っても見ないほど規模のでっかい話をされて、僕の目は点になった。
『君が欲していた物が本に限った話ではないというのも一つの理由だろう。データのみで存在する物、データすら存在しない物、行動や記憶―――そういったものまですべて閲覧可能な大図書館だと思ってくれたらいい』
「なにその文化的に価値のありすぎる設定。手に負えない」
『……素晴らしい事じゃないか。君が宿主で誇りに思うレベルだ』
「よせやい照れるじゃないか……でもちょっとおかしいとも思う」
『……何かな?』
しかしサラリと説明されて違和感しかなかった僕は、何食わぬ声で聞き返してきた攻略君に持論を披露した。
「いや、僕は好奇心は強い方だと思うけど……ここまででたらめな物を欲しいと思った事はない」
『好奇心が強いだけで100階層には来られないと思うけどね。それで?』
そう、この膨大な図書館という空間が完全に僕の心象から作られているというのは違和感があるのだ。
そして説明を聞く限り、図書館の性質にはとても心当たりがあった。
「今の話を聞いてちょっと怪しいと思っているところもある。まぁ……ぶっちゃけ主に攻略君の影響でしょ? この図書館」
『……そうかな?』
言葉に若干詰まった時点でこの攻略君、白状したようなものだった。
思えば付き合いも長い。
数々のやり取りの中で、この一風変わった攻略君がとても淡々とスキルとしての役割のみに徹しているとは僕は思っていないのだ。
「どう考えてもというか……データの元は全部攻略君まであるでしょ? 言ってしまえば攻略君が貸出可能になっただけじゃん」
『……いやー……まぁそうかも?』
「めちゃめちゃ言葉を濁すじゃん? ……うっすら思ってたけど我が強くなって来てんじゃない? 攻略した証にでっかい図書館作っちゃえ! って気持ちは分からなくもないけどさ、管理をしっかりしないと僕らのアドバンテージ消し飛びそうじゃない?」
『……! ものすごく真っ当にダメ出しをされてしまった。……そも確かにその可能性は大いにあるんだ。私だって君の一部みたいなものだろう? そしてこの仮説が正しいのなら……私は知の権能、言ってしまえば人類史の記録……いや元になった私基準だとしたら、地球史かな? そのデータがすべて保存されているようなものだ。さしずめ神の大図書館と言ったところかなぁ』
「…………まぁ、大図書館とかロマンがあって嫌いではないけれどもさ」
僕は僕にしては大きめのため息を吐いた。
まぁ図書館に蔵書が多いっていうのはいいことだと、そう言うことにしておこう。
僕の趣味だって反映されていないことはないんだし、実際ズラリと本が並ぶ光景は、とても心躍る。
漫画とか小説くらいしか読まないのが宝の持ち腐れとしか思えないから、少し読書する習慣でも付けようかと思うくらいである。
さて疑惑はあるが、この際今はいいだろう。
本も非常に気になるが、今日の本題はそこじゃない。
攻略君の案内で、本格的にこの施設を稼働させるためにやって来たのはモンスターを生成できるというモンスター工房だった。
「うーん。実に怪しげ」
ただとんでもなくでかい魔法装置やら。怪しげな巨大フラスコやらが並ぶ空間は、所有者ですと白状したらそのまま捕まりそうな雰囲気がすさまじかった。
『まぁそれはそうだね。まずナマモノはハードルが高い』
「ナマとは? ……いや、まぁでも今更感がない? 錬金窯でポコポコ増やしてたじゃない?」
『アレは錬金事故を利用した裏技だからねぇ。素材を利用して故意に事故を起こして同じ個体を爆増させているんだよ。こちらはもう少し応用が効く。ただ最初のおすすめはココだ』
「真っ当じゃなかったのかあの方法……一般知識として紹介しちまったよ」
そして攻略君一押しの設備は、また他とは怪しさのベクトルが違う部屋だった。
工具っぽいけど見たこともない物が沢山あるまさに工房は、明らかに人工物を作るための場所である。
攻略君はこの場所をこう紹介した。
『ゴーレム工房だよ』
「ふーむ……なるほど」
ゴーレムというと記憶に新しいのは、超巨大ピラミットゴーレムか。
他には10階層の鉄巨人。
研究所の様なフロアで出て来た、少し機械っぽい奴や、ほぼ岩石が動いているようなシンプルなものまで、見た目は多種多様なものだった。
「でも今までだってゴーレムは弄れてたじゃない?」
『そうとも。だからそれをもう一歩進めた施設だ。簡単にいうと新品を作れるようになった感じだよ。ゴ-レム系のモンスターが工房を手に入れて一番恩恵があるモンスターかもしれない。今までは中古を弄るしかなかっただろう?』
「カメラ君は殆ど新品じゃない?」
『いやいや、カメラ君は見た目は似た感じだけど、アレはゴーレムとは言えないよ。いちいち精霊をテイムしてボディを用意しなければいけないから、量産に向かないし』
「……量産できんの?」
『できるよ。このダンジョン内にいるゴーレムならボタン一つでOKさ。素材はいるけれどもね』
「それは熱いなぁ……」
その素材採集だってモンスター達に集めてもらえるんだし、完全自動化待ったなしだ。
こいつはダンジョン内労働事情に革命が巻き起こりそうだった。
『ひとまず何かゴーレムを作ってみては? 君はゴーレム制作用のスキルを持っているから、完ぺきにこの部屋を使いこなせると思うよ? どんな奴がいい?』
「ホントに? うーん……そうだなぁ」
しかしそんな風に振られるとなかなか難しい。
ゴーレムの大軍団を作って、城の防衛?
はたまた空飛ぶゴーレムを作って制空権をとる?
いやいや、そんなの攻めてくる敵すらいないのに後回し後回し。
ならばと思いついたのはもっと実用的なものだった。
「城の管理用ゴーレム作ろう。掃除と書籍の管理がめちゃめちゃ便利になるやつ」
『……なんかゴメンね?』
「うん。僕は必要なことだと思いますね。知っているかい? 収集癖のあるオタクの一番の課題は集めた後の管理と清掃だって」
『……うーん確かに』
それを丸投げできるなんてことになれば、まさしく神機能。
この城の価値がサブカルチャー研究部内で爆上がりすること間違いなしだと僕は確信していた。




