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REPORT:テラリウム・ワールド ―虫けら異世界道蟲―  作者: Hexapoda
憧れの君へ、七つ星に願う
35/53

寄り道と言う名の突発的行方不明

仕事が忙しくて物理的に更新無理でした。はい。

取り急ぎ次話投稿します。ぼちぼち再開できる、と思います多分。


 さて、蟲籠が主導で行っているこの調査。

 調査とは銘打っているが、その実やることは見かけた蠱獣をとにかく倒していくことが基本になる。

 ひたすら周域から浅域にかけて、出会ったものを倒して記録し続ける。ついでに危険そうなものは倒して数を減らせれば良し、何も異変が無ければ素材も潤って尚良し、なんて具合だ。


 先ほど、目的について「建前上は」何て言ったが、それも当然、外界なんてものは、人が把握するにはあまりにも広大すぎる。

 対外的な調査目的としては自然環境がー、とかそれに伴う脅威がー、とか色々と小難しいことを掲げてはいるが、実際にその一つ一つをちゃんと確かめるなんてことは到底不可能だ。

 となると、出来るだけ簡素に、簡便にそれらを評価することが求められてくる。


 そうした時に役に立つのが、何の皮肉か、この世界の人の隣人たる蠱獣であった。


 この蠱獣はこういったときによく見かける、この蠱獣はこういった場所で発生する、などなど。人類が積み重ねてきた情報と経験は、なんだかんだ膨大だ。

 中には迷信染みた言い伝えのようなものもあるが、理屈は分からずとも、それが一つの目安となるのであれば、使わない手はない。


 そうして、調査中に色々な蠱獣を倒しながら、何かしらの目安として蟲籠から定められた「指標種」を見つける、もしくは見つからないことを確認することが、調査に於ける実質的な目的となる。



 結局、これらの調査は別に地球のように自然環境を維持するために行われるわけではなく、最終的には人が生活するのに弊害のある変化が無いかを調べる、というところに帰結する。

 これらの情報が有効に使われるのは大概が街を捨てて移動するかどうかの最終的な判断基準としてになる。どんなにあがいたところで、人では所詮環境の変化による大きな流れは止められないのだ。





「さて、それではあらためて、であるな」

「あれ、こっちなんだ」

「うむ」



 しかつめらしい顔つきで、雑用組に回ってきたマンティがイオの元へと寄ってきた。

 思ってみれば、彼と知り合ってそれなりの時間が経ったが、調査で一緒に行動したことはあんまり無かった気がする。



 調査時は戦闘組とそれ以外の2つに分かれることがほとんどだ。

 実際はもっと色々と入り乱れているけれど、基本的に主力部隊たる戦闘組が蠱獣との戦いの大部分を受け持ってくれて、他は荷運び組etcと残る調査組、そしてそれらを護衛する少数の戦闘組で成り立っている。


 マンティ(こいつ)なんかはそれなり以上に戦えるので、戦闘組が少ない時はそっちに割り当てられることも多く、不服そうに愚痴られたことがあった。



「こっちの方が落ち着いて食事がとれる。その一点のみでもここに配備された価値があるものよ」

「相変わらず食い意地張ってんなぁ」



 なんでも、戦闘組だといつでも戦えるように食事も急いで食べることが望まれるのだとか。

 ゆっくりと食事がしたい身からすれば、耐えがたかったのだろう。イオには縁のない話だ。


 そもそも、マンティみたいな調査員リサーチャーは彷徨者としては結構貴重だったりする。

 調査員、といってもやってることは斥候とかそんなものが近いだろうか。彼らは直接戦闘には加わらないが、蠱獣の様子や地形などの色々な情報を確認し、生きて帰ることが求められる。その性質上、生存能力が問われるため、戦いの苦手な人がとりあえずで選ぶことが多い。あと、同定士までいかなくても、それなりに知識のある人が多いのも調査員の特徴だろう。

 けれど、彼の場合はそこにそこそこの戦闘力も兼ね備えているため、何かと自由が利くのだ。


 どうしても同定士なんかは知識方面に特化している一方で、全然戦えない人も多く、戦闘集団に混ざるには非常に危ないのだ。

 そういったときに、彼みたいな人員が居てくれると蟲籠としてもありがたいのだとか。



 まあ、イオとしても話し相手が居るのは暇つぶしになるので、ちょっと嬉しかったりする。

 いつもはなんとなく集団の後ろに紛れ込んで黙々と素材を回収して街に戻って解散、ということが多かったのだ。


 べ、別に寂しかったわけじゃないんだからねっ!



 心の中で何かに言い訳をしながら、マンティと取り留めのない会話をしつつ、草地を進むのであった。




蟲  蟲  蟲




 流石は森林の国か。少し進めば、あっという間に辺りが木々に囲まれる。

 その森の中を見渡せば、視界の端々に人の姿が映り込む。

 ここまで外界に人が溢れかえっている様子を見るのはこういった調査の時か、掃討作戦の時くらいだろう。



「そっち行ったぞ! 追いかけろ追いかけろ!」

「ああ、クソ! あがぁああ! 鬱陶しい動きしやがって!」



 調査が始まったとは言っても、まだ周域も周域。街からそう離れていないこともあってか、さして危険な様子も見られない。

 先行する戦闘組を追いながら、のんびりと好き勝手歩いて、おこぼれや目ぼしい素材を回収していく。



「くたばれ、この野郎!」

「おっし、仕留めたぞおぉオオオ!」



 うん。



「とりあえず、模様的にアレ、オスじゃなくてメスだと思うけど、それは突っ込んだら負けかな?」

「言葉の綾と言うものではなかろうか」

「そもそもそこまで考えてない可能性」



 あの種類、性的二型で雌雄で模様違うから、野郎って言うのは違うよなぁ。




 蝶々を追いかけるのが、純粋無垢な子供の特権と思ったら大間違いだ。

 『蝶々さん待って待って~!』なんてお花畑を駆けまわり、蝶々を追いかける光景は、こんな世界じゃそれこそファンタジーである。

 前の世界でだって、ガチで蝶追っかける人とか、超絶全力ダッシュかましてたからな。

 そして側溝に足取られて踏み外して思いっきり身体打ち付けるのな。アレは痛い。



 武器を手に、ひらひらと舞う蝶を殺気を込めて追い回す男たち。地面を駆け、人によっては周囲を飛び回りながら包囲網を狭めていく。

 間違っても牧歌的な光景なんてかけらも見られなかった。


 うん。まあそうなるよね。やるならガチで追っかけないと。頑張って。てか、いくら暇だからってわざわざ無駄に体力使わなくてもいいのにね。




 盛り上がっている彷徨者たちを目の端にとらえながら、こっちはこっちで色々と拾い集める。

 拾うものは色々だ。戦闘組が倒した破片もそうだし、普通に蠱獣同士が争ってバラバラになった死体だって落ちている。

 その中から使えそうなものを選別して荷車へと持っていき放り込んでいった。



 どうせ自分で持って行ける分なんて限られてるのだから、余程高価なものは除いてとりあえず全部蟲籠の回収用の荷車に入れてしまうのが一番だ。

 他にやることも無いし、しばらくはこんな感じだろう。



 木々が乱立した中、しっとりと湿った地面に割と大き目の枝が転がっている。それらの間を抜けながら、あるいは枝をどかしながら、いくつかに分かれた巨大な荷車を引っ張るのは、力自慢の彷徨者たちだ。

 荷車には必要な物資であったり、今みたいに回収された素材が積まれている。

 そしてその周りには回収要員やらこっち側に詰めている調査員やら護衛役の戦闘員たちが集まって、談笑している様子が伺えた。


 これも実に一般的な調査時の光景だ。



 大掛かりな調査にしては、割と緩やかな雰囲気で大分緊張感がないと思うかもしれないけど、周域だとだいたいいつもこんな感じだ。

 今回は原因が原因なだけにいつもよりは気を張っているが、一番危険な部分とかは戦闘組とか中心のファミリーが引き受けてくれるので、こっちに厄介ごとが回ってくることなんてあんまりない。

 浅域に入ったらどうせそのうち忙しくなるので、ゆっくりできるうちはゆるーくしておいた方が良いのさ。


 とは言っても、あんまり気を抜きすぎると思わぬ悲劇に見舞われることだってある。

 例えばこれはよく新人への教訓として使われる話なのだが、森の中での死亡例の一つとして、蠱獣の幼虫の糞に直撃してお陀仏、なんてことがあったりするのだ。


 考えても見れば分かることだが、小型種ならともかく大型種の幼虫なんかになると、当然その糞もかなりのサイズになる。

 鱗翅種の幼虫なんかは樹の上の方で食事をするものも居るので、幼虫が密集してる場所だとあちらこちらの上空からそれらが降ってくる。

 その為、それらにも気を付ける必要があるわけだが、中にはそれらを勢いよく飛ばしてくる厄介な奴もいる。


 こっちの身体以上の巨大な糞がかなりのスピードでぶつけられるのだ。いくら元が植物の食べカスを固めたものと言っても、モノによっては充分凶器になりえる。

 事実、それで死んだ彷徨者が居るって辺り、笑えない話だ。イオとしてはそんな死因は極力ご遠慮願いたいものだ。



「そういや知ってる? 暴飲暴食の……ってあれ? マンティ? おーい、マンティ?」



 あー……またどっか消えてるよ全く。今度はどこに行ったんだ?


 返事が無く隣を見れば、先ほどまで居たはずのお仲間の姿が忽然と消えている。

 これが知らずのうちに何かに襲われて、とかであれば心配の一つや二つするわけだが、何のことは無い、話し途中に勝手に道を逸れて消えただけだろう。

 てか彷徨者なんて奴らは、かなりの確率で突発的に行方不明になるからな。そんでもって、ひょっこりと道なき道から姿を現すのだ。



 はぁ、しゃーない。先に進んで――おや?



 マンティに呆れ、顔を上げたイオの視線の先に、青みがかった白いキノコがぽつんと生えていた。あれは、獄氷茸かな?

 食用としては向かないが、火をつけると周囲の熱を吸い取って一気に爆発する面白いキノコである。

 爆発するのに合わせて周りを凍らすため、色んな使い道があり、ちょっとした悪用も出来る代物なのだが、生ものだから保存がきかないのよね。


 それでもちゃんと蟲が付いてるんだよなぁ。

 毎度毎度思うけど、こういった辺鄙な危険物を餌に選ぶ生き物ってどういうプロセスを経てこれを食べるようになったんだろう。

 餌の競争率は低そうだけどさ。



 吸い寄せられるように道を外れて、獄氷茸に近寄っていく。ぼちぼち小型蠱獣がたかっているのを避けながら、ロッドで端っこの方を殴ると簡単に破片が千切れ飛んだ。

 一瞬集まっていた生き物たちがざわつくものの、すぐに平静を取り戻す。イオは飛んで行った破片を拾いに行った。



 うーん、キノコ類の判別にはあんまり自信ないけど、多分あってる……はず!

 ちょっとカッコつけて指を鳴らしながら蠱術で火をつけてみる。

 すると、キノコの破片の周りで、目に見えるくらいに霜が降り、ボンッと少々派手な音を鳴らして四散した。



「うん。間違いない」



 いや、面白いものを見つけた。あともうちょっと取っておこう。何に使うか分からないけど、とりあえずだとりあえず。

 そうして同じようにキノコの端っこの方をいくらかちぎって背嚢に放り込むのだった。



 ホクホク顔の満足な様子で、イオは集団へと合流するとそこには何かの幼虫をひっつかんだマンティの姿があった。

 こいつ、目ぼしいの見つけて一人で取りに行ってたな?



「どこいってたのさ。急にいなくなるとか」

「む、申し訳ない。少々旨そうな幼虫を見つけた故。ところで、イオ殿は一体どこに」

「ん? ちょっとした野暮用だよ」



 おっと、背嚢の締め方が甘かったのか獄氷茸が落ちてしまった。そっと拾い上げてもう一度背嚢へと閉まってしっかりと口を閉じた。


 そして視線を戻すとマンティと目が合った。


 お互いにお互いを見つめ合い、開いた口を閉じる。

 今この瞬間、口にせずとも意思の疎通は完璧であった。


 何のことは無い。結局同じ穴の狢である。



「……さ、僕らも進もっか」

「……そうでござるな!」



 さあ、急がないと、置いていかれるよ!


(この昆虫を擬人化したかわいい女の子キャラは、模様とか形的にオスですよね?)

と突っ込むのはタブー。

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