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REPORT:テラリウム・ワールド ―虫けら異世界道蟲―  作者: Hexapoda
憧れの君へ、七つ星に願う
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蟲津波と繁栄の残滓

誤字報告というものを初めて受けました。

時間を割いていただきありがとうございます。


 3日目に入り、周域から浅域へと差し掛かったあたりで、様相が変わってきた。

 流石にここまで来ると、周域ほどのんびりとしていられないくらいには、蠱獣の数も増えてくる。そしてそれに従って、戦闘組がうち漏らした蠱獣がイオたちの方へも襲い掛かってくるようになったのだ。

 単純に遭遇率が増えている、というのはあるだろうが、それにしては種類が多様過ぎる気がする。数も群れってほどではないけど、それなりの数で、割とキツイ。


 大体蠱獣の群れに会う時なんて、その大部分が単一の種で構成されていることが多い。最近だと月下蟲なんかが良い例だ。色んな生き物が仲良く手を取り合ってなんて、そんなことがそうそうあるわけないし、そう見えたとしたら大体どっちかがどっちかを利用してるとかそんなオチだ。雑多な場合もなくはないだろうけど……。


 アシダカーハのせいかどうかは分からないが、少なくとも無影響とはいかなそうかね?

 まあ、最終的に判断するのは街のお偉いさんとか蟲籠の偉い人とかそこら辺だ。こっちで細かいことを考えても仕方がない。





 また何かが来たようで、前方でドンパチやってるのが、視覚的にも音的にも伝わってくる。そして、その隙間をすり抜けて懐かしのワンダリングファーガが、こちらへと向かってきた。

 久しぶり、その節はお世話になりました出来れば会いたくなかったよ。本当、こいつらどこにでもいるな。



「ふむ」



 それを見て、一言呟くと、音を立てずに前へと進み出るマンティ。

 動きは静かに、そしてユラユラと体を揺らしながら、滑らかに蠱獣と距離を詰める。

 どこか機械的に緩急付けながらこちらへと走ってくるそれに対して、左側へと回り込むような足さばき。そして束の間の静止。



――――キン



 微かに聞こえた金属音と、そして突進してきていたワンダリングファーガが勢いを無くし、そのままバランスを崩して右へと倒れ込む。ボトリと倒れたそれをよく見れば、脚が半ばから断ち切られ、胴体も継ぎ目で二つに切り離されていた。


 一体、どのタイミングで武器を抜いたのか。それを為したマンティは手に持った片刃の剣をしかめっ面で見つめながら鞘へと納めた。



「お疲れさん。流石だねー」



 イオたちがあれだけ苦戦したワンダリングファーガを、ものともせず一刀の下に切り捨てるあたり、三本脚は伊達ではない。

 と言うのに、本人は浮かない顔だった。



「こうも”はいぺーす”で来られては、武器が持たぬよ」



 中型を倒した調査員は、そうぼやきながら替えの武器を荷車へと取りにいく。

 これで何度目か、いくら蠱獣を倒せるからと言って、何も消耗しないわけが無い。どんなに強い蠱獣の素材で、どんなに丈夫な素材で作られた武器であっても、不壊なんてことはあり得ない。

 本人の体力はもちろんのことだが、それ以前にどんなに柔らかい蠱獣を斬っていたとしても、いずれ武器は摩耗して使い物にならなくなる。一応整備員も随行していない訳じゃないけれど、焼け石に水だ。

 特に外皮の硬い中型以上や鞘翅種なんかは下手に刃のあるものよりはむしろ雑に扱える鈍器の方がコスパはよいと思う。通用する実力があるかは置いといて。


 よしんば武器を丈夫にしたところで、大型なんか相手にしたら武器毎踏み潰されて死ぬんだ。やっぱ質量って凶器だよ。



「中型は、倒す分には良いのだが、攻撃をまともに受けておらぬのにこれでござるからなぁ。果たして調査が終わるまでに保つか否か。拙者、受け流しは得意ではござらんし……寧ろそれはイオ殿の方が得意であろう?」



戻ってきたマンティがそんなことを宣った。



「何が楽しくて耐久レースをしろと?」



 倒す分には、なんて前提として倒せるから言えるんだぞ、全く。

 それと、やれるかどうかはさておき、倒せないのに耐久地獄に陥ることほど辛いものはない。ただひたすらジリ貧なだけだし、そんなものに体力を使ってられるか、って話だ。



「それにしても気のせい、で片付けられないくらいには数多いよね?」



 物凄く多い、って程ではなくても、普段の浅域に比べれば蠱獣の数は明らかに多い気がする。



「ううむ、これが蟲津波の予兆であるか……?」

「いんやぁ……、アレに比べればまだ全然優しいよ」

「――ああ、さようか。イオ殿は蟲津波を……」

「幸運にも当事者じゃなかったけどね」



 イオの記憶がある中で、蟲津波――蠱獣の大量氾濫を経験したのはたったの一回だ。

 けれど、その一回は非常に鮮烈な記憶として残っている。



 あれは7年前か。今ではクリスピューラの悲劇として呼ばれている蟲津波の記録である。

 概要としては老朽化の進んだツリータウンに不特定多数の蠱獣が大量に発生し、街が丸々一つ亡びた、というものだ。

 イオは当時、それの補助人員として参加していたわけだが、結局その災害で最終的に助かったのは僅かであり、街の住民の大多数が命を落とした近年でも特に悲惨な災害だ。


 思えば、あの時初めて暴飲暴食の存在を知ったのだったか。決して被害が少なかったとは言えないが、彼女らが居なければ、もっと被害は大きくなっていたことは必至だろう。



 その後、一度街のあった近くを通ることがあったが、そのツリータウンの残骸を何と表現したらよいのだろうか。滅びとはこのことを言うのだろう。そう言いたくなるような状態だった。

 街だった樹は食い荒らされてあちこちがボロボロで、立ち枯れた状態だった。青々と茂っていた葉は全て枯れ落ち、乾いた肌に力をなくして途中で折れた幹、そしてあちこちに空いた穴たち。

 樹皮だと思ったものは全て蟲、遠目から見てもやがかかっていると思ったらそれも全て蟲。ここで人が暮らしていたなんて、到底信じられないような姿がそこにはあった。




「今のところ、デスウォッチャーの姿は見かけちゃいないから、まだそこまでじゃないと思う。まあ、それもこの調査次第か」



 街が滅ぶ予兆としての指標種とされているデスウォッチャーは、ツリータウンが甚大な被害を受けるような災害前に必ず現れる蠱獣である。

 それ自身は攻撃性を持たないが、蟲津波――蠱獣の大量氾濫による被害が起こる少し前に姿を現し、何をするでもなくジッと街の周りで様子を伺う姿が、「死を見届けるもの」として気味悪がられているのだ。


 この蠱獣が周域に現れた場合は、ほぼ街を捨てることが確定するため、出来ることなら出会いたくない蠱獣でもある。



「今回の調査で奴らに遭わないことを願いたいね」

「全くでござる――行って参る」

「行ってら」



 そこで会話を切り上げると、マンティは今度は別のところへと向かっていった。

 同時に再び抜けてきた小型蠱獣がイオへと躍りかかってきた。



 荒事は本当、専門じゃないんだけどな。くあーー! しゃーない、やってやらぁ!



 イオはロッドを構えて、蠱獣を迎え撃ったのだった。



蟲としての性質は違うけど、つまり見た目はシバンムシ(死番虫)。

家でよく見るな、って思ったら乾麺の蕎麦をポリポリ食べて増えやがってたことがありました。

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