第54話 新たな問題は開拓村から
いよいよ再投稿を始めました。
よかったらお付き合いよろしくお願いします。
「宰相さまあ、おめでとうございます!」
「コーネルさまあ、綺麗!」「可愛い!」「かっこいい!」
ノーブル辺境伯とローザフラウ侯爵令嬢の結婚式からはや5年。
宰相アーキリム侯爵と騎士コーネル男爵令嬢の結婚式が盛大に執り行われようとしていた。
王都の中央教会、ローザとノルは辺境伯領の教会で結婚式を挙げたが、アーキリムが宰相となっている今、自分の領地で、と言う選択肢はなかった。
この王国をあげて祝福ムードとなっている中、アーキリムはコーネルとともに幸せそうに笑顔を民衆に振り撒いていた。
だがコーネルはアーキリムが何故か意気消沈していることに気づいていた。
控え室でコーネルが心配そうにアーキリムに問いかけた。
「アーキリム、宰相ともあろうものがどうしたのだ。このように盛り上がっている中、そんなに元気がないとは。やはり騎士伯を持つとはいえ男爵家の娘である私との結婚が嫌なのか?」
「それは違うよコーネル、君との結婚は嬉しすぎて幸せすぎて怖いくらいだ……。私が宰相に就任などしていなければもっと早くしたかったくらいだよ」
「ではどうしたと言うのだ?」
「ああ、うん。神の守護を受けた神聖・ノーブル辺境伯領、そしてこの王国。私がこのまま王国の宰相などできるのか、と言うことに自信が持てなくてね」
「そうか。ふふ、アーキリムらしいのということか。しかしローザ様のおかげで我々も今この幸せの時を迎えている。今日は楽しもうじゃないか」
アーキリムを笑顔で励ましながら、コーネルはここ数年の出来事を思い出していた。
あれはノル様とローザ様の結婚式から1年が経った頃、つまり今から4年ほど前、辺境伯領では大きな事件が起きようとしていたのだ。
(ここから基本的にローザフラウ視点です)
……夫ノーブル辺境伯が執務室でいつものように書類の決裁をしている。私は様子を伺うように部屋に入って行く。
「どうしたローザ、遠慮なく入ればいい」
「はい。ただ仕事の話ではないものですから。えっと、来週の私たちの結婚1周年パーチィのことで相談が」
「そうか、大事な話じゃないか」
結婚して早くも一年が過ぎた。この一年、幸いにも特に大きな問題や事件もなく過ごすことができていた。
大きく変わったことといえば先日、アーキリムお兄様がついに宰相となったことだろうか。
ジョージヤン新国王の就任一年を機に、アーキリムの宰相修行と前任からの引き継ぎが終わったという体で就任したのだ。
この辺境伯領は、かつての荒廃した土地が嘘のように豊かな領地へと変わり、畑の地中に潜んでいた瘴気は、浄化魔法によって浄化され、作物の収穫量も安定している。
種を蒔いても芽が出ない土地が珍しくなかったが、今では、どの村でも豊かな実りを期待できる。
ただし、問題がなくなったわけではない。
「結局、足りないのは人手か」
執務室で収穫報告を確認していたノルが思わずため息をついた。
「そうね。土地はあるのに耕す人間が絶対的に足りないわ」
私も書類を見ながら頷く。
パーティの相談の後、2人は領地の今後について話し始めていた。
領外から移住者を募ることも考えているが、まずは今いる領民たちの生活を安定させることが先決だ。
怪我や病気を抱えている人には治療を施し、健康を取り戻してもらう。
それから、奴隷の受け入れも始めていた。
もちろん、奴隷といっても一括りにはできない。
借金などの事情で奴隷となった者については、一般領民として受け入れ、一定の条件を満たせば自由民としての道も用意する。
一方、犯罪奴隷については慎重にならざるを得なかった。
「犯罪奴隷の受け入れは、予定通り進めるのよね?」
1年前から慎重に検討し、準備を進めてきた。
「ああ、ただ一般の領民とは最初から一緒に暮らさせるわけにはいかない」
「そうね、魔法契約も必要だわ」
「そうだな。他の領民に危害を加えないこと、逃亡して犯罪を繰り返さないこと。最低限、それは守ってもらわないと」
犯罪奴隷には、一般奴隷よりも厳しい制限を設けた。
一時受け入れ後の居住区からの移動も一定期間禁止する予定だ。
彼らを受け入れる以上、領民の安全を守るのは領主家の責任だ。
こうして、他の集落から離れた場所に犯罪奴隷のための開拓村を建設することになった。
ところが、その判断が思わぬ事態を招く。
開拓村も完成し、住民の受け入れが完了してわずか数週間後。
「旦那様! 奥様! 緊急の報告です!」
駆け込んできた騎士の表情は青ざめていた。
「どうしたの?」
「犯罪奴隷の開拓村から、大量の瘴気が噴き出しています!」
「……え?」
思わずノルと顔を見合わせる。
瘴気は、これまで私が浄化してきたはずだった。
それなのに、どうして?
「村の住民は?」
「一部が逃げ出しています。しかし、周辺の集落からは受け入れを拒否されており、行き場を失った者たちが不満を募らせています」
「相手は犯罪奴隷だ。受け入れを拒否する気持ちは理解できる。だが事態が事態だ、なんとかしなければ」
私は嫌な予感がした。
「まさか、瘴気が噴き出した原因を犯罪奴隷たちのせいにしているの?」
「はい。一部の領民の間では、彼らが来たから瘴気が復活したという噂まで流れています」
私は額に手を当てた。
そんなはずはない。
犯罪奴隷たちが来る前から、あの土地には瘴気が存在していたはずだ。
それに、瘴気は人間が悪事を働いたから発生するものではない。
「ノル、すぐに現地を確認しましょう」
「ローザ、わかっているとは思うが無茶だけはするな」
「無茶をしたことはないつもりですが?」
「……不安だ」
「そ、それと、犯罪奴隷の村を孤立させられないわ。危険な状態なら避難させる。彼らを見捨てることは決してしないわ」
「当然だ、俺もいく、準備を急げ」
「承知しました」
騎士は慌てて部屋を出ていった。
領地は豊かになった。
けれど、土地が豊かになっただけでは、人々が幸せに暮らせるとは限らない。
今度の問題は、土地ではなく人の心にも原因があるようだった。
そして、この小さな開拓村の問題が、やがて王国全体を震撼させる大事件につながっていくのだった。




