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[感謝650pt、90,000pv]“忌域”の辺境伯様に嫁がされた私、ハズレスキル「清掃」で荒廃領地と『王国の詰まり』を大掃除!  作者: 積と和〝
第3章 王国の詰まり一掃します

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番外編2ー1 変わっていく人々

 私、アーナは、ずっと不思議に思っていることがあった。

 奥様は、いつから旦那様のことを「ノル」と呼ぶようになったのか。

「ノル様と呼んでいた時、旦那様と呼んでいた時、どちらも必ず“様”は付けていた、その方が奥様らしいのに」

 もちろん、本人たちの前でそんなことを口にしたことはない。けど、気になって仕方がない。

 ただ周囲の人たちは、なぜかあまり違和感を覚えていないようだった。

 それが、どうにも不思議だった。

「ねえ、コーネル、ひとつ聞いてもいい?」

 ある日、仕事の合間に顔を合わせた奥様の護衛騎士コーネルに、私は思い切って尋ねてみた。

「ああ、構わない。どうしたアーナ?」

「奥様が旦那様を『ノル』と呼ぶようになったのは、いつからか知ってる?」

 コーネルは一瞬きょとんとした顔をした。

 それから、すぐに何かを思い出したように目を細める。

「結婚式の時から、だな」

「……え?」

 思いもよらない答えに、目を丸くした。

「結婚式の時?」

「ああ」

 コーネルは穏やかに頷いた。

「あの時、ノル様は奥様を庇(かば)って刃物で刺されただろう?」

「うん……。あの時は、本当に驚いたわ」

 あの日の騒動は、私の記憶にも鮮明に残っている。

「奥様はそこにいた瀕死の3人、奥様の両親とノル様だ。奥様は誰よりも早くノル様の治療を行なった」

「うん、覚えているわ……」

「ああ。ただ、ノル様は自分よりも先にローザ様の父親を治療すべきと言われて、なかなか首を縦に振らなかったのだ」

 私は、思わず苦笑した。

 いかにも旦那様らしい。

「それで、奥様は?」

「『一番はノル、愛しているから』と言って、決して引かなかったのだ」

 コーネルの声が、ほんの少しだけ柔らかくなった。

「その時からだな。奥様がノル様を、ノルと呼ばれるようになったのは」

「……そうだったのね。でも奥様がそこまで言うなんて」

 私は静かに息を吐いた。

 呼び方が変わった、たったそれだけのこと。

 けれど、その一言には、きっと多くの意味が込められていたのだろう。

 命の危険にさらされた旦那様を見て迷わず手を伸ばし、誰よりも大切な人なのだと告げた。

 その瞬間から、奥様の中で何かが変わったのかもしれない。

「奥様の成長と、ノル様への愛情の証なのだ」

 コーネルは、ふふ、と優しく微笑んだ。

 その笑顔を見て、私は別のことにも気がついた。

 ――コーネルも、変わったわね。

 以前の彼女は、もっと不器用で、どこか張り詰めた雰囲気をまとっていたように思う。

 もちろん、今でも騎士としての厳しさは健在だ。護衛の任務にあたる時の目つきなどは隙がない。

 けれど、最近はこうして柔らかく笑う姿を目にすることが増えた。

 その理由も、なんとなくわかっていた。

「ローザ様の兄上であるアーキリム様。やっぱりそれよね」

 あの方とお付き合いをされるようになってから、コーネルの表情はずいぶんと豊かになった気がする。

 ふとした瞬間に見せる優しい微笑み。誰かと話している時の、楽しそうな横顔。

 そうしたものを見るたびに、私は少しだけ嬉しくなるのを感じた。

 人は、こんなにも変わるものなのだ。


 そう考えると、もうひとつ、思い浮かぶ顔があった。

「リアル、あの子も別人のよう」

 私の息子である彼も、もうすぐ七歳になる。

 奥様のおかげで瘴気中毒が完治してからというもの、見違えるほど元気になった。毎日を精力的に過ごしている。

 最近は、ローザ様のお子様の従者になることを目指して、勉強に励んでいる。

 もっとも、結婚間もないローザ様には、まだお子様はいらっしゃらないのだけれど。

 それでも、リアルは目標を変えようとはしない。

 そのひたむきさが、我が子ながら微笑ましかった。

 ――みんな、少しずつ変わっていくのね。

 私はそう思った。


 そして、変わったといえば、まだまだ驚くことがある。

 騎士団の人事だ。

 マッツガイ副団長が騎士団長に昇進した。

 そこまでは、まだ理解できる。

 旦那様が、環境が改善されたこの領地の執務に専念するため、騎士団長を退任されたのだから、後任が必要になるのは当然だ。

 これまで副団長を務めてきたマッツガイがその座を引き継ぐのは、順当な流れだろう。

 問題は、その次だった。

 あのダートウェルが、副団長に昇進したのである。

 いまだに少し信じられない気持ちだった。

 もちろん、彼だって騎士である。日々の鍛錬も、任務への取り組みも、決して怠っていたわけではない。

 けれど、副団長という役職に就く姿を想像できたかと聞かれれば、答えに困ってしまう。

 そんなことを考えていた折、当の本人がぼやいている声が聞こえてきた。

「俺、驚いたっす」

 ダートウェルだった。

 向かいにいたコーネルが、即座に言い返す。

「ダートウェル、それはこっちのセリフだ。腰が抜けるくらい驚いたわよ」

「ひどいっす! 普通は『そんなことない』って言ってくれるもんでしょ!」

「だって、本当に驚いたんだ」

「そこは少しくらい気を遣ってほしいっす!」

 ダートウェルが情けない声を上げる。

 コーネルは悪びれる様子もなく、くすくすと笑っていた。

 そのやり取りを耳にして、思わず口元を緩める。

 なんだかんだと言いながら、彼らはうまくやっているようだった。

 マッツガイが団長となり、ダートウェルが副団長となる。

 それもまた変化のひとつ。

 人は経験を積み、誰かと出会い、少しずつ成長していく。

 そうして変わっていく姿を、周囲の者たちが見守り、支えていく。

 みんな、変わっていく。いい方向に。

 そう思えることが、私には嬉しかった。


 けれど。

 それでも、どうしても気になることが、もうひとつだけあった。

 いや、ひとつだけというには、あまりにも大きな問題である。

夕方もう1話投稿します。

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