第53話 みんなで幸せになるために
私は一瞬迷った。ノル様も父も心臓かその周辺を刺されている。そして母も瀕死だ。
だがノル様から治癒を始めた。
何せ背中に短剣が刺さったままだ。
「俺はまだ大丈夫だ、お父上からやってくれ」
ノル様はそんなことを言う。
「いやです」
わたしにしては珍しくはっきり拒否した。
「わたくしは聖女ではありません。ノルが一番重症です、が、それだけではなく……自分が愛する人から治癒します。そんなこと神に許されないかもしれませんが」
あまりにはっきりした物言いにノル様は黙り込む。
「コーネル、私は治癒魔法をかけ続けますから、私が声をかけた瞬間に短剣を抜いてください。全力で傷を塞ぎます」
「はっ、お、お任せください……」
いつもより少し声が小さい。
でも頼れるのはコーネルだけ。
「では準備して」
ノル様を横向きに寝かせコーネルが短剣を両手で掴んで足をノル様の背中につける。
「旦那様、足蹴にしますがご容赦を」
コーネルがノル様に声をかける。
「ああ、任せた」
「せーの! 抜いて!」
声をかけた瞬間コーネルが思い切り引き抜き、私は全力で治癒魔法をかけ傷口を内臓側から塞いでいく。
一瞬ものすごい勢いで血が吹き出したが直ぐに治る。
「これで、これでいいはずよ。ノル、どこか違和感はない?」
「ああ、もう大丈夫だ、血が少し足りないか?」
ノル様が苦笑いをした。
これならもう大丈夫そう。
ほんと、前世にも魔法があったら、と改めて思った。
「コーネル、ノルをお願い」
私は父の治癒に向かう。
「治癒!」
父も重症で出血も多かった。しかしなんとかギリギリで命は取り留められた。
出血が多い、さすがにすぐには立てないだろう。
(次はお母さまね)
母の元に向かおうとすると、母の横にいてくれていたダートウェルが首を横に振った。
「いま……息を引き取りました」
「そう……」
みんなに、特にノルに、あれだけのことをされて悲しくなんてならないと思った。
最後まで私をわかってくれなかった母。
だけど何故だろう、やはり泣いてしまった。
でもやったことに後悔はない。
父母を優先したらノルの命だって保証はなかったのだから。
騎士たちやコーネルたちの努力のおかげで他にはけが人が出なかった。
最後に大事なことをコーネルに伝えないと。
「コーネル、ありがとう。あなたのおかげでノルを救えた。母のこと、止めてくれてありがとう。あなたのおかげで多くの命が救われたわ。嫌な役回りばかりさせてごめんなさい。いつもありがとう」
コーネルが嬉しそうに笑ったあと、辛そうな表情になり、声を上げて泣き出した。
どうしようとオロオロしているとアーキリム兄さんがコーネルに寄り添い、優しく慰めてくれている。
ものすごく距離が近い、と言うかくっついてますけど。
いつの間に二人はそんなに仲良くなってたの?
実は、
あの騒ぎの中で兄さんがプロポーズしていたらしい。後日兄からから聞いた時は本当に驚いたわ。
私たちの結婚式、最後に大変な事件が起きてしまったが、元気になったノル様と一緒にみんなの見送りを受けて退場、式は終了となった。
ほかの人から見れば残念な式になったと思う。
決して私も完璧とは思わない。
でも、ノル様との信頼が増したと思う。
今回の結婚式、そして事件、少しはいいこともあったと思いたい。
ーーー
貴族同士の死者も出た事件、王家からの沙汰が行われた。
父は最後には私を助けるために身を呈して助けてくれた。
その事もあって死罪とはならず、5年間の鉱山労働となった。
決して軽い刑ではない。でも頑張って帰ってくると父は言っている。
そしてすでに侯爵位はアーキリムが継いでいる。
だからもし生きて鉱山から戻ってこられたらその時は辺境伯家に父を受け入れたい。
それが父を許したということなのか、私にもまだわからない。
ただ、帰ってきた父に、もう一度だけ向き合う機会を残しておきたいと思った。
その他の者には、母を斬ったコーネルも含め一切お咎めなし、と言うことで治った。
アーキリムは怪我は後遺症などない。それでも修行がなお必要とのことで宰相になるのはまだまだ先。
コルは妹のと一緒に暮らし、騎士団で頑張っている。
フェルミナとエル、ミルは奴隷からの解放後は一部屋ずつあげると言っているのに3人で一部屋に暮らしている。もうそれが一番楽なんだって。なかよし3人組だからいいのかな。
宰相からはさらにムーギが大量に支援された。
実際は預かっていたムーギを50倍にして返そうとしたら再投資という形になったのだけど、多分永久に受け取る気ないわ、困っちゃうくらいにいい人ね。
国王陛下は、ジョージヤン王太子に家督を譲り、新国王となったジョージヤンが辺境を訪問。
レアブラック家と協力して王国を守ることで一致した。
ええ、ええ、わかっていますよ、もちろん王国中の病人治しますからね。
農業技術も出し惜しみしませんよ。
……とはいえ、私一人で全部やるつもりはありませんけれど。
ノル様と相談しながら、仲間たちと協力して、一つずつ進めていけばいい。
瘴気も魔物もなくなった辺境には、豊かな大地が広がっている。
これからはきっと、たくさんの作物が実るだろう。
新しい家が建ち、新しい人々が暮らし、子供たちの笑い声が響くようになるかもしれない。
ここには、夢も希望もある。
そして、私には一緒にその未来をつくっていける人たちがいる。
結婚式では、いろいろなことがあった。
失ったものもある。悲しいこともあった。
それでも、ノル様を救えた。
ノル様と、以前よりも深く心を通わせることができた。
私はノル様の手を取った。
「ねえ、ノル。これからも一緒に頑張りましょうね」
「ああ。ローザとずっと一緒に」
その言葉がうれしくて、私は笑った。
これから先、どんなことが起きるのかはわからない。
ノル様と二人で支え合い、仲間たちと力を合わせて、みんなで幸せになっていこう。
この辺境には、まだまだやりたいことがたくさんあるのだから。
ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます。
これで完結とさせていただきます。
誤字の報告もありがとうございました。
物語の中の多くの人が、希望を持って前に進んでいけるような、そんな終わり方ができたかな、と思っています。
今後、番外編をいくつか投稿したいと思います。
少なくともアーキリムとコーネルの結婚式襲撃での急接近は載せたいです。
その際はまたどうかお付き合いください。
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