第51話 結婚式
領内の巡回が終わってから5ヶ月が過ぎた。
私がこの辺境伯領に来てからはもう一年半以上ということになる。
「今年は大豊作らしいわね。きっと瘴気浄化で気温と日差しが増えたからね」
雨は少し例年より少なかったが、それでもムーギの収穫量は昨年の10倍、品質も良好らしい。
「土の浄化や魔獣が減ったのもあると思います。いつもの年が少なすぎたんです。もうこの地を忌域とは呼ばせませんよ!」
「ふふふ、そうねアーナ。みんな本当に頑張ったものね」
これまでの間、命を落としそうになったり、旦那様となかなか会えなかったり。
あまりにも密度の濃い時間だった。
「まあ初めからノル様には会っていたんだけど」
思わず笑ってしまった。
そういえば最近旦那様をノル様とよぶことになった。
ノーブル様だから“ノル様”、団長さんの呼び方はそこからなのね。
「奥様、いよいよ明後日ですからね、笑みも溢れますよね、ほんとーに長かったわー」
アーナが感慨深げにしている。
そう、結婚式は明後日なのだ。
式の準備は領内巡回終了後に本格的に始めたので、準備期間としてはかなり短い。
でも私が来領してからの期間を考えてみんなもかなり無理をしてくれた。
「アーナ、一番長く感じているのは奥様のはずですよ」
メアリーが私を優しく見つめる。
「そうですよね侍女長。奥様すみませんでした」
「いいのよアーナ、メアリーもアーナもずっと味方でいてくれてありがとう。これからもよろしくね」
二人は笑顔で頷いてくれた。
すでに出席する人たちが屋敷に来ている。
この領地には貴族の人が宿泊できる施設はほぼないので、屋敷に部屋を準備している。
といっても部屋数は限られているので招待した人数があまり多くない。
王族の代理で宰相、そして娘のケイトさん、私の兄アーキリム、あとは懇意にしている貴族数名だ。
私はコーネルとフェルミナを伴って宰相のお嬢様、ケイトの再診のため、泊まってもらっている部屋を訪れた。
「これはローザ様、わざわざ部屋を尋ねていただいて感謝いたします」
宰相が先に挨拶をしてくれた。
「ローザ様ありがとうございます。あれ以来風邪も引かないくらい元気で、逆に父に心配されています」
照れ笑いするケイトの言葉を聞いて素直に嬉しいと思ってしまう。
だって前世でいえば遺伝子レベルで完治したかもしれないってことでしょ。
「お二人に辺境まで来ていただいてこちらこそ感謝しています。とにかく一度確認させてね」
私は今は『清浄化』ではなく『治癒』魔法とされている魔法をケイト嬢にかけてみる。
すると……
「全く、これっぽっちも治癒の感覚がないわ。きっと完治しているわね」
ホント、魔法ってすごい。
「さすがせいじょ……いやローザ様です。もしローザ様が困ったことがあったらなんでも私におっしゃってくださいね」
「ありがとう、その気持ちだけで嬉しいわ」
私とケイトと抱き合って喜び合った。
王都での生活環境のせいで友達がいない私は、ケイトといい友達になれそうですごく嬉しい。
ーーー
式の当日、衣装の準備している部屋にノル様が訪ねてきた。
「ローザ……」
ノル様が固まってしまった。
「私の花嫁は美しすぎる」
顔を赤くしてノル様がそんなことを言う。
「あ……りがとう、ござい……ます。ノル様も、とても素敵で、かっこいいですよ」
「そうか? オレ……私はローザをずっとずっと大切にしていくつもりだ。王国一幸せにしたい」
「もう今もとても幸せなんですが、はい今後ともよろしくお願いします。私もノル様とずっと一緒に歩んでいきたいです」
思わず二人でみつめあう。
(時間が止まってずっとこのままでいられたら……)
「はいはい、仲がよろしいのは結構ですがそろそろ時間ですよ」
メアリーの言葉で我に帰る。ノル様がこちらを向いたまま手を引かれて連れていかれてしまった。
ああ、寂しい。あと数分後にはまた会えるのに。
教会の座席にはすでに参列者全員が座っている。
領内からは知事と娘のカトリーナさん、騎士団、屋敷の使用人、各村や集落の長たちなど領内からはかなりの人数が来てくれた。
街の人は教会の外にも来てくれている。
そんな中、厳かに式は始まり、父の代わりにアーキリム兄さんに乗る様までエスコートしてもらった。
式での誓いの言葉や指輪交換のあと、最後に式場を出ようとした時、私へのサプライズとして孤児院の子供達や領民の子供達を中に招き入れる演出が行われた。
「ローザ様おめでとう!」
子供たちの可愛い声。
「どうもありがとう、とても嬉しいわ」
子供達にそう声をかけつつ、私はノル様の腕に体を寄せ、ノル様の笑顔に応えて微笑みかけた。
私が見知った子達もたくさんいてその場はとても盛り上がった。
コーネルやダートウェル、フェルミナ、エルやミルも微笑ましく見守ってくれている。
しかし……それは、そこにいる全員の警戒と注意が一瞬途切れたことも意味していた。




