第5話 辺境騎士団の団長さん
目覚めてから1週間ほど過ぎた。
ここでの生活も少し慣れてきたが、まだまだ右も左も分からない。
「お待たせしました。騎士団が北の討伐から戻られたそうです!」
アーナさんが私の着替えを中断して、ドアの外にきていた侍従から聞いてきてくれた。
「お礼を言わなくちゃですね。団長さんすごくかっこよかったですから。あ、でも婚約者がある身でこんなこと言ってはいけませんね」
「?…特に問題ないのでは?」
(そう?辺境はおおらかなのね)
「では、挨拶に行きましょう」
「はい」
(トントン)
その時、ドアがノックされた。
静かに扉が開く。
「だんなさm……」
「団長さん!」
あの時の盗賊から助けてくれた辺境騎士団の団長さんだ!
(部屋に直接来るなんて。一応形だけは旦那様、つまり辺境伯様の婚約者なんだけどな。団長さんは命の恩人だからいいけど、旦那様に知られたら怒られないのかな)
「その節はありがとうございました。ローザフラウ・ハーナスです。私がまだ動けないといけないと思って直接部屋まで来ていただいたのですね。でも、レアブラック辺境伯さまに怒られてしまいますよ。命の恩人の団長さんですから、一回だけ黙っていますね。みんなもよろしくね」
アーナさんや一緒に来ている侍従、メイドに釘を刺しておく。
こんなことで優秀な団長さんが場通を受けたら申し訳ない。
団長さん、驚いて周りを見回している。
アーナさん、何その驚いた顔?
「実はまだ私、旦那さまにお会いしたことがないのです。別にお互い好きで結婚するわけではありませんから本当はいいのですが、貴族ってそういうの大事でしょ?」
あ、アーナさん床に倒れ込んだわ。つまずくところないのに。ふふ、逆に器用ね。
「な、なるほどハーナス侯爵令嬢は、オレ、いや、辺境伯…さまと結婚したくはないのか?」
団長さん、そんなこと聞いていいのかしら。
「ローザフラウ、いえローザで結構です。えーと、内緒ですよ、恩人の団長さんだから言いますが」
私はさらに声を落とす。
「私は王命でここに来ました。ですから少なくとも今はお互い結婚したいと思っていないですよ。旦那様のノーブル・レアブラック辺境伯様にしたら私なんか押し付けられて本当に申し訳ないです」
団長さん、惚けて途中から聞いてないみたいだけど大丈夫かしら。
「そうか、元気になったようでよかった。様子を見に来ただけだからな。では私はこれで。あ、護衛を1人置いていく。コーネルだ」
「お見舞いどうもありがとうございました……」
団長さん、ちょっと元気がないみたい。お疲れですもんね。
でもやっぱり素敵、美形だし。命の恩人だからちょっと評価をかさ増ししてるかもだけどいいでしょ。
それにしても、団長さんの髪色シルバーなのね。王家と一緒とは、なかなか高貴な家柄なのかも。
その日の夕方には再び魔物発生の報が入り、辺境騎士団が西へと出発していった。領都から少し離れた場所で、またすぐには帰れないらしい。団長さんともう少し話したかったけど本当に忙しいのね。
ーーー
「……そうか。俺が結婚相手となる辺境伯だと言わない方がいいかもしれん」
魔物発生地へ向かう馬上で騎士団長ノーブル・レアブラック辺境伯は大きなため息をついたのだった。




