第4話 辺境伯邸と侯爵邸の変化
アーナとメアリー
「侍女長、ちょっとおかしいのです」
アーナが珍しく真面目な顔をしてメアリーに話しかけた。
「アーナ、あまり自分のことを卑下しなくていいのですよ」
アーナは一瞬考える。
「違います、おかしいのは私じゃなくてお屋敷です。お屋敷の空気です」
「あら、ごめんなさい。空気?雰囲気ということかしら?」
「侍女長、感じませんか、この空気の軽さ。うーん、何かしら、屋敷から外に出ると外の空気が重く感じるのです」
「ああ、そういうことね。あれは外の瘴気が濃くなって屋敷内が軽く感じているのよ。いつものことでしょ」
「チッチッチ、違いますね」
人差し指を左右に振って偉そうに侍女長に微笑む。
「屋敷の中の空気が明らかに綺麗です。なぜなら、いつもは霞んでしまう長廊下、一番端に立っても反対にある魔法灯が綺麗に見えるのです。そ、れ、も、日を追うごとに明るくなって、今では目の前にあるかのようにクリアです」
「……そう言われてみれば、最近目が良くなった気がしていたわ。そういうことかしら?」
「きっと奥様ですよ。浄化の魔法じゃないですか。ご自分の部屋だけならまだしも屋敷中浄化してくださるなんて素晴らしいわ」
「アーナ、そうは言っても少しずつ、常に空気は入れ替わっているわ。これだけの屋敷を常に浄化し続けるのは不可能だわ」
「そうですか。じゃあどうしちゃったんでしょうね」
ーーー
侍女控室
「ねえ、最近掃除していてもまったく布が汚れないの。窓枠を拭いても床を拭いてもよ」
「私の方もそこまでではないけど、洗濯物の汚れ落ちが早いわ。いい加減にしたらいけないと思って見直すんだけど、いつもより綺麗なくらいよ」
「そう言えば料理長が、鍋に料理がこびり付かなくなったって。何かが起きているわ。いい意味で」
「最近魔獣や魔物の出現が増えていて嫌なニュースが多かったからありがたいわね」
「あとは魔獣たちが減れば最高なのにね」
ーーー
(ふん、ふふん、ランララ、ラン♩!)
ここにきてから5日目、旦那様は相変わらず戻らないけどみんなによくしてもらってるからありがたいわ。
愛されていないのはわかっているからもう旦那様とは会えないのかも。
まあ、別にいいわ。死を覚悟した身で贅沢は言わない。
でもちょっと手持ち無沙汰。
私の命を狙った黒幕は誰なのか、気にはなるけど手がかりがない。
だったら、今できることをしよう。
清掃魔法の練習でもして、ここにいる間だけでもこの領地で役に立ちたい。
この魔法じゃたかが知れているけど、前世の知識を思い出しつつ色々試す。
「空気清浄機」とか「浄水器」とか「汚れ防止加工」の真似事にも挑戦している。
あまり効果が実感できてないのでうまくはいってないみたい。
侯爵家でも浄水とかの実験はこっそりしてた。
でも、ここでは自由に実験できて楽しい!
ちなみに「呪文?詠唱?」みたいなのは前世の言葉にしているの。何言ってるかわからないから失敗してもバレにくいと思って。
ーーー
王都、ハーナス侯爵邸
「おい、最近メシがまずいぞ。料理人がサボっているんじゃないか?」
「あら、あなたもそう思いますか。どうしたんでしょう?どう思うアーキリム」
「はい、料理人のせいではないでしょう。父上、母上、私は妹ローザフラウのおかげで料理が美味しかったと思っています」
「まあ何を言いてるのこの子ったら。ねえあなた」
「そうだぞアーキリム。メシと何の関係があるというんだ。お前は学園をここ10年でもトップの頭脳と魔法力で卒業したんだ。いくら妹でもあんな出来損ないは忘れろ。もう生きてもいないだろうが」
「父上、それはどういう意味ですか?」
「いや、なんでもない。あんな辺境では瘴気にやられてしまったんだろうと心配しているだけだ」
「……」
(はあ、この2人、屋敷の空気も水も悪くなっているのに気づいていないのか。それにしてもあの態度……無事でいてくれよ、ローザ……)




