第42話 聖魔法と宰相の事情
王宮での公爵家糾弾の後は2人とも王都の辺境伯邸に戻った。
結婚式はまだだけど、書類上はすでに夫婦。当然王太子妃候補ではない。
だからもう王家からの監視はないので安心して帰れる。
そして次の日、午前中に先ぶれがあり、午後にはルイード宰相が訪れた。
「ノーブル様、ローザフラウ様、突然の訪問お許しください」
「とんでもない、宰相。今日はどうしたというのだ」
旦那様の問いにルイードは少し迷った。
そして突然に宰相様が床にひれ伏した。
「ローザフラウ様、お願いがございます。どうか私の娘をお助け下さい」
「え、はい? どういうことでしょうか」
ーーー
「まずは謝罪いたします。ローザフラウ様」
私に向き直る。
「実は私は近々宰相を辞するつもりでおります。理由はローザフラウ様を危険にさらす一端を担ったからです」
「危険ですか?」
「はい、ガンダルク元公爵の要求に応じてローザフラウ様の置かれている状況を漏らしていました。それにより金を受け取っていたのです」
「なんだと!」
私は旦那様に手をあげて少し待ってもらった。
「それはまた困りましたね。でもどういうことですか?」
「実は私には娘がおりますが生まれつき重い病を患っており、金が必要でした。ガンダルクにそこにつけ込まれてしまいました」
宰相から詳しい経緯を聞いた。
「要するに、宰相のお嬢さんの治療費を援助する代わりに私の情報を渡すよう要求されていた、ということですね。そのことで陛下と両親の会話や私の辺境へ行く日程などが知られていた」
「その通りです」
「わかりました。よく教えてくれました。反省されているとのことですし、謝罪を受け入れます」
「ローザ、よいのか?」
「はい旦那様」
私は旦那様の手を握る。
「なんと寛容な。本当に、本当にありがとうございます。これからはローザフラウ様に恩返しをいたします。それと、私の後任にはアーキリム様を推薦するつもりです」
「兄、ですか? 嫌がると思いますけど」
「アーキリム様は王宮への出仕は決まっていますが部署は決まっていないはず。まあ、推薦したからと言っても見習いからです。すぐに宰相になるわけではないでしょう。どちらにしろアーキリム様には諦めていただきます」
先日王宮で国王陛下との話し合いで、2人の結婚に文句を言わない代わりにアーキリム兄様の出仕が求められた。兄様は私のためならと、あれだけ拒否してきた出仕を二つ返事で了解した。
お兄様、私に甘すぎですよ。本当に大好き。
「私、お兄様に一生頭が上がりませんね」
「ああ、俺もな。しかしいきなり宰相見習いとは」
「王立学園の歴史でも指折りの優秀さですからね。21歳とはいえ、誰も文句はありませんよ」
宰相の言葉に2人で小さく笑った。
「ところで先ほどの娘さんの病気の話ですが。私に助けて欲しいというのは?」
「はい。ローザフラウ様のスキルは聖魔法の万物治癒があると鑑定されました。これまでの私の行いからして身勝手は重々承知していますが、我が娘の治療に使っていただけないでしょうか」
「それはだめだ。国中に病気で困っているものはいる。宰相の娘だけ特別扱いはおかしい」
旦那様が断る。私もそれはそうかな、と思う。
「はい、私も頭ではそう思っています。娘を思うばかりに身勝手なお願い、お許しください」
意外とすぐに諦めた。さすが、と言うか、無理なことは初めからわかっていたのだろう。
でも僅かな望みにかけてみた。それほど娘さんの病気は切羽詰まっているのだ。
宰相様は謝りながら、青い顔をして辺境伯邸を去って行った。
ーーー
私は旦那様、コーネル、フェルミナ、エル、ミルに集まってもらい相談した。
「旦那様、私はこの王国中の病人を全員治したいと思っています。一人残らずです。手始めに宰相様の娘さんを治してみようかと思っています」
「うん、まあローザならそう言うと思っていた。あれは建前だ。よくあの場は我慢したな」
「はい、もちろん我慢もしました。それより心配があってすぐ行くとは言えなかったのです」
「心配とは?」
「まだ治癒魔法を使ったことがありません。いきなり難病に使うのがためらいました」
「確かにそうだな。簡単な治癒から始めるべきか」
「旦那様、奥様」
コーネルが小さく手を挙げる。
「実は領地にいるアーナからこのことに関連した相談があったのですが、ご報告できていませんでした」
「それはどのような相談なの?」




