第38話 婚姻届と種明かし
ガンダルク公爵家では公爵と娘のフローレンスが対照的な反応をしている。
「みろ、出たぞ、毒の反応だ。これでローザフラウも終わりだ。はっはっ」
「私をこれで弱らせようなんて本当に許せない。今日死ななかったら我慢ならないわ。貴重なアルモンをこんなに使って、もう少しで食べちゃうところだったわ」
「まあ落ち着け。王宮に訴え出て王太子候補の剥奪どころか処刑台に送ってやる」
「当然ですわ。まだ生きていたら、ですけど」
「? 何を言っている?」
ーーー
王宮では早速騒ぎとなっていた。
ローザフラウ侯爵令嬢が王太子妃候補に戻ったばかりなのに殺人未遂で訴えられたのだ。
「毒の反応が出たのは間違いありません。ただ、死亡するような物ではありませんが」
王宮での毒物鑑定でも検出されてしまった。
「それでも公爵令嬢にそのようなものを送ればタダでは済まない。まずは王太子妃候補の停止措置は必要だ」
宰相のルイードが苦々しくいう。
「早速ハーナス侯爵家にはその旨通達し、王宮へ呼び出せ」
口元だけニヤリ、と笑った。
ーーー
王宮から王太子妃候補の一時停止と、それに伴う呼び出しを受けた私は早速準備に取り掛かる。
候補の一時停止ではなく取り消しされると思っていたがそこは誤差範囲だ。
まずはノーブル・レアブラック辺境伯との婚姻を申請した。
この王国では、貴族同士の婚姻に届けは必要だがそれこそ王太子妃候補でもない限り王家の許可はいらない。
その制度を最大限利用する。
無実を証明する証拠を持参するから、と1日時間をもらった。
実は準備はできているが、婚姻申請受理を確実にするため時間を稼ぐ。
次の日、確認をお願いしていた侍女から報告があった。
「ローザフラウ様、王宮総務部での婚姻届の受理は本日付で済んだとのことです」
これでいいわね。
「では早速毒物反応の種明かしに行きましょう」
旦那様が侯爵家に迎えにきて共に登城する。王城の巨大な門をくぐり、王宮前へと馬車は進む。
書類上は本物の夫婦となった旦那様とふたり、王宮へ出向いた。
「旦那様、では参りましょう、必要なものは、ちゃんとありますね」
2人は小袋と魔道具をひとつ持って案内されるまま会議室のような大きな机のある応接室に案内された。
そこで座って待っていると扉が開き、ガンダル公爵とフローレンスが入ってきた。
公爵はニヤけていて、いかにも嬉しそうだが、フローレンスは一瞬驚いたが、その後は私を睨みつけている。
貴族としては感情が顔に出過ぎだ、2人の考えていることがわかりやすすぎる。
程なくして、国王陛下に王太子、宰相というそうそうたる面々が入室してきた。
「今回の案件は公爵家が公爵家を相手に訴えられたものです。また、毒をもった証拠まであるとのこと。侯爵家からの要請によりこのような釈明の場を設けた次第です」
初めに宰相の簡単な説明があった。
「ルイード侯爵、いや宰相殿、何を言っている。娘が殺害されかけたのだ。さっさと処刑したらどうだ」
ガンダルク公爵は宰相にわざとらしく迫った。
「ガンダルク公爵閣下、陛下の御前ですぞ。まあローザ譲の話を聞いてみましょう」
「ガンダルク公爵、わしに話をさせてもらえるかな」
国王が声をかけるとガンダルク公爵が珍しく恐縮している。
少しわざとらしいが。
「わしもローザフラウに話を聞きたかった。なぜ王太子ジョージヤンの妃候補になった途端にそのようなことをしたのだ?」
やっと私も話していいようだ。
「はい、こちらをご覧ください」
旦那様がスカイノ鉱を机に広げた。
「これは……スカイノ鉱か?」
「はい、先日王家にも馬車2台分お届けしたスカイノ鉱です」
「馬車2台って…」
ガンダルク公爵が少し驚いたようにつぶやく。
「フローレンス様にお送りした菓子にも模様をつけるためにこのスカルノ鉱の粉を使っています」
「ふむ、そのような使い方は聞いたことがある」
「はい、王都の王室御用達の菓子店でも使用しているところがあります。かなり高価になりますが、見た目が綺麗です」
「それがどうしたというのだ?」
宰相が結論を急がせる。
「はい、このスカルノ鉱に毒性はありません。しかし毒性反応が出てしまうことがある、と聞いています」
「なるほど」
陛下が目配せをする。
「はっ」
外で控えていた男が部屋に入ってきた。
「王宮薬剤師のケッペルめにございます」
「うん、ケッペル、ローザ嬢の話ではスカルノ鉱は無毒だが毒性反応が出てしまうというがそれはまことか?」
「確かにそうでございますね。スカルノ鉱は高級な染料として布の染料や絵画の絵の具、そして昔から高級食品にも使われており安全性は間違いありません。しかしその鉱物の生成特性から毒物反応が出ることが多いです」
「その特性とはなんだ?」




