第33話 ノル様の告白と懺悔
お待たせしました。
第3章の投稿を始めます。
ーーー投稿後、修文と加筆をさせていただきました。
綺麗な青空が広がり、爽やかな風が吹き抜ける。
私が初めて辺境伯領に来た一年前では考えられないような清々(すがすが)しい空気。
瘴気に覆われ外に出ることも躊躇われたこの大地に青空が広がっている。
そしていつもの応接間。
でも人払いされた2人きりのこの応接間は外の清々しさとはかけ離れた雰囲気となっている。
「ローザ嬢、申し訳ないことをした!」
ノル様が私に深く頭を下げた。
「これから色々苦労をかけることになる、本当にすまない」
「いえ。でも王家が絡んでいますので簡単にはいきそうにありません。2人で協力してなんとか切り抜けましょう」
私はできるだけ心の動揺を抑えながら微笑んだ。
「ああ……」
ノル様は申し訳なさそうに頷いた。
その声は心なしかいつもより少し低く感じられた。
でも、なぜこんなことに……
すべては王宮の使者が持参した国王陛下からの『親書』に端を発する。
ーーー
苦労の甲斐あって、領内は無事に全ての空気清浄化と魔物討伐は終わった。
最終討伐地から急いで屋敷にかえり、みんなで喜びあった。
確かにこれで領地の人々はこれまでに比べればかなり住みやすくなったはずだ。
他の領地にはまだかなわないけど、それでも自由に外出できる、瘴気中毒に苦しまない。
でも大きな問題がある。
そう、食糧だ。
瘴気がなくなって、魔物が減ったからといってすぐに作物が育つ環境じゃない。
今度はエル、ミルを連れて領内の畑まわりをしないといけない。
“黄金色に輝く大地”
“色とりどりの野菜“
”豊かな果物”
そんなことを想像しているとつい頬が緩んでしまう。
それを見たノル様が言った。
「ローザ譲、また何か企んでいるな」
こちらを警戒した目で見つめている。
「ノル様、それはあまりにひどい誤解です……」
「その顔で言われても説得力がない」
「どんな顔ですか!」
思わず笑ってしまう。
最近やっとこんなやり取りができるようになった。
とても楽しい、こんな時間が私は好きだ。
この人と話していると、不思議と肩の力が抜ける。
もっとこれが当たり前の時間になってほしい。
――だからこそ。
この穏やかな日々が、突然終わることになるなんて、このときの私はまだ知らなかった。
屋敷に戻ってわずか3日後に王宮からの使者が訪れた。
最終討伐地から直接討伐完了の報告を飛ばしたけれど、王宮の反応としては異例の早さだ。
「直接国王からの親書だそうで、この辺境伯領に届くのは初めてだそうですよ」
アーナがそっと教えてくれた。
「そうなんですか」
きっとすごいことなのでしょうね。
まあ、この王国が抱えてきた大きな問題が解決したのだから陛下も嬉しかったに違いない。
「この領地だけの問題ではなかったと言うことですね」
私が言うとノル様が頷いて親書を開封し、読み始めた。
読み進めるにつれノル様の表情が変わってくる。
「これはどう言うことだ」
大きく目を見開いて、膝をついてしまう。
そして頭を抱えてしまった。
「どうされたんですかノル様。あまりいいお話ではないのですか?」
ノル様は椅子に捕まりながら立ち上がると、使用人たちを人払いした。
広い応接室には私とノル様だけが残された。
「ローザ譲」
「はい」
「……落ち着いて聞いてくれ」
私は静かに頷く。
「ローザフラウに王宮への至急の呼び出しだ」
「それは、どういった理由なのですか」
「再度、王太子の妃候補に戻すそうだ」
「えっ」
思わず聞き返えしてしまう。
「おめでとう」
ノル様は苦しそうにいった。
「はい? 戻す?」
意味がわからない。
「候補になっていた覚えはありませんが」
「10歳までは候補だったと聞いているが、違うのか?」
「え? それは知りませんでした」
私は目を瞬かせる。
次の瞬間、胸の奥から何か別の感情が湧いてきた。
「それに……なんなんですか、私は辺境伯様の婚約者です、いまさら絶対嫌ですよ!」
「そ、そうなのか? 王都に、王宮で暮らせるかもしれんのだぞ」
「私、初めからそういうの興味ないです。それより今からこの地でやりたいことがたくさんあります」
畑を豊かにしたい。
領民たちが笑って暮らせる土地にしたい。
そして……
この人のそばにいたい。
そこまで考えて、私は自分の胸が小さく高鳴ったことに気づいた。
「ローザ嬢……」
ノル様が、どこか呆然としたように私を見る。
「……そうか、ありがとう」
少しノル様がホッとしたように見える。
その表情を見て、なぜかギュッと胸が締め付けられた気がした。
「だがすまない、今回王宮に一度も顔を出さないとういことは許されない。私も共に登城し安全に送迎しよう」
「はい、どうかよろしくお願いします」
そう答えたもののふと疑問が浮かんだ。
「ノル様、旦那様に話をした方がいいのではないでしょうか。至急連絡をとれないですか」
「……」
「ノル様?」
ノル様が少し様子がおかしい。
そして何かを決心したように表情を引き締めた。
「ああ……」
視線が彷徨う。
「たいへん言いにくいのだが。俺から謝りたいことがある」
ノル様がさらに緊張している。
「……はい、お聞きします」
私は姿勢を改めて正す。
胸の奥で痛いほどに鼓動が強く打っている。
「このようなことになってから言うのはずるいかもしれない」
ノル様が苦しそうに笑う。
「君がいなくなりそうだからなんて。もっと早く言うべきだった」
「ノル……様?」
「とにかく驚かないで聞いてほしい」
ノル様は立ち上がり私に近づく。
「私はローザ譲がこの地にやってきたのは王命で止むを得ずだと思っていた。実際にそうなのだと思う。つまり、王都に早く帰りたい、ここにはいたくないものだと」
ノル様が私を見つめる。
「私は怖かった」
「何が、ですか?」
「好きになってしまったあなたがここを去ってしまうことが」
胸が大きく跳ねた。
「……好き、って」
「ああ」
ノル様が一つ深呼吸をした。
「実は」
私の前に跪く。
「私が、この家の、レアブラック辺境伯家当主、ノーブル・レアブラックだ」
「……!」
「黙っていて申し訳なかった」
ノル様、いや旦那様が深く頭を下げた。
もちろん少しの驚きもある。でも思ったより落ち着いていつ私に自分でも驚く。
いや、むしろ疑問に思っていたことがが次々と繋がっていく。
“好き”というのがどこまで意味するかかなり気になるが今はまず……
私は静かに旦那様を見つめた。
「実はなんとなく、というより多分そうだろうな、と思っていました。旦那様は魔物の討伐が済んだ今でも屋敷に戻られません。あとノル様、いえ、旦那様の態度、使用人たちの接する態度から何となくですが気づきますよ」
「そうか、気づいていたのか」
「はい。でも、もっと早く言って欲しかったです」
頬が暖かくなるのを感じながら続けた。
「ノル様が旦那様だったらいいのにって……ずっと思っていたのですよ」
旦那様が息を呑んだ。
その顔が、みるみるうちに赤くなる。
私まで恥ずかしくなって、視線を逸らした。
そんな私の指先を旦那様の大きな手が包む。
「ローザ譲すまない、私がこんなだったばかりに王宮の勝手にまた巻き込ませてしまう。今回は私が国王にはっきり申し上げる」
旦那様の手がさらに強く握られた。
「ローザ譲は渡したくないと」
「は、はい」
もう心臓が……
「だが、その前に」
旦那様が私の指先から右手だけを離し上着の内ポケットに手を入れた。
後ほどもう2話投稿します。




