第2話 侍女アーナとメアリー
「もうダメ……」
息ができない、胸が苦しい。
仕事の時以外はほとんど引きこもりながら趣味に没頭。
物事を突き詰める、研究的なことがとても好きだった。
不摂生を続けた結果ーー36歳で孤独死
私は今世の5歳の時に高熱で生死の境を彷徨った。
その時研究オタクだった自分の前世を思い出している。
ーーー
「ううーん、久しぶりによく寝たわ」
大きく伸びをした。
よく寝たせいか幼い頃みた夢、いや、前世の記憶を再びみた。
「2度目の人生か」
今世、私は侯爵家の第2子で長女として生まれた。兄は優しいアーキリム。
10歳の魔法鑑定結果は生活魔法。スキルはーー『清掃』
「侯爵家の恥だ……」と両親に見捨てられ、使用人棟の掃除道具部屋で暮らす。
あ、掃除しなくちゃ。
慌ててベッドから降りようとするが、今日は寝心地がいつもと違う。
ふかふかだ。部屋の天井が高い。
“知らない天井”ってやつね。
「あれ、ここは……? そうだ、辺境伯領へ向かってたんだ。それで……盗賊に襲われて。あと、どうなったんだっけ?」
一瞬目の前がふらつく。
「そうだ、殺されかけて、たくさん人が死んで」
忘れていた記憶と感情が一気に吹き出してきた。
「夢だったらよかったのに」
涙が溢れ止まらない。
「奥様、お目覚めですね。おはようございます。今お付きの侍女を呼んでまいります」
「アーナ、奥様お目覚めよー」
私は慌てて涙を拭った。
「え、奥様よかったですー、3日も目を覚さないから心配しましたあ、きゃあ!」
あ、転んじゃった。
「アーナ、落ち着きなさいといつも言ってるでしょ」
「はい。落ち着いています。それに今日はまだ2回目です」
(何が2回目?奥様って?)
「だ、大丈夫、怪我はない?」
「はい!お優しいですね。気にしないでください。1日3回は転んでますから」
さ、3回も?
「アーナ、嘘はいけないわ。毎日5回は下らないわよ?」
「そんなこと、ありま…せ…ん」
「プフッ」
「あー奥様が笑ったー」
「うふふふ」
笑いが堪えられない。
何この人たち。今度は別の涙が出てきた。
たぶんいい人たちよね? よかったわ。って
ここはどこ? 奥様って……私の、こと?
ーーー
素早く着替えをしてもらうと、食事を勧められた。
確かに、お腹が空っぽだと思う。
「3日もお休みになられていたんですから当然です。ただ、いきなりたくさんはお勧めできません。少しずつ召し上がってください」
こ、これは!
(キュルルル……)
恥ずかしいけどお腹が鳴ってしまう。
でも目も前にとてもいい香りがする、柔らかく煮込まれた肉入りのスープがある。もう気にしていられない。
「い、いただきます」
一口いただいてみる。
(ちょっと、いや、かなり薄味ね。でも)
「おいしい!」
思わず声が出てしまった。
「ごめんなさい、あまりに美味しくて」
「まあ、ようございました。喜んでいただけたら私たちも嬉しいもの。まだあるから無理なさらぬようたくさん召し上がってくださいね」
私は夢中でいただいてしまった。
お腹にも優しく、とても美味しかったわ……特に久しぶりに食事をした今の私には。
ーーー
部屋に戻った私に、専属侍女のアーナさん、侍女長のメアリーさんが今の私の置かれている状況を説明してくれた。
「はい、我らが辺境伯領の精鋭、辺境騎士団が盗賊団を返り討ち、奥様を救い出し屋敷にお連れした、ということです。ふんすっ!!」
(ふんすっ!て声に出すの初めて聞いたわ)
「それで、奥様って私のことよね?」
「もちろんです。まだ正式にご結婚なさっていませんが嫁いで来られたのでそう呼ぶように旦那様から命じられております。
「そうなのね。私は構わないのですが、ノーブル・レアブラック辺境伯様は押し付けられた私などお気に召さないと思います。申し訳ないわ」
もう諦めたはずなのに、涙が溢れてきた。
「奥様、そんな、旦那様は奥様のことを……きゃっ!」
メアリーさんがアーナさんを羽交い締め!?
「奥様、お話は旦那様本人から伺ってください。今は訳あって外出していますが、早ければ来週にはお戻りになります」
「はい、わかりました。アーナさんは大丈夫?」
「あっ」
メアリーさんが手を離した時にはアーナさん苦しそうに跪いちゃった。
アーナさん、ゼーゼー言いながら
「侍女長、本当に死んじゃいます」
「あら、ごめんなさい」
「うふふ」
この2人に癒されて私の負の感情は頭の隅に追いやられていた。




