第9話 …俺としては穏便に済ませたかったんだけどな
-ガラクタ丸運転席-
「昨日はごめん!そのまま寝ちゃった」
「ん?いや、問題ねえよ?」
「だけど」
「ゆっくり行くって言ったじゃん」
「でも、まさか朝になっちゃうなんて…」
「別に急ぎでもねえしな。気にすんな」
「…ありがと」
イリアはボソッと言う。
ベルゼは運転に集中していた。
「それよりよ」
ベルゼが口を開く。
「昨日なんであんなにしょげてたんだ?」
「だって、あんなに拒絶されるとは思ってなくて…」
「思ってなかった?」
「…アタシ、魔族しかいない村で生まれ育ったからさ」
「…ああ、そういうことか」
「ほとんど自給自足だったけど、皆が普通に魔法を使って、暮らしてたんだ」
「…」
「だけど…アタシの村は…」
「…この前の騎士にやられたってことか」
「うん…それまで村の外に出たことなかったからさ。自分がどれだけ怖がられてるか、よく分かってなかったんだよね」
「なるほどね」
「…怖い思いさせちゃったなぁ…あの子に」
「でも、それ返しに行くんだろ?」
ベルゼはオルゴールを指さした。
「…うん。あの子にとっては大事なものだからね」
(そういえば…あの子もイリスって名前だったな…)
「でもどこに住んでるとか、分かってるわけ?」
「…あ」
「知らんわけね」
「…あはは…ごめん」
頬をポリポリ掻いて謝るイリア。
「問題ねえ」
「そういう時は知ってるやつに聞きゃあ良いんだよ」
ベルゼはニヤリと答える。
「知ってるやつって…心当たりあるの?」
「ああ。そろそろ来ると思うんだが…」
「そこのデカい蒸気車あああ!!止まれえええ!!」
「お、来たみたいだな」
「え…誰……!??」
外には騎士が一人。
こちらに向かって大声を出していた。
「さて、とっ捕まえるか」
サラッと言う。
「…え?」
「知りたいんだろ?親子の場所」
「う、うん…」
「じゃ、ちょっと手伝え」
「ど、どうすれば」
ベルゼはイリアに耳打ちをした。
「…そ、そんなんで良いの?」
「おお。じゃ、作戦決行な」
そう言ってベルゼはガラクタ丸から出てくる。
「何か用?」
「昨日魔族が出たと通報があった。貴様何か知らんか?」
「知らないね」
「話じゃ、貴様みたいなガキとバカでかい蒸気車がいたらしいが?」
「へー俺と一緒じゃん。そんな偶然があるんだねー」
わざとらしくとぼける。
「…悪いが、俺一人だぜ?」
「聞けば魔族は女との事だ」
「庇い立てしてるなら貴様も容赦しないぞ」
兜越しににらんできた。
「魔族の女?」
「貴様と同じくらいの女だ」
「ああ。もしかして、あいつの事?」
ベルゼは指を差す。
そこにはイリアがいた。
「な!!?貴様…!」
「スキありぃっ!!」
ベルゼは機構付きの右手で思いっきりぶん殴った。
「がぁ!!」
騎士は吹っ飛ぶ。
そのまま地面にひれ伏してしまう。
「き…貴様…!やはり…」
「その装備じゃ起き上がれねえだろ」
「く、蒸気機関を活用すれば…!」
シュウウ!!シュウウ!!
「な、なぜだ!なぜ起き上がれない!!」
「そこも壊れるように殴ったからな」
「人間の力じゃ起き上がれねえだろ」
「…く!」
「さて、お前に聞きたいことがある」
「き、聞きたいことだと!?」
「俺らを通報した人間の住処を知りたい。どこの街だ?」
「馬鹿か!貴様ら魔族なんぞに教えるわけないだろ!!」
当然、教えてくれるわけがない。
「そうか…」
ベルゼは目を細める。
その目は妙に落ち着いていた。
「ベルゼ…あんた…まさか…」
「ああ」
ベルゼがゆっくりしゃがむ。
「…俺としては穏便に済ませたかったんだけどな」
「ま、魔族なんぞに屈しはせんぞ」
そう言いながらも身体が強張る。
「…お前のその強がり」
「いつまで持つかな…」
鎧に触れる。
「…ベルゼ…ちょっと…」
イリアが止めようとした時だった。
「お前の鎧、良いもん使ってんじゃねえか」
「…はぁ?」
「さぞかし、高いもんだよなぁ?」
「な、何が言いたい?」
「…それ、支給品だろ?」
「そ、それがどうした!?」
「…なに、俺がちょっといじくってやろうかなって思ってな」
「…どういう意味だ?」
本気で困惑している。
「支給品の鎧だろ?」
「変な改造したら弁償もんじゃねえの?」
「ははは!くだらない!」
「壊れても任務中なら問題ない!」
少し余裕が出てきたみたいだ。
「任務中…ねぇ」
ベルゼはわざとらしく少し間を置いた。
その口元がわずかに緩んだ。
「――それ、”壊れたら” だろ?」
「!!?」
「変な改造された鎧で戻ってみろ」
「どやされて補償なんて降りねえだろ?」
「あ…」
…気付いたようだ。
思わずニヤついた。
「それにお前は見たところ下っ端の騎士だろ」
「お前みたいな下っ端に払えるの?この鎧」
「そ…それは…」
「ま、喋らないなら好きにさせてもらうぜ」
「俺としてはこっちの方が楽しいし」
シュウウウ!!
ギュイン!ギュイン!
ベルゼのツールギアが唸りを上げる。
「ま…待て!」
「そうだな…まずは動くたびに嫌な音が出るようにするか」
「ひぃ…!!」
小さな悲鳴が上がる。
「あとは…配管の位置も変えておくか」
「圧が安定しなくなる」
「ちょ…!!ちょっと待て!!」
騎士が慌てだす。
「大丈夫だ!一応は動くぞ」
「まぁ変な動きしたり、全然違うところが動くけどな!」
「わ…分かった!!分かったからやめてくれ!!」
「………………」
「……しょっっぼい!!」
イリアのツッコミが荒野に響き渡る。




