第89話 全部……捨てる
-王都ルティユシア城 玉座の間-
ブシュッ!!
ワイヤーが射出。
先端にはフックが付いている。
「……」
クロノスは横に躱す。
クロノスの背後にある椅子にひっかける。
ベルゼがワイヤーを一気に巻き取る。
椅子が自分側へ引き寄せられる。
その勢いのまま、振り回すようにクロノスへ叩きつけた。
「……下らねえ」
クロノスが手をかざす。
空中で止める。
「やああああああ!!!」
「!!?」
イリアがレンチをレイピアに変形。
突きが迫る。
椅子を止めていたせいで反応が遅れる。
「ぐっ!」
レイピアが頬を切る。
「…やっぱりな」
「お前に効かねえ魔法潰し…なんざ」
「ハッタリ…だったな」
「…お前の位置は…範囲外ってだけだ」
「なら…イリアもそこに行けば…魔法が使える」
「…単純な話だ」
「くっ!」
クロノスが体勢を立て直す。
「まだ!」
イリアが距離を詰める。
「邪魔だ!!小娘!!!」
「!!?」
クロノスはイリアに向けて蹴り上げる。
「くっ!!」
レイピアで蹴りをガードする。
「あああ!!」
しかし、勢いを殺せず、そのまま後方へ吹っ飛ぶ。
「……!!」
空中でクルっと回り、体勢を整えるイリア。
スタッ!
受け身をとる。
「あたれ!!」
両手を床に触れ、魔力を流す。
床の一部がクロノスに向かって、槍状に高速で伸びる。
「!?」
クロノスの頬を再びかすめる。
クロノスが体勢を崩した。
イリアは再び距離を詰める。
「小娘が!!」
右手をかざし、イリアの時を止める。
その瞬間、ベルゼも距離を詰める。
「…スキ…ありだ…!」
ブレイクギアの出力を上げる。
ブシュウウウウウウウウウウ!!
「イリアを止めて……いる以上……お前は…俺にそれが出来ねえ」
ベルゼがクロノスに殴りかかる。
「………甘いな」
左手をベルゼにかざす。
「!!?」
ベルゼの動きが急激に鈍くなる。
(ほぼ止まってる!?)
(……こいつ……ここまで………)
「俺が何も修業を積んでいないと思っていたのか?」
「あのころと違うんだよ」
「それは…………俺たちも………だ」
「!!?」
ドゴン!!
突如、クロノスの足元の床が斜め方向へ突き出す。
クロノスは前方向に吹っ飛ぶ。
「がぁ!!!」
「あれ!?」
「どうなったの!?」
イリアにかけられた停止魔法が解除される。
「………ナイスだイリア」
「くっ!!」
クロノスは体勢を立て直す。
「……もう終わりだ、クロノス」
傍にベルゼが立っていた。
クロノスが吹き飛んだことで、魔法が解除されていた。
「ここは魔法潰しの……範囲内だ……ここじゃ魔法は……使えねえだろ」
「ぐっ!」
「……なぜ……あんな小娘が……あんな高等技術を……!?」
クロノスは驚愕していた。
「あいつは毎日、魔法で精密……加工してたからな……嫌でも魔法制御力は上がるんだ」
「床を槍状に変化させる魔法も、時間差…発動、そしてそれらを同時に放つ技術……」
「……今のあいつなら…出来るんだよ」
「…お前は……俺…しか見てなかった」
「…」
「…イリアを…舐めるな……」
「あいつは…俺の」
「信頼できる仲間だ」
「!!」
イリアがベルゼを見て目を見開く。
「…クロノス」
「…降参しろ」
「…降参だと!?」
「二度と俺の仲間に関わるな」
「…」
「もう一つ…」
「…?」
「魔族への差別を辞めろ」
「!?」
「今の魔族……いや、もうあの時代の…人間はいねえんだ………」
「……この時代の……人間を恨んでも意味ねえ…」
「…もう俺だけだ…」
「…俺だけを恨め」
「お前が……望むなら」
「今の仲間……から離れる」
「蒸気機関…も機械も全部……捨てる」
「ベルゼ!?何を!?」
「イリア……すまねえ…黙ってくれ…」
ベルゼは唇を噛みしめる。
「そんな…」
「…今更かもしれ……ねえが……もう一度……罪と向き合う」
「…頼む…」
「…」
「…」
「ふふふ…」
「甘くなったな!ベルゼ!!」
左手をかざす。
「!!?」
ベルゼの動きが再び急激に鈍くなる。
「な!!魔法…潰しが…効いてねえ!?」
「…さっき言っただろ?」
「確かに、ここは範囲内だ」
「だが」
「俺の魔法だけは関係ねえんだよ!!」
「!!?」
「ハッタリだと思ったか?めでてえ奴だな!!」
「ちくしょう…!」
「……さて、お前は見てろ……あの女を殺すところをな…」
「!?」
「イリア!!逃げ…ろ!!」
「………あんたを置いていけるわけないでしょ!!」
イリアが再びレイピアを構える。
「ダメ…‥だ!!お前じゃ…敵わねえ!!」
「…美しい友情ですねイリアさん…」
にっこりと笑いかける。
「よっぽど、あなたが大事みたいですよ?」
笑いながらゆっくりイリアに近づく。
「………羨ましいの?」
イリアは不敵に笑いながら、クロノスに尋ねる。
「……………はい?」
「あいつはいつだって助けてくれた…………」
「……………」
「今のあんたにはいないでしょ?」
「ベルゼみたいに、こんな風に助けてくれる人」
「……………」
「あんたとあいつに何があったかは知らないよ」
「………でもね…………」
「アタシ達の仲間を馬鹿にしないで!!」
「…!…イリア…」
ベルゼの目頭が熱くなる。
「………小娘が………」
「下手に出てりゃ調子に乗りやがって………!」
クロノスの額に青筋が浮く。
「………もういい」
「………てめえに用はねえ……」
そう言ってクロノスはナイフを構える。
「イリ…ア!!頼む!!逃……げろ……!!俺の事は……いい!!逃げ…てくれ!!」
「…だから出来ないってば!!」
イリアが距離を詰める。
「…威勢の割には頭が悪い小娘だ」
右手を出し、イリアの時間を止める。
「や、やめろ…!!殺すなら……俺を殺せ……!!」
「……………お前馬鹿か?」
「お前を殺しても意味無いんだよ」
「………………お前の大切な物」
「………………これからもぶっ壊してやるよ」
「ははははははははは!!」
クロノスが高笑いする。
「クロ……ノス……!!」
ベルゼの視界がゆがむ。
「さて、まずはどこを切りつけてやろうか…?」
クロノスはイリアの前に立つ。
くそ!!
くそくそ!!
頼む!!
誰か…誰か助けてくれ!!
俺はどうなっても良い!!
イリアを…………
イリアを助けてくれ!!!!
…………………………頼む!
…………………………サラ!!!
「!!?」
身体が軽い!!
解除された!?
なんでだ!!?
いや!!
そんなこと考えてる場合じゃねえ!!
ワイヤーも間に合わねえ!!
どうする!!?
その時だった――
ブシュウウウ!!
「!?」
出力を抑えたはずのブレイクギアが破裂寸前まで加圧していた。
右腕をクロノスと反対方向に向ける。
限界を超えたブレイクギアを、さらに最高速で加圧。
次の瞬間――
ドゴォォォン!!
爆発。
衝撃で床が砕ける。
ベルゼの身体が砲弾のようにクロノスへ吹っ飛ぶ。
ドガアン!!
二人の体が激突する。
「ぐあああ!!」
「ぐっ!!」
「!??ベルゼ!!」
イリアにかけられた停止魔法が解除される。
「イリ…ア…!」
「!!」
イリアはダッシュでベルゼの元へ。
そこは魔法潰しの範囲外。
「逃がすか!!」
手をかざす。
しかしその瞬間、二人を守るように壁が突き上がる。
「!!?」
「ベルゼ!」
「…じょ…上出来だ…外だ…壁を…」
「分かった!!」
壁に手をかけ、破壊。
イリアはベルゼを抱えて、外へ脱出する。
「………」
「ルーカス様!!ご無事ですか!?」
「なにやら激しい音が………いったい………!!?」
騎士が入ってくる。
「………客人の魔族とその仲間だが………」
「もういい」
「!!」
「見つけ次第捕らえろ」
「抵抗すれば殺せ」
「承知いたしました!!」
騎士は伝令のため駆けていった。
「……………もう一度罪と向き合うだと?」
ドゴン!!
壁を殴り、破壊する。
「…………こんなもんじゃねえぞ」
「…………てめえの罪はよ」
クロノスはイリアが空けた穴から外を眺めた。




