第88話 一緒に帰るぞ
-王都ルティユシア城 玉座の間-
「…久しぶりだな…」
さっきの口調と全く違うクロノス。
「…生きてたんだな、クロノス…」
「………当たり前だ。貴様がよく分かっているはずだ…」
「…………」
「…………」
お互い、視線を外さない。
一言も発さない。
「………頼む…………」
沈黙を破ったのはベルゼだった。
「そいつは帰してくれ………!」
「………俺の罪とは関係ない……そいつはただの従業員なんだ」
ベルゼが土下座をする。
「頼む………!」
「……………」
土下座するベルゼを見下ろすクロノス。
「…………情けねえ………」
「……………」
「…………それがかつての俺たちの頭かよ」
「…………」
「………………何で…………」
「…………」
「何であいつの時はそうしなかった…?」
「……………」
「てめえがもっと必死にあがけば…」
「あいつは死ななかったんだぞ?」
「……………」
「おい」
「何とか言えよ!!」
「ベルゼ・ブラング!!!」
「……………」
「……………だんまりか」
「ッチ…」
「こんな奴に……………あいつは…………」
クロノスはイリアを見る。
「イリアさん」
「…………え?」
「あなた、この男を信用してるんですか?」
「こいつはね――殺したんですよ」
「かつての我々の仲間を…」
「こいつの恋人だった女性をね」
「!!?」
イリアは口を押えて、目を見開いた。
「…………」
ベルゼは依然として土下座したままだった。
「それなのにこの男は…………」
「ただの従業員を助けようとする…………」
「…………意味が分かりませんよね?」
ニッコリとイリアに微笑む。
「…………っ!!」
顔を青ざめ、身震いするイリア。
クロノスはベルゼに視線を向ける。
「…………てめえは………」
「自分の惚れた女を殺したくせに………」
「この女は助けるのか?」
「プライドも捨て、今にも逃げ出してえ癖に………惨めに土下座までして………」
「あは………はははは………」
「…………」
顔を押さえ、肩を震わせる。
「反吐が出る」
「イリアさん」
「!?」
もう一度イリアの方を向く。
「申し訳ありません」
「先ほど、手を出さないと申しましたが…」
「やはり」
「死んでください」
「え?」
次の瞬間、イリアの目前にナイフがあった。
ドン!!
イリアの身体が横へ突き飛ばされる。
「くっ……!!」
ナイフがベルゼの肩に深く刺さっていた。
「べ、ベルゼ!!」
「イリア!!俺の傍に来い!!離れてると守れねえ!!」
「う、うん!」
イリアはベルゼの傍に駆け寄る。
「……………やはり………か」
その姿を見て、クロノスのこめかみがピクリと動く。
「その女は守るんだな…………てめえは…………」
ベルゼを見ながら呟く。
「ベルゼ!!肩が……肩が!!」
涙目でベルゼを心配するイリア。
「…………大したことねえ、安心しろ」
「それに…………今のは………」
「…………ああ」
「あいつの魔法だ」
「じゃあ……やっぱり……」
「あの人も魔族なの?」
「………ああ……」
ベルゼは静かに答える。
「何で………どうして………同じ魔族を………」
「さぁな…………ぐっ!」
ザシュ!!
肩に刺さったナイフを抜く
「…………あん時はマジで頼りになったが、敵になるとやべえな…………」
ベルゼは肩を押さえながら、ジッとクロノスを見据える。
「………イリア」
「魔法………使えるか?」
「!そ、そうか!」
レンチに魔力を流す。
だが、変わらない。
「残念だったな……こっちが魔法使えるからって、魔法潰しが発動してねえわけじゃねえんだよ」
クロノスが笑っている。
「そんな!!」
「…………ずいぶんと都合が良い魔法つぶしだな」
「当たり前だ……それは俺が作らせたんだからな」
くくくと笑う。
「ベルゼェ…………お前のおかげなんだぜ?」
「…………どういうことだ?」
「魔法潰しの原理が作れたのは、お前が昔、あいつの魔法を解析したおかげだ」
「!!?」
ベルゼの目が見開いた。
「………昔お前が解析したもんのせいで今の魔族が苦しんでんだ」
「……マジで疫病神だな、お前は」
「…………」
ベルゼの額に汗が流れる。
「原理知ってりゃ、いくらでも対策なんて出来るだろ?」
「作る側の話だけどな!」
数本のナイフを投げる。
「!!?」
ナイフは信じられない速さでベルゼたちに向かっていく。
「くっ!!」
ガキン!!
ガキン!!
ブレイクギアでナイフを弾く。
しかし、すべてを弾ききれず、左肩と左腕に刺さってしまう。
「ぐっ……」
「べ、ベルゼ!!」
「イリア!!絶対俺の後ろから離れるな!!」
「で、でも……!!」
「大丈夫だ……!!これくらい……」
(……あいつ……時間を早めるほうも出来るようになったのか……)
(……こんな状況なのに、すげえって思っちまうなんてな………)
「………面倒だ」
ダッ!!
「……え?」
イリアの視界からクロノスが消える。
「遅い」
イリアの背後にクロノスが回っていた。
「イリア!!伏せろ!!」
「っ!!」
イリアはベルゼの言葉でとっさに身を伏せた。
「ぐぅああっ……!!」
「……え?」
顔を上げるとイリアとクロノスの間に、ベルゼが立っていた。
「…………ベルゼ?」
ポタ………ポタ…………
ベルゼの足元が赤く染まる。
「ぐぅ!!」
膝をついてしまう。
「………え?」
ベルゼは腹を押さえていた。
押さえていた部分から、血が滲みだしていた。
「ベルゼ!!」
「ははははは!!どうした!?手も足も出ねえか!??」
クロノスは高笑いしている。
「そうだよなぁ!!そんなちゃっちいギアでどうにもできねえだろ!!」
高笑いしながら、玉座のある壇上へ上がる。
クロノスの右手には血の付いた短剣が握られていた。
「……ちくしょ……魔法無しでも相変わらず強えな……」
ベルゼは腹を押さえながら強がる。
「ベルゼ………!ベルゼ!!」
「もういい!!もういいよ!!このままじゃ、ベルゼが………!!」
「…まだだ…」
「え…?」
泣きじゃくるイリアに静かに呟く。
「イリア………よく聞け………」
「…………」
「……あいつの魔法潰し………おそらくだが………」
「…………」
「…………わかった……やってみる」
「頼むぜ……この作戦……お前がカギだ…」
「うん!!」
イリアが大きく頷く。
「………終わったら」
「…………ベルゼ?」
「………一緒に………帰るぞ」
ベルゼは口元の血を拭う。
「…絶対だ!!」
イリアが涙を拭う。
「…当たり前でしょ!!」
ブシュウウウウウウウウウウウ!!!
ブレイクギアが、二人の覚悟に応えるように唸る。




