第85話 ………あんた大馬鹿よ
―ガラクタ丸 工房―
「ベルゼ!!あんた!!いったい何やらかしたの!!?ルーカス王って王都ルティユシアの王様じゃない!!」
エリーネはベルゼに大声で尋ねる。
「…ベルゼ…?」
エリーネがベルゼを見て、静かになる。
一点を見つめ、ボーっとしているベルゼ。
手が震えて固まっていた。
(あいつが…生きてる?)
そんなまさか…
いや、違う。
俺が考えないようにしてただけだ…
クロ……ノス…………
俺は……
また逃げ………
「ベルゼ!!」
「!?」
エリーネの声にベルゼは驚いた。
ラグネスも心配そうに見ている。
「あんた!こんな時に何ボーっとしてるのよ!」
「す、すまねえ」
額に汗を流すベルゼ。
「ベルゼちゃん……そのクロノスってもしかして………」
「…………」
ラグネスの問いにベルゼは何も答えない。
「……え?なに?二人は何か知ってるの?」
エリーネは二人の様子を見て困惑した。
「………どうするの?ベルゼちゃん」
何も答えないベルゼに、ラグネスは質問を変えた。
「…………」
ベルゼは大きく息を吸う。
「………俺一人をご希望だ。お前らはここで待ってろ」
「何言ってんのよ!?出来るわけないでしょ!!」
エリーネがベルゼの手を掴む。
「…そうよベルゼちゃん。騎士の本拠地から呼び出しだなんて罠に決まってるわ」
「……分かってる。だが、イリアを放っておくわけにはいかねえだろ」
「俺が無事連れ出す……お前たちは――」
「待ってよ!!ワタシも行くわ!!」
「!?」
言い切る前にエリーネが割って入る。
「ワタシだってあの子を助けたい!」
「ワタシに出来る事は、この子を運転してあんたを送ることぐらいだけど……それでも、出来る事させてよ!!」
「………」
(エリーネ………)
(悪い……)
「…………だめだ」
「!?」
ベルゼは静かに断った。
「今回の相手は今までとは違う……最悪、俺は戻れねえかもしれねえ」
「!!?」
「あんたが…!?」
ラグネスが珍しく目を見開く。
「ああ。今回はかなりやべえ。そんなところにお前たちを連れていけねえ」
「………そんな」
エリーネがベルゼの目を見ながら、震える。
(………イリアとこいつは仲が良いんだ)
(自分が行けねえのはショックだろ)
(………だが、そんなこと言ってられる状況じゃねえ)
「安心しろ」
「イリアは必ず助ける」
「…何があってもな」
エリーネに静かに言う。
「エリーネ、手を離してくれ」
「え………?」
怯えた目でベルゼを見る。
「…………俺が戻らなかったら…………相棒を頼む」
「!?」
ベルゼはエリーネの目をジッと見据える。
ス…………
エリーネが手を離す。
「悪い。あとは頼んだ」
工房を出ようとした時だった。
「ベルゼ」
エリーネが静かな声でベルゼを呼んだ。
「どした?まだ何か…」
振り向いた瞬間――
パァンッ!
「…は?」
ベルゼは左頬を押さえ、唖然とする。
「……………あんたさ」
そう言いながらベルゼの胸倉を掴む。
「………そうやってまた一人で背負うの?」
「………自分が犠牲になれば良いって思ってるわけ?」
「………自分なんかどうだっていいって考えてるわけ?」
声が震えてる。
「…………エリーネ?」
「…………あんた大馬鹿よ」
胸倉を掴む手にさらに力がこもる。
「イリアだけが無事に帰ってきたところで…!」
「あんたがいなかったら…………!!」
「……なんも意味ないって……分からないの!!?」
「!?」
エリーネの頬を涙が伝う。
驚き目を見開くベルゼ。
「あんたがイリアを助けたい気持ちと同じように!!」
「ワタシだってあんた達を助けたいのよ!!」
「なんで!!それが分かんないのよ!!」
「いつもいつもそうやって突っ走って!!」
「ふざけんな!!一人で全部抱え込んでんじゃないわよ!!」
「馬鹿………馬鹿ああああああ!!」
「エリーネ…………」
ベルゼは呆然とエリーネを見つめる。
「ベルゼちゃん…」
「ラグネス…?」
しばらく様子を見ていたラグネスが、静かに語り掛ける。
「私、言ったわよね」
「仲間を頼りなさいって」
「…………今がその時じゃないの?」
「………」
(……手の震えがさっきから止まらねえ)
(あいつの名前を聞いた時、もっとだ……)
………だから………
「エリーネ」
「ラグネス」
「すまねえ」
「力を…」
「貸してくれ…!」
「………あいつを」
「……イリアを絶対に助けるぞ!!」
「……もちろんよ!」
ラグネスは腕を組んで応える。
「初めからそう言え!!この馬鹿ベルゼ!!」
エリーネは涙を拭って返事をする。
…………手の震えが止まった………
…………イリア…………!
…………待ってろよ………!




