第84話 ……幸せってこういうのをいうのかしらね……
―マイエル 広場―
―イリアが騎士に連行される数十分前
「はぁ…はぁ…」
「だ、大丈夫?エリーネ」
「えいーねお姉ちゃん?」
エリーネは二人の体力についていけず、膝に手を置く。
「ご、ごめんなさいね…少し休ませてもらうわ…」
「あ、それならアタシたちも…」
「大丈夫よ。二人で遊んでなさい」
「ワタシはそこのベンチで見てるから」
「そっか。元気になったらおいでね」
「…ええ」
(悪いけど…付いていけそうにないわ…)
「行こっか。イリスちゃん」
「うん!」
「……」
(…行っちゃったわね)
二人の姿を眺めるエリーネ。
(…まさか、こんなのんびりする時間が出来るなんてね…王立で働いていた時なんて、考えもしなかった。)
(あの頃なんて、ひたすら図面や設計図を書いていただけ)
(そりゃ…好きな事だったからそれなりに充実してたけど…)
(でも、ワタシの夢を叶えるために必要な場所ではなかった)
(それに比べたら、今はのんびり)
(あの頃の方が蒸気車に関われている)
(でも、イリアやあいつと仕事して、お客さんの笑顔が見れる)
(あいつと蒸気機関や機械の話して、気付けば朝になってる)
(…すごく充実してるって感じる)
「……!」
イリアとイリスが手を振っている。
思わず、エリーネも振りかえした。
(……幸せってこういうのをいうのかしらね……)
――その時だった。
ガシャ、ガシャ。
シューー…
金属がこすりあう音と蒸気音と共に何かが横を通り過ぎる。
「!?」
気付けば、騎士が数名、
広場を見回しながら巡回している。
「!?イリ…!」
(だ、ダメ!!ここで叫んだら、逆に怪しまれる!)
(目的がどうであれ、イリアが魔族ってバレちゃう可能性がある!)
エリーネは落ち着いて様子を見ようとした。
しかし、イリアを見つけた瞬間、まっすぐ彼女の方へ向かった。
「!?」
(イリアも気付いている!ダメ!!もうバレてる!!)
「イリア!」
そう叫んだ瞬間だった。
「騒ぐな」
「!?」
気付けば、エリーネの隣には一人の騎士が立っていた。
「…安心しろ。騒がなければ、危害は加えない」
「そ、そんなの信じられるわけないでしょ!?」
「ほう…なら、試してみるか?」
「…くっ!」
(これじゃあ動けない…!イリア!!逃げて!!)
心臓が激しく鼓動する。
エリーネは、イリアから目を離せなかった。
だが、イリアとイリスは、すでに数名の騎士に取り囲まれていた。
「イリア!!」
エリーネが叫んだ。
その時だった――
「…イリア様」
「え…!?」
取り囲んでいた騎士の一人がイリアに近づき、膝をついた。
「我々と同行願います」
「あなた様はもちろん、仲間の方にも危害は加えません」
「そ、そんなの…」
「…もちろん…」
騎士はゆっくりと顔を上げる。
「……っ!!?」
イリアは身がすくむ。
「抵抗すれば、無理やりにでも連れていきます」
「…どんな手を使っても…」
騎士はイリスを見る。
「……っ!!?」
イリスは、イリアの足にしがみついた。
「!?だめ!!」
イリアが叫ぶ。
「…分かった…」
「ご理解頂き、感謝いたします」
騎士は頭を下げる。
「お姉ちゃん…」
「…ちょっと騎士さんが用事あるみたいだから」
イリアは膝に手をついて、イリスと目を合わせる。
「でも……」
不安そうにイリアを見るイリス。
「大丈夫。終わったらすぐ帰るよ」
イリアは笑って、イリスの頭を撫でる。
「……この子を預けたい……それくらい、いいでしょ?」
「……問題ありません」
イリアはイリスの手をひいて、エリーネの元へ。
「エリーネ………イリスちゃんをお願い」
「……イリア」
「お姉ちゃん!」
「……」
無言で二人に笑顔を向けるイリア。
「……お連れしろ」
イリアは他の騎士に連れられてしまった。
「イリア……っ!」
(悔しい…!何もできないなんて…!!)
エリーネは唇を嚙みしめる。
「…エリーネ様」
「!!?」
さっき、イリアに話しかけていた騎士が今度はエリーネに話しかける。
「な、何よ!!」
「…ベルゼ様へ伝言を預かっております」
「あいつに…?」
「ルーカス王からです」
「王から!?」
(ルーカス王って……まさか王都ルティユシアの!?)
「ベルゼ様にお伝えください」
「イリア様をお迎えに上がる際は必ず一人で来るように…とのことです」
「……どういうこと?」
(あいつ!?ルーカス王とどういう関係なの!?)
(イリアのために?なんで、あいつを呼び出してるのかしら…?)
「……もし、ご理解されていない様子の場合は、この名前をお伝えください」
「……名前?」
「……クロノス」
「……クロノス?」
(…誰かしら…?あいつの知り合い?)
「それでは、失礼致します」
そう言って騎士は去っていった。
「何なのよこれ…」
「お姉ちゃん……」
イリスがエリーネの手をぎゅっと握る。
エリーネは、握られた小さな手からかすかな震えを感じ取った




