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ブレイクギア ー荒野を駆ける巨大な蒸気工房ー  作者: すのもとまさお
第7章 王都とクロノスとベルゼの罪

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第79話 最初はこっちが良かった!!!


―バーラグネス―


バーの奥から、小さな影が飛び出してきた。

「おねええちゃああああああん!!」

「イリスちゃん!!」


イリアがしゃがんで目線を合わせ、両手を広げる。

すると、イリスは迷わずその胸に飛び込んだ。


久しぶりの再会に喜ぶ二人。


「会いたかったよおおお姉ちゃあああん!」

「うん。アタシも会いたかったよ」

二人は満面の笑みで、ぎゅっと抱き合う。


「………」

それをジッと見つめるエリーネ。


「お姉ちゃん。いつまでいるの?」

「お兄ちゃんが酷いやけどしちゃってるから、それが治るまでかな」

「え!?お兄ちゃん!大丈夫なの!?」

「大丈夫。今治してもらってるから!」

「よかったぁ!」

ホッと胸をなでおろすイリス。


「あ、ごめんね、エリーネ。この子、イリスちゃん」

「はじめまして!イリスです!5歳です!」

「良く言えたね!えらい!」

「えっへん!」

イリスは誇らしげに胸を張った。


「………」

「エリーネ?」

エリーネをよく見ると、小刻みに肩が震えていた。


「…………さい」

「?」







「最初はこっちが良かった!!!」

エリーネ渾身の叫び。


「!!??」

「?」


-数分後-


「ごめんなさいね…さっきの事があまりに衝撃的で…」

「あ、うん。あれは仕方ないよ」

即答するイリア。


「…お姉ちゃん」

「ん?どうしたの?」

「このお姉ちゃん、だれぇ?」

「あ、ごめんなさいね」

エリーネはイリスと目を合わせ、笑顔を作る。

ただ、その笑顔はどこかぎこちない。


「ワタシはエリーネ。えっとイリアの友達…よ」

「??」

「えいーね?」

「あ、エリーネ…よ」

「…」

「えいーねお姉ちゃん!」

「!!??」

ピタッ……

エリーネが目を見開き固まる。



「イリア…」

イリアの名前を呼びながら、イリスの頭を撫でるエリーネ。


「なに?」

「この子、ワタシ達で育てない?」

キリっとした表情で顔だけをイリアの方へ向けた。






「騎士の皆さん!!こっちです!!」

「あんたが騎士を呼ぶな!!」



「??」

イリスはきょとんとしている。


ガチャ

扉が開く音が聞こえる。


「イリス!勝手に飛び出しちゃダメだろ!」

「お父さん!お姉ちゃんたちが帰ってきたよ!」

「お父さん。お久しぶりです」

「イリアさん!帰ってきたんですね」

奥から来たのはイリスの父親。


「えっと…こちらで働いているのですか?」

「ええ。あの時、丁度一人辞めたとの事だったので」

「ここで働かせてもらってます」

「…あの恰好を?」

従業員の恰好を思い出し、難色を示すイリア。


「いえいえいえ!!僕は裏方担当です!料理も提供したりしてますよ」

慌てて否定する父親。


「…安心しました」

イリアは心の底からホッとしていた。


「えー!お父さんも着たら絶対可愛いよー」

「…勘弁してくれイリス」


ドっと笑いが起きる。


「それでそちらの方は…」

「あ、ごめんなさい………この子は………!?」

イリアがエリーネを見ると、目を見開いて固まっていた。


「……え、エリーネ……?」

「!?」

その時だった――


エリーネは突然椅子から立ち上がり、父親の前で45度のお辞儀。


「はじめまして」

「元王立蒸気車製作所 設計部門のエリーネです」

「以後、お見知りおきを」

さらに1枚の名刺を差し出した。


「…」

「…」

イリスの父親は、呆然とエリーネを見つめる。


「…はっ!!」

エリーネは我に返る。


「ご、ごめんなさい!昔の癖でつい…」

慌てて名刺をしまうエリーネ。


「あ、いえ大丈夫ですよ。僕と同じ、元王立の方なんですね」

父親は穏やかに笑う。


「え、ええ。今はベルゼのところで働いております」

普段ベルゼやイリアと接する時とは明らかに口調が違う。


「…エリーネ…」

「な、何よ…」

「…どうしたの?」

「…あんた…この人がどういう人か知らないの??」

「え?イリスのお父さんだよ?」

「そうじゃないわよ!!」

思わずツッコむエリーネ。


「この人、王立蒸気機関研究所で働いていたルイス先生よ」

「王立!!?」

「ははは。王立といっても、僕は下っ端の扱いでしたが……僕の事をご存じなのですね」

「ええ。ルイス先生の研究資料を以前から何度も拝見させて頂きましたが、本当に参考になる事ばかりで……大変勉強になりました」

「……お会いできて光栄です」

再び頭を下げるエリーネ


「そんな…僕なんか末端の人間ですから…」

ルイスは困ったように微笑んだ。

しかし、エリーネは首を横に振った。


「……あなたほどの方が評価されないのは、ワタシとしても悔しい思いでした」

「………」

ルイスの表情がわずかに変わった。


「……今は研究所をお辞めになっているのですね」

「はい。今は研究とも離れてこちらでお世話になっています」


「正直、心地いいですよ。ここは」


ルイスは穏やかな表情で店内を見渡した。

つられるように、イリアも辺りを見回す。


派手な装飾に、小さなテーブルを囲むように並べられたソファー。


カウンターの向こうには、どこから仕入れたのか分からないほど大量の酒や飲み物が並んでいる。


夜になれば、華やかな衣装をまとったオカマたちが客を出迎え、店内は賑やかな笑い声で満たされる。


決して普通の店ではない。

けれど、不思議と誰もが笑顔になれる。

そんな場所だった。


イリアは改めてルイスに目を向けた。

その顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。


「…実はワタシ、以前にもルイスさんをお見かけしたことがあるんです」

「え!?そうなのですか!?」

「ええ。お忙しそうだったので、ご挨拶も出来ませんでしたが……それに……」

エリーネの声のトーンが、少しだけ落ちる。


「あの時は本当にお辛そうで………今は幸せそうで何よりです」


「…ありがとうございます」


「もし宜しければ、今度お話を聞かせてくれませんか?」

「ワタシ、自分の理想の蒸気車を作るのが夢なので、参考にさせて頂きたいです」


「…」



「あ、もちろん無理にとは言いません」

「…大丈夫ですよ」

ルイスは穏やかに笑った。


「あそこは辛かったですが、蒸気機関は今でも好きです。僕でよければ」

「!!ありがとうございます!」

エリーネは深々とルイスに対して、頭を下げた。


二人の様子をイリアとイリスはぽかんと見つめていた。


「お姉ちゃん」

「なぁに?」

「二人はお知り合いだったの?」

「…何て言えば良いんだろう?」



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