第76話 ………クソ………!!
-洞窟 最深部-
「わぁああ…」
「嘘…………すごい綺麗…」
「…こりゃ見事なもんだな」
最深部の天井には、ぽっかりと穴が空いていた。
そこから太陽の光が差し込み、地面には色とりどりの花が咲いていた。
湿った土のにおいと、花の甘い香りが辺りを包んでいた。
ひんやりしていた洞窟の空気とは違い、そこだけほんのり暖かかった。
「すごい…まさに自然の神秘ね…」
「洞窟にこんなに綺麗な花が咲くなんて…」
ベルゼが天井を見上げる。
「…こりゃ、天井が崩れたおかげだな」
「?どういうこと?」
「かなり昔に天井が崩れて、上に乗ってた土や種なんかが落ちたんだろうな」
「だが洞窟の湿気と太陽の光だけで、花が育つには十分だったみたいだな」
「あんた…そこまで分析できるわけ?」
「分析っていうか、勘だけどな」
「俺だってそこまで詳しくねえよ」
「ま、ただ………」
「?」
「昔いた連れに花に詳しいやつがいただけだ」
「種類だけじゃなく、咲き方とか熱く語ってきて、正直面倒だったけどな」
口調とは裏腹に穏やかに笑っているベルゼ。
ズキ…
「…?」
エリーネは胸を押さえた。
「どうした?」
ベルゼはその様子を見て、声をかける。
「いや、ちょっと胸が…」
「…大丈夫か?」
「慣れない洞窟だから疲れたのかしら?」
「でも、大丈夫よ」
「そうか」
(疲れというより…あいつ見てたら…?)
(…?)
「エリーネ!」
「え?」
ふぁさ…
「!?」
イリアがかぶせたのは花の冠だった。
「これ…」
「可愛いでしょ?これ作るの得意なんだ」
「…」
「エリーネ?」
…
ボンッ!!
「え!!?」
「ど、どしたの!??エリーネ!!顔真っ赤だよ」
「………!!」
「ずっと技術屋やってたから、こういうの初めてなんだろ。ちょっと待っててやれ」
「あ、うん。じゃあ、はい、ベルゼ」
「…それなんだよ?」
「花の冠」
「…なんで俺に渡す…?」
「え?」
「被るでしょ?」
「被らねえよ!?」
「え?」
「……俺は被らねえよそんなもん」
「…」
ふぁさ
「…」
「似合ってる似合ってる!」
ちら…
「………………!!!」
エリーネが今度は別の意味で固まっている。
「二人とも似合ってるよ!」
「…ベルゼ…」
「…何だよ…」
「まさか…取らないでしょうね?…ぶふ」
「…」
「イリアの気持ち…察しな…ぶふううううう!!!」
エリーネが噴き出す。
「…」
スッ
カチッ
「こんなとこ…ぶっ壊してや」
再び左手用のブレイクギアを装着するベルゼ。
「悪かったわよ!!」
必死に止めるエリーネ。
「??」
不思議そうに見るイリア。
-洞窟 入り口-
「やっと外に出られた…」
「楽しかったね!エリーネ!」
「そうね。こういうのなら悪くないわ」
イリアの表情が明るい。
エリーネも洞窟に入る前とは違って、表情が明るかった。
「…お前らさ…」
「なに?」
「なんでまだ被ってんの?」
「そういうあんただって」
花かんむりトリオが出来ていた。
「…」
「…あの無邪気な顔見たら捨てられねえよ…」
「あんた…どんどんイリアに弱くなってるわね…」
顔をそむけるベルゼ。
そんなベルゼをエリーネは細い目で見る。
「ふふ」
「?」
「二人とも、ありがとね」
「ワ、ワタシは何もしてないわよ…」
「そうじゃなくて…」
「村で遊んでたみたいに、楽しかったからさ」
「イリア…」
「ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったかな」
頬を掻いて照れくさそうに2人から視線を逸らすイリア。
「良いんじゃねえの?」
頭の後ろに手を組んで答えるベルゼ。
「え?」
「っていうか、今が本来のお前なんだろ?」
「最初に出会ったころと比べたら、ずいぶんと丸くなったぜ」
くくくと笑う。
「…あの時は追われてたし、全部なくなっちゃったから…」
「そうか…」
腕を下ろし、イリアを見るベルゼ。
「イリア」
ぎゅ
エリーネがイリアを抱きしめる。
「エリーネ?」
「居なくならないわよ」
「!?」
「一人にしないわよ」
「ね?」
「…」
「うんっ!」
ぎゅ
イリアが抱きしめ返す。
「…エリーネが小せえから、どっちが慰めてるか分かんねえな」
「あんた!デリカシーってもんがないの!?」
「何言ってんだ?」
「え?」
「俺にあると思うか?」
ドヤッ!
「ドヤるな!!」
「っぷ」
「「?」」
「ははははははははは!」
「あんたがおかしなこと言うから…」
呆れるエリーネ。
「え!?俺、なんか悪いの?」
イリアの笑い声が荒野中に響く。
-ガラクタ丸 リビング-
「今日はこのまま休むか」
「そうね…さすがに疲れたわ」
「あ、じゃあお茶用意するよ」
イリアがせっせと動く。
「俺に付き合わせて悪いな」
「いいのよ。おかげで良いもの見れたし、貴重な経験だったわ」
「貴重な経験?」
「洞窟なんて入った事なかったもの。中々新鮮だったわ」
「…最初ビビってたくせに…」
「何よ…」
視線が上に向く。
「ぶふううううう!!!」
「なんだよ!」
「あんたいつまで被ってんのよ…はははははは!」
「…」
「ベルゼ?気に入ってくれたの?」
「…」
「否定も出来なくなってるじゃない」
エリーネは笑っている。
「あ、そうだ!」
「どうしたの?イリア」
「ベルゼの包帯、そろそろ変えないと…」
「!?」
「?ベルゼ?」
「悪い。このままで良い」
「え?でも変えないと汚いよ?」
「問題ねえよ…」
「………ま、明日ラグネスさんに会うから大丈夫か」
「あ、ああ」
「…」
-夜 ガラクタ丸 工房-
「…」
流石に無茶し過ぎたな…
このアタッチメント、火力ヤべえが、熱がかなり籠っちまう…
しばらくは使わないほうが良いな…
「ベルゼ?いる?」
「…エリーネか」
椅子に腰かけるエリーネ。
「あんたさ…」
「どした?」
「なんか、隠してない?」
「…」
「イリアが包帯を変えようとしたとき」
「えらく拒絶したじゃない」
「…」
「大丈夫なの?」
「…ああ」
「…」
「ワタシ達さ…」
「?」
「仲間…よね…」
顔が赤くなる。
「…そうだな…」
「ならさ」
「?」
「何があったのか……教えてくれる?」
「!?」
「イリアは純粋だから、すごいショックを受けるかもしれないけど、ワタシは平気」
「…………」
ベルゼはエリーネを静かに見据えている。
「どんなことでも受け止められる自信がある」
「ワタシはイリアみたいに出来ないけど………」
「ワタシなりに仲間を支えたいの」
「教えて…………くれないかしら…………?」
「悪いな………こればっかりは………………ダメだ…」
視線をエリーネから外す。
「どうして!?」
詰め寄るエリーネ。
「………」
ベルゼはそれでも黙っていた。
「…………悪い」
小さく謝る。
「…………そ」
エリーネは視線を下げる。
「…………」
「……ま、覚悟なさい」
「?」
「ワタシ、あんたのことも一人にさせる気なんてないから」
「!!?」
「………忘れんじゃないわよ」
「………」
「じゃ、もう寝るから」
「…………あんたも早く寝なさいね」
「おやすみ……………ベルゼ」
「…………ああ」
部屋を出るエリーネ。
「……………」
ガン!!
工具を壁に投げつける。
「………クソ………!!」
天井を仰ぎ、手で顔を覆う。
なんで…こんなに弱くなっちまったんだ俺は………
指のスキマから見える景色がぼやける。




