表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイクギア ー動く工房の破壊整備士と創造の魔族少女ー  作者: すのもとまさお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/16

第7話 母の形見のオルゴール

「じゃあ、このサイズで頼む」

「はいはい」

イリアの魔力が流れた部品はみるみるうちに姿を変える。


「はぁ…よし。これでどう?」

「どれどれ」

ざっと目を通す。


「上出来。だいぶ慣れてきたんじゃないか?」

「そりゃ、毎日こんな細かいことやってたらね…」

「俺の勘に狂いはなかったな。向いてるぜ、この仕事」

「はいはい。ふぅ…」

「おっと。流石にちょっと休むか」

ベルゼは室内にある缶ジュースをイリアに渡す。


「ありがと。ところでさ」

「ん?」

「あらかじめ作っておくのは分かるけど、こんなに必要なの?」

「ああ。その辺はよく壊れる機構で使う部品なんよ」

「そうなの?」

「別々の機械っつっても、ほとんどは同じ部品とサイズの組み合わせだからな 。もちろん例外もあるけど」

「ていうか、買えば良いんじゃないの?」

至極当然の疑問。


「え?もったいねえじゃん」

「…は?」

「節約よ。せ つ や く」

「せ、節約…?」

「食い扶持も増えたしな。削れるとこは削らねえと」

「アタシの魔法を節約術にするな!!」


狭い工房にツッコミが響いた。


『すみませーん!』

中からでも分かるデカい声が聞こえた。


「お?客か?」

ガラクタ丸から出ると中年の男と手を繋いだ少女。


「いらっしゃい。どしたん?」

「今から街に帰る途中なんですが、タイヤがパンクしてしまいまして…」

「どれどれ」

ベルゼはタイヤの確認をする。



「ああ。この型式なら在庫あるからすぐ出来るぜ。ちょっと待っててよ」

「ありがとうございます!助かります!!」

男はホッと胸を撫でおろした。


「ベルゼ。アタシに何か手伝えることある?」

「ないな。客の相手でもしてやってくれ」

そう言って工房に戻るベルゼ。

「お客さんの相手って…」

頬を掻いていると、袖をひかれた。


「?」

振り向くと小さな女の子。


「お姉ちゃん。お店の人?」

「あ、うん。そうだよ」

「これ、直せる?」

差し出してきたのはオルゴール。


「これがどうかしたの?」

「音が変なの」

「聞いても良いかな?」

「うん」


ねじを回すと途中で音が途切れる部分がある。


(……これ、アタシの魔法じゃ無理だ)

少しだけ言葉を探して、イリアは笑った。


「ごめんね。アタシじゃ無理だね」

「そっか…」

少女はオルゴールをぎゅっと握って下を向いてしまった。


「大事な物なの?」

「…お母さんに貰ったの」

「…え?」

「お母さん、もういないの…」

「いない…?」

「うん」

「でもこの音があれば、帰ってくるかもしれないの」

少女はオルゴールを見つめる。


「…帰ってくる?」

「…お母さんのこと思い出せるの」

「お父さんが、この音は大事にしなさいって」

「だから、きっとお母さんが帰ってくるの」


「…そっか…それは大事だね」

「うん…」


(イリス…)

ふと、あの子の顔がよぎった。


笑った顔。

怒った顔。



…あの時の顔。





「…お姉ちゃん?お腹痛いの?」

「あ、ごめんね。ちょっと辛いこと思い出しちゃった」

「大丈夫?」

「…大丈夫だよ。優しいね。君は」

優しく頭を撫でる。


「へへへ。なんかお母さんみたい」

「…アタシは…そんなすごい人じゃないよ…」

「?」

少女は首をかしげた。


―その時


「ふぅ、よっこらっしょ」


ベルゼが工房から出てきた。


「あ、あのお兄ちゃんに出来るかどうか聞いてみるね」

「うん。じゃあこれ」

そう言って少女はオルゴールを渡してくれた。


「ありがと。ちょっと待っててね」

イリアはベルゼのもとへ。


「ねえ、ベルゼ」

「ほいほい?」

「これ、音が途中で途切れるんだけど直せる?」

「ん?お前じゃ無理なん?」

「…アタシの魔法じゃこんな細かい所まで無理だと思う」

「んー…まぁいっか。ちょっと待ってろ」

「ごめん。手間増やして」

「あの子供に頼まれたんだろ?ならこれも仕事よ」


ベルゼはそう言ってタイヤの取付作業に取り掛かった。


「お嬢ちゃん。あのお兄ちゃん後で見てくれるって」

「ホント!ありがとうお姉ちゃん!」

「お礼ならあのお兄ちゃんに言ってね」

「うん!」


小さな笑い声が、しばらく工房の前に響いていた。




「よいしょっと」

慣れた手つきでタイヤ交換を終えた。


「助かりました。こんなところでパンクして困ってたんです」

「ここから街は少しあるからな。歩くってなったら結構きついか」

「はい。僕はともかく、子供もいるのでどうしようかと思ってました」

ホッと胸を撫でおろしている。


「ま、これからは小まめに点検はしたほうがいいぜ」

「そうですね。肝に銘じます」

「さて…次は…」


オルゴールを見ようと思った。

――その時だった。


ふと、空気が揺れた。



「……?」

「わああああああ!!」

少女の叫び声だ。


少女とイリアの方を向く。


ハウンドウルフ2体が二人をにらみつける。


―違う


ここにいる全員が数体に囲まれている。


「イリス!!」

客が叫ぶ。


ちっ。

まぁ、こいつらならただの工具で十分だ。



「イリア!そっちは任せた!!」

「っ、うん!!」


ベルゼは手にしていたレンチを握り直す。


「俺から離れるな」

「は、はい!」


ハウンドウルフが飛びかかってくる。


「うわあああああ!!」

「おらぁ!!」



ガァン!!

振り抜いたレンチが、飛びかかってきたハウンドウルフの頭を弾く。

残りの二体が、低く唸りながら距離を取った。


「…めんどくせぇ」

ベルゼは二体をにらみつける


2体は同時に飛びかかった。


「…同時か。助かる」


1体の攻撃を躱す。


ガァン!

レンチで叩きつける。


残りの1体はすぐに背後から襲い掛かる。


「うぜえ」


殴った勢いのまま、背後にレンチを投げる。


「キャイン!」

そのレンチは顔面に当たり、スキが出来る。


「終わりだ」


マズルと首元を掴み、思いっきり地面へ叩きつける。


「ギャッ!!」


叩きつけられたハウンドウルフはそのまま絶命する。

先にやられた2体のハウンドウルフは起き上がり、逃げていった。



一方イリアは


「怖いよ…お姉ちゃん」

「大丈夫だよ。任せて」


イリアは少女を背にし、ナイフを抜いた。


1体がイリアに飛びかかる。

「っ!」


わずかに身を逸らし、腹部を刺す。


短く鳴き、そのまま崩れ落ちた。


「……あと一体」

ナイフを逆手に持ち替える。


間髪入れず、イリアは踏み込んだ。


虚を突かれたハウンドウルフはそのまま蹴りを喰らう。


「キャイイン!」

そのまま倒れたところをイリアは追撃。


「…ごめんね」

イリアはナイフを腹部に刺し、力任せに押し込んだ。


暴れるハウンドウルフは次第に動かなくなった。


「イリス!!大丈夫か!!」

「お父さん!大丈夫だよー!」


少女が両親の元へ駆け寄る。


その時だった。


「ガアアアアアアアアアアア!!」


1体潜伏していたハウンドウルフが少女に飛びかかった。


「きゃああああああ!!」

「イリスウウウウウウウ!!」

両親が必死に少女の元へ行くが、間に合わない!!


(お願い…!!)

「間に合えええええ!!!」

イリアは地面に魔力を込めた。


その瞬間、少女の側の地面が一気にせり上がり、ハウンドウルフを吹き飛ばした。


「はあ…はあ…」

イリアは周囲を見る。

ハウンドウルフの影は見当たらない。


「お嬢ちゃん!大丈夫…」

「来るな!!!」


イリアが駆け寄ろうとした瞬間、父親が少女を抱き上げてこちらをにらみつける。


「…あんたら…魔族だったんだな」

「…あ」

(そうだ…アタシ…魔法を…)


「僕たちを油断させていったい何をするつもりだったんだ!!」

「そ、そんな…アタシは…」



「…お代はいいよ」

「タイヤは直ってるからさっさといきな」


「…」

父親はキッと睨む。


父親は少女を抱えたまま蒸気車に飛び乗り、そのまま急発進した。


「…あ」

ハウンドウルフに襲われたときに落としてしまったのか。


地面には、少女のオルゴールが落ちていた。

――さっきまで、あの子が大事そうに握りしめていたものだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ