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ブレイクギア ー荒野を駆ける、破壊と創造の蒸気工房ー  作者: すのもとまさお
爺さんと屋敷と大きな置時計

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第63話 完璧人間の違和感


―バルジ邸 時計部屋―


「………」

エリーネはしばらく時計の中を見ていた。

ベルゼはただじっとそれを待っている。


「……ふぅ……」

「どうだ?なんか分かったか?」






「……全然分かんない……ごめんなさい……」

これ以上ないくらい肩を落とす。


「お前でもダメか。まぁ、しゃあねえ、もう一回地道にいくか」

「……そうね」

エリーネが準備しようとするが、ベルゼが動きをピタッと止める。



「……ホントにダメか?」

「え?」

「別に答えを求めてるんじゃねえんだ。もし、気になる事あれば言ってくれるか?」

「え…えっとぉ……そうね……」


エリーネが顔を伏せ、顎に手を当てながら考える。


「……大したことないと思うのだけど……」

「ああ」

「まず、ゼンマイの取り付け位置が均等になってるという点ね」

「……それ、なにがいけねえんだ?」

「いけない訳ではないんだけど……なんとなくだけど、均等にするなら5個よりも、4個の方が都合良い気がしない?」

「?」

「えっと……この場合、取付位置が上に2つ、下に2つ、で、最後が真ん中に1つよね?」

「ああ。そうだな」

「なんか……あんたの言ってた…その超完璧主義の人間にしては、ちょっと違和感というか……」

「……言われてみれば、確かにな……」

「あと、真ん中のゼンマイ機構だけ、他よりほんの少しだけスキマが広い気がするのよ」

「……スキマ……?」

「ええ……ここなのだけど……」

エリーネが指した部分には、本当にわずかなスキマがあった。

「……ここか……」


「ええ……でも正直、これくらいかしら……」

「ゼンマイの近くだから、動いた時に干渉しないためのスキマとは思うのだけど……」

「そこがなんか……引っかかるというか……」


「………」

(干渉しないためのスキマ……それは俺も思った……)

(……だが……エリーネが言う違和感……)

(……完璧人間の違和感……)

(…………スキマ………)







「……………!!??」

ベルゼの目が見開く。


「ベルゼ?」

「……くくく……」

「え?ちょっと……大丈夫??」

エリーネが心配する。


「くくく……何が時計技師の常識が通用しねえだ……俺だって、てめえの常識に縛られてんじゃねえか……くくく……」

ベルゼが笑い出した。


「…?どうしたの?ベルゼ」

「……エリーネ」

「な、なに?」

「今日はもう無理だ。必要なもんが足りねえ」

「必要な物……?何か分かったの??」

「ああ。あとでイリアに頼んでおく」

「え、ええ……」

エリーネは少し困惑していた。


「……上出来だ、エリーネ 。お前のおかげで分かったぜ。」

「!!??」

今度はエリーネの目が見開く。

それと同時に赤くなる。


「ま、調整がキツいのは変わんねえけど、今よりだいぶ楽になると思うぜ」

「……そこはまだ根気が必要なのね」

「ああ」


「でも、直せるのね?」

「ああ。もう大丈夫だ」




―3日後 バルジ邸 時計部屋―


「……嘘……」

「……いけたか?」

「……ええ……4つとも完璧よ……」


「………」

「………」



「よっしゃあ!!」

「やったわね!!」

パァン!!


「……!?」

エリーネは我に返って、右手を押える。


「え、えっと……そしたらバルジ博士呼んでくる??」

「いや、先にイリア呼ぼう。準備もしてえからな」

「……ああ、例の物ね」

「おう」


―数分後―


部屋にはベルゼたちのほかにバルジと他のメイドや執事たちも集まっていた。


「ほ、ホントに……直ったのか……?」

「ああ、時間も合わせたぜ」

「お爺さんお待たせ」



「ああ。爺さん、あらかじめ言っておく」

「ど、どうしたんじゃ?」

「この時計は、5つ全部が時計を動かすための主ゼンマイじゃなかったんだ」

「な、何じゃと!?どういうことじゃ!!?」

「……まぁまずは動くところを見てくれ」

「あ、ああ……」

バルジはそう返事し、時計をジーっと見ている。


カチ…カチ…


「……動いておる……」

「動いてますね……」

バルジと執事たちがどよめき始める。


「ああ。だが、問題はそこじゃねえ。4つの主ゼンマイが切り替わっても時間のズレが出ねえかどうかだ」

「え?でも、そういう時計ってズレてもほんの少しだから人には分かんないんじゃ……」

「こいつの場合、ズレる時はマジでズレる時なんだよ……」

「だけど、一度全て合えば、ズレが極端に減る仕組みなのよ」

「へぇ……」

イリアが感心しながら時計を見る。


「今回はすぐに切り替わるようにあえてゼンマイを弱めに巻いてるわ」

「それってどのくらいで切り替わるんじゃ?」

「大体1分くらいです」

「1分!!??それだと弱すぎてズレてしまうのでは無いか!?」

「……大丈夫です。そのための中央のゼンマイなのです」

「中央の……ゼンマイ?」


「……そろそろ1分経つな……」


カチ……

長針が動く。


「エリーネ、どうだ?」

「ピッタリよ」

「おお………」

静かな感嘆が起きる。


「……次、2つ目……」


カチ……

長針が動く。


「……エリーネ、ズレは?」

「無しよ」

「……すごい……」





「………3つ目……」

カチ……

長針が動く。


「……エリーネ」

「大丈夫よ」

「…………」

静寂。

誰も声を発しない。



「……最後、4つ目だな」

「……ええ」


カチ……

長針が動く。


「………」

ベルゼは声を発しない。

ただエリーネに視線を送る。


「……完璧よ」

「じゃ、じゃあ……」

「……ああ……」




「……修理完了だ」




「おおおおおおおおおお!!!」

執事とメイドが歓声をあげる。


「ま、待ってくれ!!5つ目のゼンマイは一体なんじゃというのじゃ!!?」

「5つ全てが動力じゃなかったのか!!?」

「……俺も最初は5個すべてが時計を動かすための主ゼンマイだと思ってた……が」

「こいつのおかげで気付いたんだ」

ベルゼはエリーネの方を親指でクイっと示す。


「………」

エリーネは下を向きながら、顔を赤くしてはにかんでいる。


「……やっべめっちゃ可愛い」

イリアとエリーネの面倒を見てたメイドがぼやく。


「爺さん、最初にこいつを見た時に、俺はゼンマイの力が弱くなるタイミングで次のゼンマイに切り替わるって話したよな?」


「あ、ああ。ゼンマイの力が弱くなるとほんのわずかにズレるから、ズレが生じる前に次のゼンマイに切り替わるって仕組みじゃったな」


「基本的な仕組みは間違ってねえ。だが、切り替わる時にリズムがどうしてもズレちまうんだよ」


「ふ、ふむ」


「俺は最初、上から順番にゼンマイが切り替わると思ってた。だから2個目までは合わせられた。だが、3個目――中央に合わせようとすると全部が狂っちまった」


「……なぜなら、真ん中のゼンマイは主動力用じゃなかったんだ」

「な、なんじゃと!?それじゃあ、いったい真ん中のゼンマイは何のために!?」

「俺も驚いたが、こいつは言っちまえば、補助ゼンマイだな」

「……補助ゼンマイ?」

「ああ。こいつは切り替えん時に起こるズレを抑えるためのゼンマイだったんだ」


「どういうことじゃ??」


「……イリア、エリーネ、頼む」

「了解!」

ベルゼがそう言うと、イリアは時計の模型を取り出した。

そして、その模型のふたを取ると、裏側には本体と同じような部品が組み込まれていた。


「こほん……えっと……模型を使って簡単に説明します」

エリーネが説明をする。


(……エリーネ、緊張してるな……)

イリアがそっと見守る。


「動力のゼンマイが一定の弱さになると、このように次のゼンマイに切り替わります」

エリーネが模型を動かす。

「しかし、切り替わる時、どうしてもタイミングがズレてわずかに時間が遅れてしまいます」

「そこで、この中央の……補助ゼンマイの出番です」

「切り替わるほんの一瞬だけ、補助ゼンマイが主ゼンマイの代わりに時計を動かします」

「そして、その間に次のゼンマイに切り替わることで動力は途切れず、リズムのズレも極端に減らすことが出来るのです」


「ちょっと待ってくれ!こんな単純な仕組みじゃったのか!?」

「ああ」

「……なら、なぜ時計技師はこの仕組みを理解できなかったのか……?」

「確かに一般的な技術ではないが、仕組みとしては理解できぬほどでは無いと思うのじゃが……」


「……ああ。俺もそいつらと同じようにひっかかっちまったんだよ」

「……ひっかかった?」

「この時計、劣化してたせいなのか、分からねえが、部品がいくつか無かったんだ」

「部品が……なかった??」



「補助ゼンマイは、4つ全部の切替機構と連動してなきゃならねえんだ」

「ま、まぁ、そうじゃな。そうでないと切り替わるタイミングが伝わらぬからな」

「……俺が見た時はこことここ。上下の主ゼンマイの1つずつしか連結してなかった。壊れてた時と同じ状態にすっとだな……」

ベルゼはそう言うと、模型に付いている部品を取る。



「!!?そうか!!」

「残ってた繋がりだけ見たら、主ゼンマイの次に中央へ動力が渡るように見えたんだ。だから俺も、こいつが3番目の動力だと思い込んじまった」

「な、なるほど……」

「俺が3個目を合わせようとすると、全体が狂っちまうのもそれが原因だったんだよ」


「じゃ、じゃあ時計技師が直せなかったのは……」


「無くなった連結部品の存在に気付けなかったのが原因だな」

「まぁ、あとは調整が死ぬほど面倒だったってのもあるけどな」


「……仕組みが分かってもくっそ大変だったわ……」

エリーネがげっそりしている。


「……これで説明は終わりだ。なぁ、爺さん」

「な、なんじゃ……?」

「……悪かったな」

「なぜ謝るんじゃ??」

「……完璧じゃねえんだよ」

「……どういうことじゃ?」

「……さっき無くなってた部品があったって言ったろ?」

「あ、ああ……」

「その部品はこっちで作ったもんだ。だから完璧な復元とは言えねえかもしれねえ」

「……動かすことは出来たが、完全に元には戻せなかった」


「すまねえ」


「……お前さんは大馬鹿じゃな」

「……え?」

「見てみい……あの時と変わらない……時間も正確に……同じ音で時を刻んでおる」

バルジは時計をジッと見る。


「………」


全員が静かになると、ゼンマイ仕掛けの音と、針が動く音が聞こえる。


「……十分すぎる……これ以上ない出来じゃよ……」

老人の目から涙があふれる。


「……ありがとう……ベルゼ君……君たちに頼んで本当に良かった……」

ベルゼの手を握り、バルジは声を絞り出す。


「………おう」




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