第62話 あんな話聞いたら泣くでしょおおおおおおおお!!
―バルジ邸 時計部屋―
ベルゼとエリーネは昼食を取った後も、ひたすら時計の調整を続けていた。
「よし、エリーネ。いくぞ」
「……ええ」
カチッ…
「……どうだ?」
「……またダメ……」
「そっか……むぅ……」
(ダメだな……どうしてもゼンマイ機構の3個目を合わせようとすると、さっきの2個がダメになる……)
(2個までは意外とすんなり行くのに、3個目を合わせようとすると途端にダメになるな……)
(……一週間も経ってるのに、5個目どころか、まだ4個目にすらいってねえ……)
(前にイリアに作ってもらった部品も全部調整しきったが、ダメだった……また作り直してもらうか……)
(……まぁ、明日は別のアプローチしても良いな)
(……くくく……こりゃおもしれえな……)
「……はぁ……」
「おっと。大丈夫か?エリーネ」
「……ごめんなさい。ちょっと辛くなってきたわ……」
「そうだな。もう日も落ちてるし、このくらいにしとくか」
「ええ……ごめんなさい。体力なくて……」
「ここまで付き合ってくれたんだ。なんも問題ねえよ」
「……ありがと」
「……?何か言ったか?」
「……何でもないわよ!!」
「……怒る元気はあるんだな……」
―バルジ邸 通路―
「とりあえず、今日の成果伝えてガラクタ丸に帰るか」
「……」
「?どうした?」
「毎回、これ伝えるのが心苦しいのよ……」
「まぁ、しゃあねえだろ。実際、進展ねえんだし」
「……でも、ワタシ達、今タダ飯食らってる状態よ?」
「だって、爺さんが好きなだけ見てていいって言ってたし。それに飯は用意するって言ったのも向こうだぜ?」
「……そうだけど……せめてこう……何か1個でも進展があれば良いのに……」
「あの爺さんはそんな細かいところ気にしねえだろ」
「……バルジ博士は良いとしても、周りの人たちまでそうとは限らないでしょ?」
「でも、爺さんの命令には逆らえないだろ?」
「……それはそうだけど……」
「お?そうこう言ってるうちに爺さんいたぜ」
「!?」
エリーネはベルゼの後ろに隠れる。
「……なんで隠れるんだよ……」
「な、なんとなく……」
「まぁ、いいや。おーい!爺さーん!」
「……こいつ……ホントに肩書とか気にしないのね……」
「おお!!ベルゼ君にエリーネ嬢か!!どうじゃった!??今日もダメだったか!!」
「おう」
「おうじゃないわよおおお!!何軽く返事してんのよおおお!!!」
「がははは!!良い良い!!明日も頼むぞ!!」
「おう。任せてくれ」
「……お任せください……」
ベルゼはいつも通り。
エリーネはげっそりして返事をする。
「じゃあ、ワシはこの後用事があるからの!夕飯はワシ抜きで頼むぞ!!」
「かしこまりました」
バルジの傍にいたメイドが返事をする。
「……ベルゼ様、エリーネ様」
「んぁ?」
「…はい?」
「……ホントにあの時計、直せるんでしょうか?」
「動かすだけなら、もう出来てるが、調整が難しくてな。すまねえな」
「……」
「ちょ、ちょっとベルゼ!!ごめんなさい!!こんなにもお世話になってるのに、進展がなくて……」
「あ、いえ、そうではないんです」
「え?」
エリーネがキョトンとする。
「……旦那様のあんなお元気な姿、ここしばらく見てませんでしたから……」
「……あの爺さんが……?」
ベルゼは顔をしかめる。
「はい……奥様が亡くなられて、もう10年経ちますが……あの頃のバルジ様は本当にもう見てられないくらい落ち込んでおりました」
「……最愛の人を亡くしたんですもの……それはそうよ……」
「それと同時にあの時計も止まってしまって……それからバルジ様は何とかあの時計を直そうとしました」
「最初はご自身で直そうとしたんですが、バルジ様の専門外でしたので、うまくいかず……次に時計技師をお呼びしたのですが……」
「むしろ、時計技師じゃダメだろうな……」
「え?なんでよ?」
「あの時計の構造、普通とは違うって言ったろ?時計技師の常識だけじゃ通用しねえんだ」
「……その通りです。一度は見てくださったのですが、誰もが直せないとおっしゃるばかりでした」
「あの爺さんは10年間……ずっと探してたのか?」
「……はい。とにかく、直そうと必死に技術屋さんを訪ねて回っていました」
「……」
「ですが、あなた方がいらしてからは、奥様がご存命だった頃のように元気になりまして……」
メイドの目が潤んでいた。
「……ま、俺達がいるうちは、任せときなって言っといてくれ」
「……かしこまりました。それと……」
「??」
「??」
「本当にありがとうございます。奥様の時計、よろしくお願いします」
「おう」
メイドは立ち去った。
「さて、飯までのんびり……エリーネ……?」
「ぐす……ひっ……ヒック……」
エリーネは号泣していた。
「……なんで泣いてるん??」
「あんな話聞いたら泣くでしょおおおおおおおお!!」
「お、おう……」
ちょっと引くベルゼ。
「……っ!」
涙を拭うエリーネ。
「ベルゼ!!夕飯までにもう一回時計見るわよ!!」
「え?お前疲れてたんじゃないの??」
「あんな話聞いたら吹っ飛んだわ!!」
「……いいぜ。とことんやろうぜ」
「望むところよ!!」
「……よし、今回はお前にも中を見てもらうか」
「え!?ワタシ、専門外よ!!?」
「さっきも言ったろ?むしろ専門外のヤツの方がいいんだ」
「……」
「お前だって、ある程度は理解できるだろ?設計士様の意見も聞きてえんだよ」
「……分かったわ。やってみる」
「よっしゃ!じゃあ行くか!」
「ええ!!」
二人は再び時計部屋に向かう。




