第59話 作ったやつ頭イカれてるぜ
―老人の豪邸 客間―
イリアとエリーネはメイドに客間へ案内された。
「ごくごく」
「ぽりぽり」
イリアはお菓子とお茶を堪能している。
「……あんた……よくそんなにパクパク食べれるわね……」
「え?美味しいよ?エリーネは口に合わない?」
「……うん、そういうことじゃない」
「??」
(……この子、意外と図太いわね……)
「ふふふ。ホントに仲がよろしいですわね」
メイドがほっこりしながら見ていた。
「ですが、遠慮はいりませんよ。旦那様からはきちんともてなすよう、申し付かっておりますので」
「……それじゃあ……」
エリーネもお菓子を食べる。
ぽり。
「……っ~~~!」
エリーネの目がきらきらする。
「……やっべ、こいつら可愛い」
「??」
「??」
((メイドさんなんか言ったかな?))
「あ、あの……」
「どうしました?お嬢様」
「………ワタシ達、あのお爺さんから依頼を受けたのだけど、何者なのか、知らないんです」
「この街の人には博士って呼ばれてたし、こんな豪邸に住んでるなんて……あのお爺さん、何者ですか?」
エリーネがメイドに質問をする。
「……え?お仕事を引き受ける時に確認してないんですか?」
「……そういえばあいつ、お客さんの名前とか聞かないね……」
「……普通、仕事を受ける時は契約書とか作るでしょ……」
エリーネが呆れていた。
「……契約とかは分かんないけど、名前くらいは確認するよね普通……」
「そうね……あいつ、なんでそういうところ、雑なのかしら……」
「……まぁベルゼだし……」
「……それで済むのって良い事なのかしら……?」
頭を抱えるエリーネ。
「……あ!そ、それであのお爺さんって……」
イリアが思い出したかのようにメイドに聞いた。
「あのお方はカルデニアの蒸気機関私立研究所の所長のバルジ様です」
カラン……
「エリーネ!?」
「ああ!!大丈夫ですか?」
エリーネがカップを落としてしまう。
メイドが慌てて対応しようとする。
「…………………すみません。もう一回いいですか?」
「ええ。すぐにお茶を……」
「い、いえ、あのご老人のお名前を……」
「……?エリーネ??」
イリアがエリーネを見る。
「……?あのお方はバルジ様です」
「………あ………嘘……も、もしかして………バルジ・グランツィエ……?」
「はい。ここはバルジ・グランツィエ様のお屋敷になります」
「??エリーネ?あのお爺さん、すごい人なの??」
「………グランツィエ……最初の蒸気機関を発明した一族……」
「……そして、バルジ・グランツィエは、王立の研究者も彼の論文を参考にするほどの人物……」
「……………………え?」
「ええええええええええええええええええええ!!!??」
―バルジの屋敷 時計のある部屋―
「………なるほどな……」
「な!?構造、分かったのか!?」
「ああ……くくくく……これ、作ったやつ頭イカれてるぜ……」
「……どういうことじゃ?」
「間違いねえ……こいつを作ったやつは、超完璧主義者だな」
「………??」
「最初に変って思ったのはこいつ、5つもゼンマイがあるのに、時間を刻むことしか出来ねえ」
「そうじゃな。こいつには時報を鳴らす機能や、他の機能もなかったわい」
「ってことはだ。この5つのゼンマイは時計を動かすためのもんだ」
「??それはおかしいのではないか?時計を動かすにはゼンマイ1つで十分なはずじゃ」
「ああ。俺もずっとそこが引っかかってたんよ……」
「んで、一個仮説を立ててみた」
「仮説?」
「もし、こいつを作ったやつが、ほんのわずかなズレも許さない超完璧主義者なら……こいつの意味が少し変わる」
「……!!?まさか……ゼンマイが5つもあるのは…………」
「ああ。時間をずらさない為の機構ってことだ」
「……じゃが、どうやって……?」
「こいつ、5つのゼンマイを順番に切り替えてやがる」
「切り替えている?」
「ああ。ゼンマイの力が弱くなった時に、次のゼンマイに切り替わる仕組みだな」
「……思ってたよりも、単純な仕組みじゃが……」
「ああ。だが、こいつのおもしれえ所はそこじゃねえ」
「???」
「普通のゼンマイ時計もなるべく時間のズレがないように色んな部品が付いているんだが……」
「それでも力が弱くなってくっと、わずかに時間がズレてくる」
「だが、こいつは5つのゼンマイを順番に切り替える事で、時計を動かす力が弱くならねえようにしてんだ」
「じゃが、それだけでは切り替わる時に力が変わるじゃろ?それでわずかにズレるはずじゃが……」
「ああ。だから作ったやつは狂ってんだよ」
「切り替わる直前に次のゼンマイや歯車のかみ合わせ、さらには部品のサイズまで微調整して、今動いてるゼンマイとほぼ同じ力に合わせてる」
「……つまり?」
「時計に送る力がずっとほとんど変わらねえようにしてんだ」
「切り替わる瞬間でも、脱進機へ送る力まで乱れねえようにしてるなこれ」
「まぁ、あれだ。要するに」
「こいつ、調整が死ぬほど時間かかるぜ?」
ベルゼはそう言いながらニヤニヤしている。
「で、どうする?爺さん」
「仕組みは分かったから、ただ動かすだけなら今すぐにでもイケるぜ?」
ベルゼはバルジの目をまっすぐ見据える。
「……いいのか?」
「ああ」
「……」
バルジは頭を下げる。
「頼む……!元の時計に戻してやってくれ……!」
「おう。任せな」




