第58話 ……くっそおもしれえ……
―老人の豪邸 奥の部屋―
「この時計じゃ」
老人が指さしたのは、人の腰ほどの高さのある大きな置き時計。
「……かなり古いな」
「……これは40年前、結婚記念日に婆さんにねだられて買った物じゃ」
「お婆さんに?」
「……ああ。婆さん、アンティーク好きだったからのう。買った当時でもアンティーク時計として売られていたんじゃ」
「………お婆さんは、もしかして……」
「……逝ってしまったよ。10年前にな。それと同時じゃな。こいつが止まったのは」
切ない目で古時計を見つめる老人。
「……ちょっとベルゼ?」
「んぁ、どした?エリーネ」
「あんた、これ直せるの?蒸気機関じゃないし、なによりかなり古い物じゃない」
「まぁ見てみねえと分からねえな」
「……あんた……こんだけもてなされて、『ハイ無理でした』は、かなり無理があるわよ……」
「この時計、婆さんは大事にしてたんじゃ。きっとこの時計も婆さんが逝ってしまって寂しいのかもしれんのう」
「……お爺さん」
「いろんな技師に見てもらったが、皆口を揃えて無理だって言うもんじゃからのう。そんな時にあんた達を見つけたんじゃ」
「ああ。”機械ならなんでも見る! 機械工房ガラクタ丸”だからな」
「なんでも見てくれるなら、この時計も直してくれるかもしれんと思ってな……あの時は必死じゃったわい」
「……必死過ぎて岩に激突したのね……」
エリーネが呆れ顔で思い出していた。
「……爺さん、ここでこいつを見て良いのか?」
「もちろんじゃ」
「ホントに良いのか?この部屋、ばあさんの部屋だろ?」
「え!!?」
「そうなの!!?」
イリアが周囲を確認すると、アンティーク系の小物や化粧台があるのが見えた。
(……ホントだ。確かに女性の部屋だここ……)
「……いいんじゃよ。工房に持って行く途中で落とされても困るしの」
「わかった。正直俺もそっちの方が助かるぜ」
「……直してくれるのか?」
「一旦、中身見ねえと何とも言えねえな。早速見て良いか?」
「ああ。頼む」
そう言われ、ベルゼは置時計をジーっと見る。
やがて、持ってきた工具で蓋を外し始めた。
「……なんだこれ!?」
ベルゼが珍しく驚きの声をあげた。
「え?」
「ど、どうしたの?」
「……エリーネ、こいつを見てみろ」
「……え、ええ」
恐る恐る時計の中を見るエリーネ。
まず分かったのが、これはゼンマイを動力とする時計だということ。
しかし、一般的なゼンマイ式時計と比べて内部の部品の数が圧倒的に多い。
「………なに……これ……?」
「これは……やべえな……」
「……これ、無理じゃない?ベル……ゼ……?」
エリーネはベルゼの表情を見る。
言葉とは裏腹に目が輝き、笑みがこぼれている。
(……こいつ……これ見てなんでそんな表情が出来るの……?)
「……ベルゼ、依頼受けるんだね?」
イリアがベルゼに声をかける。
「……ああ。爺さん、悪いが結構時間かかりそうだ」
「!!?引き受けてくれるのか!!?」
「直せるかは分からねえ。だが、やってみてえ。それでもいいか?」
「も、もちろんじゃ!!」
「報酬は直ってからでいい。保証は出来ねえからな」
「良い!!良いぞ!!ありがとう!!ホントにありがとう!!」
老人はベルゼの手を取り、何度もお礼を言った。
「イリア、エリーネ。まずはこいつの構造が分からねえと直しようがねえ」
「少し、時間がかかりそうだ。その間ちょっとゆっくりしててくれ」
「え、ええ」
「わかったよ」
「よっしゃ!!やるか!!」
ベルゼは意気揚々、本格的に作業を始めた。
「……これ、どのくらいかかるのかしら……」
「……わかんない……」
イリアとエリーネは呆然としていた。
ベルゼは時計の内部を確認。
さらに必要な部分を分解し、部品の確認をした。
(……仕組み自体はゼンマイ式だが、なんでこんなに部品が多い?)
(……動力のゼンマイもなんで5つもあるんだ??)
(……普通、ゼンマイが複数ある場合はそれぞれ役割が違うはず……)
(……なのにこいつ、鳴らす機能もねえし、日付表示や他の機能もねえ…)
(……今の所、時間を刻む以外の機能は見えねえ……)
(……それに……)
(……40年前からアンティークとして売られてたなら下手すりゃ、100年近く前の時計だよな?)
(……その時代の作り方とは明らかに違う構造……かといって、今の時計とも違うな……)
(……何なんだマジで……やべえ……これ……くっそおもしれえ……)
「……こいつ……かつてないほどニヤニヤしながら見てるわ……」
「……まぁ、ベルゼって機械好きだから……」
「………それで済まされるレベルじゃない気がするわ……」
「……ていうか、この間ワタシ達はどうする?」
「……一旦、ガラクタ丸に戻る??」
「あ……それでしたらお嬢様方……」
「はい?」
二人にメイドが声を掛けた。
「もし宜しければ、またお茶のご用意しますが、いかがですか?」
「え!!?いいんですか!!?やったあ!」
「ちょ、ちょっとイリア!!あんた少しは遠慮しなさい!」
「ふふふ。仲の良い姉妹ですね」
「あ、いえ、姉妹じゃなくて……」
エリーネが慌てて否定しようとする。
「妹さんの方がしっかりされてるのは珍しいですね」
「………」
「………」
(そういえばエリーネっていくつなんだろう?)
(そういえばイリアっていくつなのかしら?)
同じ気持ちだったが、なんか聞けなくなった。




