第43話 うちで働かないか?
-王立蒸気車製作所 蒸気機関製作現場-
「ここは蒸気機関を作る場所ね」
「基本的にはライン作業でパーツを組み立てていく感じね」
「ほえー」
「すごい…こんなに人が…」
「ずいぶんと効率化されてるな」
ベルゼとイリアは圧倒されている。
「そりゃ、蒸気車は需要あるからね」
「こうでもしないと全然足りないのよ」
「…」
「ベルゼ…」
「どした?」
「こう忙しそうだと、声なんて掛けられないよ…」
「仕事中だしな。流石になぁ」
「あんたたち…またコソコソ…」
「おや?設計士様がこんな所でなにしてんですかねぇ?」
「あ…」
「?」
「んぁ?」
声の方を見ると、中年の男がいた。
「…見学希望者の案内よ」
「案内?はいはいさぞ、暇なんでしょうね」
「…何よ」
「現場も知らないお偉いさんは何も苦労しなくて良いって言ってんですよ」
「なら見せなさいよ。それなら設計にも…」
「現場も知らねえ素人が入ってくんじゃねえ」
「知らないからこそ、見る必要が…!」
「お前は設計図を描いてりゃいいんだよ」
「細かい調整は現場でやる」
「それが効率ってもんだ」
「…」
「分かったら、さっさと見学者の案内終わらせろ」
「で、とっとと設計図描け」
「分かったな?」
「…」
中年の男は去っていった。
「…悪かったわね…変なところ見せ…」
「むっかあああああ!!何あいつ!!」
「!!?」
言い切る前にイリアがキレる。
「現場も知らねえ素人…ねぇ…」
「ま、俺から言わせりゃ」
「現場しか知らねえ素人だけどな、あいつは」
ベルゼがため息交じりで言う。
「!!」
「いや、あんたも現場主義って言ってたじゃん」
イリアが突っ込む。
「現場主義っちゃあ主義だが」
「別に理論や理屈が必要ねえなんて思ってねえよ」
「俺なりにそいつらを持ってんだ」
「…どういうこと?」
「理論や理屈は俺の中にあるってことよ」
「…ますます分かんない…」
「それにな」
現場を見渡すベルゼ。
「何よ」
「言っちゃあなんだが、ただ単純に効率化してるだけだなここ」
「でも、そうしないと供給が追いつかないし…」
エリーネは下を向く。
「それはそうだがな…」
「王立ってもんがどんなもんか興味はあったが…」
「死にそうな顔して動かされてる奴」
「ただ怒鳴ってるだけの奴」
「それでビクビクしながら動いてる奴」
ベルゼは流れるように動く作業員たちを見回した。
「…なんか、全員しんどそうだな」
「これならさっきの設計図見てた方が100倍おもしれえ」
「…つまんねえな、ここ」
「……」
エリーネの目がわずかに揺れた。
「ちょっと!!ベルゼ!!エリーネさんやここの人たちに失礼でしょ!!」
「…こいつだって思ってるだろうよ」
「え?」
同時にイリアがエリーネを見る。
「ガラクタ丸見てた時と全然反応が違うじゃねえか」
「あ…」
「…」
エリーネが黙ってしまった。
「こいつはもっと現場を見て自分の理論を組み立てたいんだろうけどな」
「効率重視のあのおっさんのせいで、それも叶わねえって感じだな」
そう言いながらエリーネを見るベルゼ。
「でも、ここじゃないと、最新の技術や情報が入ってこないのよ」
「最新の?」
エリーネの言うことにイリアが反応する。
「ワタシがここに入ったのはそのため」
「新しい技術や情報を取り入れて、今までにない蒸気車を作るのが夢」
「でも、実際に入ったら、需要のある量産型の蒸気車しか作らせてもらえない」
「仮に最新型の設計図を頼まれても、それの延長線上でしかないわ」
「それでも…ワタシの夢のためにここを離れるわけにはいかないのよ…」
下を向くエリーネ。
「エリーネさん…」
イリアが心配する。
その様子を見て、ベルゼがエリーネに近づく。
「…お前さ」
「…何よ?」
「うちで働かないか?」
「…はぁ!?」




