第44話 呼び捨てで良いわよ
-ガラクタ丸 運転席-
「そうじゃねえ。いきなりアクセルふかすヤツがいるか」
「は、初めてなんだから仕方ないでしょ!」
「いきなり圧を高めるな。ゆっくり上げてけ」
「こ、こう??」
「そうだ。そこから少しずつ、アクセルを踏め」
ベルゼがエリーネにガラクタ丸の運転の仕方を教えていた。
「…まさか、本当に連れてくるなんて…」
イリアはその様子を見守っている。
-数時間前-
「…働かないかって…何言ってんの?あんた」
エリーネはあんぐりしている。
「さっき俺たち急用あるって言ったろ?」
「え、ええ」
「実は従業員を探してたんだ」
「あいつの運転手をな」
「!!?」
「あれを…運転できるの!?」
目が光る。
「ああ。だが、お前も分かるだろうが」
「あいつ、癖があるんよ」
「今の蒸気車とは勝手が違う」
「…そりゃ、あんだけ古いのと今のは相当違うわよ…」
呆れ気味に答える。
「だから、技術屋探してたんよ」
「あいつを理解できるやつな」
「…それでワタシを?」
「ああ」
「…言ったでしょ?ワタシには夢があるって」
視線を落としながら、エリーネは答える。
「それだけどな」
「ここじゃ一生叶わねえぞ」
「!!?」
「ここは効率重視でそれ以外は見てねえ」
「その証拠に好き勝手出来てねえだろ?」
「…」
「確かに俺のとこじゃ、新技術や情報も入って来ねえ」
「なんなら、古い機械の相手になる」
「基本的には客の機械いじりだからな」
くくっと笑うベルゼ。
「だけどな」
「別に新しい技術じゃなくても、お前だけの車は作れる」
「…そんなわけ…」
「ある」
「なんで!?」
「お前、機械好きだろ?」
「…そりゃ、こんなところで働いてるくらいだし…」
「それがありゃ、いくらでも夢なんて追える」
「だが、ここじゃただ使いつぶされるだけだ」
「お前、本当にここで良いのか?」
「…」
黙ってしまうエリーネ。
「ついてきな」
「え?」
「ガラクタ丸」
「触らせてやるよ」
-そして現在-
「あわあわわわ」
「落ち着け。スピードはそんなに出てねえ」
「周りには何もねえし」
「なんならぶつけてもこいつは屁でもねえよ」
「そんなこと出来るわけないじゃない!」
「なら、もうちょっと気張れ。スピード上げてみな」
「わ、分かった!」
「エリーネさんがんばれ」
遠目で応援するイリア。
-ガラクタ丸 リビング-
「うえええ…」
エリーネはぐったりしていた。
「お疲れ様。大丈夫?」
イリアがジュースを手渡す。
「…わ、悪いわね…問題ないわ」
ジュースを飲む。
「はぁああ…生き返る」
「結構スパルタだったねぇ」
「スパルタってもんじゃないわよ…鬼よ鬼」
「いきなりスピード上げろとか、ふかすなとか言うし…」
「こっちは初めてだっつうのに…」
「…でも」
「?」
「エリーネさん、あっちにいる時より、断然良い顔してるよ」
「…そりゃどうも」
そっぽを向く。
「どう?運転できそう?エリーネさん」
「…あのさぁ」
「??」
「その…エリーネさんってやめてくれない?」
「…へ?」
素っ頓狂な声をあげるイリア。
「なんていうか、まどろっこしい…というか、何というか…」
エリーネが頭をポリポリ掻く。
「ええ…じゃあ何て呼べばいいの?」
「呼び捨てでいいわよ」
「よ、呼び捨て…」
「何よ、あいつには呼び捨てだったじゃない」
「ベルゼは…そういえば何でだろ…?」
視線を上に向けるイリア。
「ワタシのことも、呼び捨てで構わないわ」
「…それに…」
「??」
「仲間に…なるかもしれないじゃない」
顔を背けて赤くなるエリーネ。
「!!?」
「それなのに、さん付けはちょっと距離あるというか…何というか…」
エリーネはモゴモゴと言葉を濁した。
「…エリーネ」
「!?そ、そう!!やればできるじゃない!!」
「…可愛い」
「…はぁ?」
………
………………………
「…なにしてんだ?お前ら」
ギアを持って戻ってきたベルゼ。
イリアの伸ばした腕を必死にガードしているエリーネ。
「なんか…可愛くて」
ぼそっとイリアが答える。
「…イリア…お前そういう趣味なの?」
ぎょっとするベルゼ。
「え!!?」
青ざめるエリーネ。
「違う!!」
真っ赤な顔で叫ぶイリア。




