第34話 そのうち俺を食うぜ。あいつは
-ガラクタ丸 リビング-
「ベルゼちゃん…」
「何だよ…」
次の日の朝。
ラグネスは、この日も少女の父親に回復魔法をかけ、リビングへ戻ってきた。
「あんた…やってくれたわね…」
「…しゃーねーだろ」
「…可哀想なシャロン…」
はぁ、とため息をつく。
「――あいつは、俺と一緒にいるべきじゃねえ」
「…」
「腕はもう十分だ」
「俺に縛っとく方が勿体ねえ」
「…」
「それに――」
「俺から離れりゃ」
「そのうち俺を食うぜ。あいつは」
「それが楽しみで仕方ねえ」
ベルゼの表情が珍しく輝いている。
「…へぇ」
「そこまで見てたのね」
呆れながらも、少し安心したように答える。
「ま、うちの娘を泣かしたんだもの」
「てめえ、覚悟できてんだろうな?」
「ちょっと待てラグネス!!話し合おうぜ!!」
「うるせえ!!ぶっ殺してやる!!」
「待て待て!!俺の店ぶっ壊す気か!!」
ドンドンドン!!
ガンガンガン!!
「……はぁ」
イリアがため息をつく。
「二人とも、外に出ましょうか」
少女と父親に声をかける。
「え…あの…二人は良いんですか?」
父親が心配そうに尋ねる。
「あ、お気にせず。死ぬことはないと思うので」
「死!!??」
「お外行くのー?」
「うん!今日は天気がいいし、お散歩しよ!」
「わーい!」
「ほら、この子も行きたがってますし」
「それなら…」
「あ、ベルゼ。うるさいからちょっと散歩に行ってくるねー」
「待てイリア!!助けてくれ!!」
「待てやこらあああクソガキイイイイイ!!」
イリアは完全に無視して、そのまま外へ出ていった。
―シャロン自室―
「…」
情けない…
昨日の夜、ガラクタ丸を出たあと、気づいたら、涙が出ていた。
別に振られたとかじゃない…
というか、あの人絶対分かってないし…
あの人は私のために言った。
分かってる。
「……」
分かってる――
でも――
突き放されたみたいで…
「……っ」
自分がこんなに弱いなんて、思ってなかった…
ベッドに潜ったまま、動けない。
動かなきゃいけないのに。
現場に出て、学ばないといけないのに。
「……動けない…」
力が入らない。
「……情けないなぁ…」
トントン
ノックが鳴る。
誰だろう…?
お父さん?
ドアを開けるとそこにはイリアさんがいた。
「!!?」
「あ!ごめんなさい!ビックリさせて」
「い、いえ…」
「…」
「…」
気まずい…
なんでイリアさんが私の部屋に…
「いきなりごめんね、シャロンさん」
「あ…いえ…どうしたんですか?」
「さっきまでは元気になったお父さんとお子さんと、一緒だったんだけど」
「ラグネスさんからシャロンさんが落ち込んでるって聞いたから…」
「心配になって来ちゃった」
「あ…ありがとうございます」
…あなたのせいでも、あるんですけどね…
「ベルゼが何か言ったの?」
「いえ…そんなんじゃ…」
「遠慮しないで!」
「?」
「ガツンっと言ってやるからさ!」
「…」
何で…この人が…
「別にベルゼさんに酷いこと言われたわけじゃないです」
「勝手に落ち込んでるだけなんで…」
「いやぁ…でもあいつデリカシーないからさぁ…」
…それ、あなたが言います?
「イリアさんは、ベルゼさんと知り合ってからどれくらいですか?」
「え?うーん…1ヵ月は過ぎてるけどなぁ…」
…たったそれだけで
分かったように言わないで欲しい。
「あいつ女心を理解してないからさぁ」
「本人に悪気はないのは分かってるんだけどねぇ…」
…それくらい私だって分かる。
「私の方がベルゼさんと付き合い長いので、大丈夫ですよ」
「そ、そう?」
「あの人との付き合い方は私の方が知ってます」
「…マジ?」
「マジです」
「じゃあ、聞きたいんだけど」
「??」
「あいつの弱点って何かない??」
「…はい??」
弱点…?
何言ってんだこの人…?
「いやさぁ…たまーにだよ?たまーにイラっとすることもあるからさぁ」
「ちょっとギャフンと言わせたいなぁって思う時があって…」
…ベルゼさんってギャフンって言うのかな?
『…ぎゃふん!』
「…………」
「ぶふうううう!!!」
おかしくて、思わず噴いてしまった。
「え!?」
「くくくく…す…すみません…ちょっと待ってください…」
「え…う、うん…」
シャロンはしばらく笑い続けた。




