第33話 俺の自慢の弟子だ
―バー 店内 開店前―
「…で、あんたの目が腫れまくってる理由がそれね」
「…すみません」
「はぁ…もういいわ。今日はあんたは休みで」
「い、いえ!そんなわけには!」
「そんな顔でお客さんの前に立たせられないわよ!」
「そ、それなら皿洗いでも何でもします!」
「…あんたさ」
「はい?」
「なんで、そこまでしてくれるわけ?」
「え?」
「言っちゃえば、今回の労働も半分は無理やりよ?」
「え?だって、修業つけてくれるじゃないですか」
キョトンとする。
「そのお礼もあるので」
「…そらまぁ…見てられないんだもん」
「それに…」
「?」
「こうして誰かと話して、仕事の手伝いして、訓練したりするの」
「なんか、嬉しくて…まるで家族と接してるみたいで…」
「…」
「ラグネスさんの事も、まるで本当のおにい…お姉さんみたいに感じてるんです」
「…」
「はは…おかしいですよね…まだ会って数日なのに…」
「…イリアちゃん…」
「は、はい!」
ガシッとイリアの肩を掴む。
ぶわっ!!
一瞬で、涙腺が決壊した。
「もうあんたずっとここに居なさい!!」
号泣しながらイリアに言う。
「えええ!!」
「もう店の手伝いとか良いから!!」
「いやいやいや!」
「そうだ!」
「あんたうちの娘になりなさい!!」
「え!?」
「血なんてしゃらくせえ!!」
「ベルゼちゃんと離れなさい!!今すぐ!!今すぐよ!!」
「えええええええ!!!」
じゃあ、シャロンさんと姉妹に…
どっちが姉だろう??
…そんな呑気な事考えてる場合か!!
―ガラクタ丸 リビング―
「…!!?」
「?どうした?シャロン」
「いえ、何か寒気が…」
「大丈夫か?風邪でも引いたか?」
「だ、大丈夫です」
原因不明の悪寒に襲われる。
「それで、話って何だよ?」
「…ベルゼさん」
「ん?」
「やはり、あなたの元で学びたいです」
「私をここで雇ってください!」
頭を下げる。
「…それは前にも」
「どうしてもです!」
「…あなたと対等になりたいんです!」
「…はぁ」
どうしたもんかな…
こいつ、意外と頑固だからなぁ…
「お兄ちゃん…」
目をこすりながらイリスが入ってきた。
「ありゃ?起きちゃったか?」
「…うん。おトイレ」
「おお。分かった」
「シャロン、すまん、ちょっと待ってくれ」
「いえ、大丈夫ですよ」
「イリス…」
「んー…??」
「ナイスタイミングだ」
「??」
ベルゼはイリスをトイレに連れていく。
「…」
シャロンはリビングで考え込んだ。
(言ってしまった…ついに…)
(でも、ここで言わなかったら…)
(あの人に一生追いつけない…)
(それに…)
(イリアさんに…取られちゃう…)
「!?」
涙を必死に拭う。
ダメだ…
こんなんじゃだめだ…
強く…強くならないと…!!
「わり。待たせたな」
ベルゼが戻ってきた。
「い、いえ!大丈夫です!」
(泣いてる所…見られてないな…?)
「で、さっきの話なんだが」
「…」
ゴクッ…
「ダメだ」
「お前は連れてけねえ」
「…どうしてですか…?」
「ラグネスから聞いてるだろ?」
「俺の事」
「…」
「…お前には未来がある」
「そんな奴が俺と一緒にいるべきじゃねえ」
「じゃあ、イリアさんはなぜ連れているんですか?」
ベルゼが黙る。
「あいつは…俺と一緒だよ」
「え…?」
「止まってんだよ。過去に」
「…」
「だが、それももう終わりかもしれねえな」
「終わり…ですか?」
「ああ」
「まぁ、あいつの意思に任せるがな」
「イリアさんは選ばせて、私に選ばせない理由は何ですか?」
ベルゼは、少しだけ視線を落とした。
「…初めてお前に教えたのは」
「?」
「…こいつの動力部だったな…」
「…よく覚えてますよ」
「それまでも、ただボーっとベルゼさんが機械を触ってる所を見てただけですが」
「不思議と惹かれるものがありました」
「…そっか」
「気付けば、この子の動力室に入って、勝手に工具を手に取ったり、機構を覗き込んだりしてたんですよね」
「そうだったな」
「俺が入った時のお前の焦り顔、今でも思い出すわ」
思い出してクククと笑う
「…やめてくださいよ…」
「勝手に入ったから、やっぱ焦りますよ…」
「でも…」
………………………………………
『んぁ?シャロンか。なんでここにいるん?』
『あ…ごめんなさい…その…』
『これ、気になるんか?』
動力部を指さす。
『…』
コクッ。
『そか』
『じゃ』
『一緒にやってみるか?』
………………………………………
「…その一言が本当にビックリしました」
「で、そこからどんどんのめり込んだなお前は」
「ええ。気付けば、この街の機械くらいなら直せるようになりました」
「ああ。本当に良く育ったなって思うわ」
「…」
「…」
沈黙が走る
「お前は…」
「?」
「おかげで今は一人前の技術屋で」
「俺の自慢の弟子だ」
「!!」
「もし、お前が俺と肩を並べたいなら」
「ますます俺と一緒に居ちゃいけねえ」
「な、なぜですか…!?」
「それだと俺の真似事しかできねえからだ」
「真似事…」
「ハッキリ言うが、俺の道を辿っても俺と肩を並べるなんざ一生出来ねえ」
「腕に関しちゃ、まだまだ先に行くつもりだぞ、俺は」
にやりと笑う。
「並びたきゃ、自分の道を行け」
「自分の…」
「ああ。この街の機械を直せるなら、基礎は十分すぎるくらいだ」
「ここからは俺から離れて学ぶ時期ってとこだな」
「…」
「それなら…」
「?」
「いつか、あなたと肩を並べるくらいになれたら……」
「私を雇ってくれませんか?」
「…雇ってくれなんて言うんじゃねえ」
「…」
「乗っ取ってやる!」
「…これくらい言ってくれ」
「!!?」
「お前ならイケるぜ。俺の弟子だからな!」
「…わかりました」
「――必ず、追いつきます」
「…ああ」
「期待してるぜ」
「応えてみせます!」
「今日は無理言ってすみませんでした」
「いや、お前の気持ち知れて良かったぜ」
「え!!?」
顔が熱くなる。
「技術屋としての覚悟、見させてもらったぜ」
「…」
「…え!?違うの!?」
「いえ…それで大丈夫です…」
「??」




