第32話 あなたのおかげです
―バー 地下訓練場―
「ラグネスさん!今日もお願いします!」
「あら、気合入ってるわね」
「お父さんが目を覚ましましたから!」
「そう」
「それに…」
「?」
「今日のアタシは一味違います!」
「…それは」
「楽しみね…」
ラグネスは構える
―数十分後―
「むきゅうー……」
「あんた…昨日より酷くなってるわよ…」
「何がしたかったの…?」
「実は昨日…」
イリアは昨日あったことを話した。
華奢な男が相手を傷つけずに制圧したこと。
それが自分の目指すべき強さだと確信したこと。
「…あんたねえ…」
「はい?」
「それ、めちゃくちゃ時間かかるわよ?」
「え」
「無抵抗で制圧されたのは、単純に“格が違う”だけよ」
「そうなんですか?」
「まぁ、そういう技もあるにはあるけど 」
「それを修得するにだって時間がかかるのよ」
「そ、そんな…」
「それに」
「それに?」
「今のやり方じゃ、魔法あっても意味ないわよ」
「!?」
「あたし言ったわよね?」
「…魔法を使えばもっと強くなるスタイルを見つける事…」
「そう。今のあんた、魔法あってもなくても一緒よ 」
「うう…」
「ま、でも」
「?」
「そうやって、自分で模索する点はあんたの良い所ね」
「!!」
「次は別の方法を試しなさい」
「はい!ありがとうございました!!」
――立てないまま、イリアは叫んだ。
―ガラクタ丸 リビング―
「ただいまー…」
「おお。見事にボロボロにされてるな」
「ラグネスさん容赦ないんだもん」
「…その分、アドバイスが的確だけど」
ぐったりしながら答えるイリア。
「あいつ師匠にして良かっただろ?」
「うん。ベルゼもラグネスさんに教わったの?」
「…まぁな」
一瞬だけ、視線を逸らす。
「だからあんなに強いんだねぇ…」
「大したことねえよ」
「騎士にケンカ売ってる時点で大した事あるから」
「…そんなに褒めるなよ」
「褒めてないからね?」
二人が言い合ってる時だった。
「あ、あの…」
出てきたのは父親だった。
「あ、大丈夫ですか?安静にした方が…」
イリアが心配する。
「散歩くらいなら大丈夫と言われてるので…それよりも…」
「?」
「お二人とも、本当にありがとうございます」
「え…?」
イリアは驚いてしまった。
「娘から聞きました。あなた方が必死になってくれたこと」
「あんな酷いことをしたのに、助けて下さってありがとうございます」
「感謝してもしきれません」
「ま、待って!待って!」
イリアが慌てて止める。
「違うの!」
「あなた達が傷ついたのは…アタシのせいなの!」
「アタシが余計な事をしなければ…」
「巻き込むことはなかったの!」
「だから…」
「謝らなきゃいけないのは、アタシなんです!」
「…ごめんなさい!」
イリアは深々と頭を下げる。
「…いえ」
「それは違います」
父親は即座に否定をする。
「…あなたのおかげなんです」
「…え?」
「イリスがまた笑うようになったのは…」
父親の肩が震える。
「あのオルゴールは妻の形見なんです」
「妻が亡くなってから、あの子はあれを肩身離さず持っていました」
「あ…」
「きっとあれが無かったら、今もあの子は塞ぎこんでいたことでしょう」
「でも、あなた方は危険を顧みず、届けてくれた」
「あの子、本当に嬉しそうで…」
「…っ!」
息が詰まる。
「そんな…」
「アタシは何も…」
ようやく絞り出す。
「それだけではありません」
「え…?」
「僕が寝ている間、ずっとあの子の面倒を見てくれたんですよね」
「あの子、あなたの話ばかりするんですよ」
「…あ…アタシの…?」
「はいっ…」
「妻が亡くなって以来、あんなに元気に話す娘は…本…当に…っ久しぶりで…!」
父親も涙声になっていく。
「あの子が元気になったのも、あなたのおかげです」
「本当にありがとうございました!」
父親は再度頭を下げる。
「……っ」
「こちらこそ…ありがとうございます…!」
イリアは涙声で礼を言った。
「…そろそろ良いんじゃねえか?二人ともゆっくり休んどけよ」
「はい…では失礼しますね」
父親は客室に戻った。
「…」
ポンっ!
ベルゼが背中を軽く叩く。
「…ばかぁっ!!」
ブワッ!!
イリアの涙腺が崩壊した。
「昨日今日で泣きすぎだろお前」
そう言いながらも、口角がわずかに上がる。




