第3話 この魔族を見なかったか
―近くの街―
「ここは門番もいなくて助かるな」
ベルゼたちを乗せたガラクタ丸は広場に止まる。
「よし、着いたぞ……って」
「おえええ・・・・」
「おいおい、だらしねえな」
荒野を全速力で駆け抜けた結果、あまりの揺れにイリアは酔っていた。
「仕方ないでしょ・・・あんなにガタガタ揺れてたんだから・・・」
顔色が真っ青になっているイリア。
「しゃあないな。俺が街行って食いもん適当に買ってくるから、休んでろ」
「うう・・・ありがとう・・・」
ベルゼは一人で街に降りた。
街はそこまで発展していないが、周囲には畑や水田、果樹園が広がっている。
ベルゼは農家たちが使っている道具も見る。
少し古いが、蒸気機関を搭載した、農耕機や蒸気機関式田植え機。
時間になると自動で水を撒く装置も見受けられる。
「おお。ここの食材はけっこう良いもん揃ってそうだな」
少し期待する。
ベルゼは街中を散策しながら、食料を買い漁った。
―1時間後―
「ふぅ……ま、こんだけ買っとけば、少しは持つかな」
ベルゼは大量の食材を購入し、帰路に立っていた。
「……しばらく二人分だし、削れるところは削らねえといけねえが……」
「ま、今日は良いだろ。腹減ったし、あいつもいるしな」
ガラクタ丸が見えてきた。
――その時だった。
シュウウウウ……
ガシャンガシャン……
不気味な蒸気音と金属が軋む音。
その音と同時に無骨な蒸気機関を搭載した鎧を纏った騎士に声を掛けられた。
「……そこの小僧、待て」
「……」
無視して立ち去ろうとする。
「……待てと言っている」
「……あ?俺か?」
しらばっくれて反応する。
「……貴様以外誰がいる?」
「色んな奴いるだろ?」
あえて生意気な口調で話す。
「……ふん。まぁ、いい」
「あっそ。じゃ、もういいか?」
「……こいつを見なかったか?」
蒸気騎士は紙を広げる。
そこには似顔絵が描かれていた。
赤みがかった、ポニーテール。
スカーフを巻いた少女。
どう見ても、さっき拾ったイリアだった。
「……見てねえな」
「……ホントか?」
「ああ。俺、ついさっき来たばっかだぜ?」
「……ホントだろうな?」
「しつけえな。そもそも、この女が何なんだよ」
「……魔族だ」
「……へぇ……魔族なんだな、そいつ」
「……もう一つ聞こう」
「なんだよ?」
「……どうやってここに来た?」
「あのバカでけえ蒸気車」
ベルゼはガラクタ丸を指さす。
「……ほう。中を見ても?」
「構わねえぜ。傷一つでも付けたら、弁償してもらうけどな」
「……なんだと?」
「あいつ、古いもんなんだよ。パーツもねえ。それを修理すんのにどんだけかかるか俺も想像できねえな」
「………」
騎士は黙る。
「そういう場合はどこに請求すればいい?お前らん所か?」
さらに追い打ちをかける。
ベルゼは騎士をジッとにらみつける。
「……………」
騎士もベルゼを見据える。
二人はしばらく無言でにらみ合った。
やがて、騎士は手配書をしまった。
「……ふん。もういい。勝手な事をするなよ」
無機質な金属音を鳴らしながらそう言って騎士は立ち去った。
「……っち。中見ようとしたらぶっ飛ばしてやったのに」
ベルゼはそう言いながら騎士の背中を睨む。
―ガラクタ丸 リビング―
「……」
イリアは室内を見ていた。
(……ホントに家で、蒸気車なんだ……)
「……あいつ、アタシを魔族って知っても、何もしなかった……」
「……何が目的……?」
イリアがベルゼに疑いをかけていた時だった。
「たでーまー」
「!!?」
リビングの扉が開く。
「……なにしてんの?」
「べ、別に何でも良いでしょ!!」
「……ま、いいか。お前食えないもんあるか?」
「………え?」
「食えないもん。嫌いなもんとかアレルギーとかだよ」
「……別にないけど……」
「そか。じゃ、ここ離れたら、飯作るぞ」
「……離れたら?」
イリアは疑問に思う。
「ああ。さっき騎士に声かけられた」
「!!?」
「お前のこと探してたぞ」
「……」
「魔族も大変だな」
「……あの……」
「降りんのはナシな」
「え……でも……魔族の味方でいたら、あんたまで……」
「別に構いやしねえよ」
「え?」
「っていうか、そんな事よりも、時計代稼いでくれ」
「……時計……」
「さっき床と箒はお前の魔法で直してくれたけど、あの時計は無理だったろ?」
「……まさか、あそこまで複雑だとは思わなかったんだもん……」
「ま、なんにせよ、稼ぐまでは降ろす気ねえから」
「………」
「あ、でよ」
「??」
「何食いたい?大抵のもんは作れるぜ?」
「………」
(騎士に狙われてるのに、ご飯の話題……)
ぐぅ~~~
イリアから発せられる音。
「…………クリームシチュー……」
「飯だと正直だなお前」
「うるさい!!」
「じゃ、とりあえず、離れるぞ」
「う、うん」
ポオオオオオオオオオ!!
シュッシュッシュッ……!!
街から離れる二人。
―荒野―
「ほい。おまち」
「……」
イリアの前に出されたのはさっきリクエストした、クリームシチュー。
「……」
「あれ?食わねえの?」
「……何が目的なの?」
「……え?」
「魔族って知っても何もしないし、普通にご飯作って出すし……意味が分かんないんだけど」
「時計代稼いで……」
「嘘つけ!!」
イリアは大きな声をあげる。
「……いや、嘘じゃねえんだけど」
「嘘だ嘘だ!人間のあんたが何で魔族なんかを庇うのよ!!?」
「……あのよ」
「!?」
ベルゼがイリアを睨む。
「魔族だろうと人間だろうと関係ねえ」
「壊したもんを弁償しろって言うのがそんなにおかしいか?」
「……いや……それは……」
「てめえが人間にどんな扱いを受けてきたのか、知ったこっちゃねえ」
「俺はてめえの魔法が便利そうだから、一時的に雇っただけだ」
「……最低でも時計代は稼いでくれ。あとは好きにしていいからよ……」
ベルゼはイリアから視線を逸らす。
「……あ……」
ベルゼの態度を見て、イリアはハッとする。
「……ごめん……」
「よし。じゃ、腹減ったし、さっさと食おうぜ」
「切り替え早っ!!」
「お前だって腹減ってるだろ?」
「い、いや、そんなことは……」
ぐぅ~~~
またもやイリアの腹が鳴る。
「……」
「……」
「「いただきます」」
普通に食べる二人。
ぱくっ!
「………っ~~~!!」
イリアの目がキラキラしだす。
「……やっと普通の表情したなこいつ」
―荒野 深夜―
「……」
イリアはベルゼの部屋へ訪れる。
「……」
ベルゼは背を向けて、横になっている。
「……さっきはごめんね」
「……でも……やっぱ迷惑かけられないよ……」
「……ご飯、美味しかったよ……」
「………さよなら」
そう言ってイリアはガラクタ丸を出ていく。
ベルゼは背を向けたまま、目をつぶっていた。




