第29話 大切なものを失った時
-バー 店内-
バーにはベルゼとラグネスの二人がいた。
店はまだ開いていない。
「で、どうだ?イリアは」
「まぁ、筋は良いんじゃない?」
「そか」
にやりと笑うベルゼ。
「で、あんた、何が目的なの?」
「目的?」
「今回のあんた、ちょっとおかしいわよ」
「そうか?」
「いきなり頭下げてきたから、あの男の人、すごい重要な人かと思ったら」
「拍子抜けするくらい普通の人だったわ」
「そんなこと言ってねえしな」
「それとあのイリアちゃんには、ずいぶん気にかけてるじゃないの」
「…」
「あんたのほうから特訓頼んでくるし、どうしたわけ?」
「別にいいじゃねえか。強いことに越したことはない」
出された水を飲む。
「あの時も、あの親子の為っていうより」
「イリアちゃんのため、だったんでしょ?」
「…」
「あの子、いったい何者なの?」
「さぁな」
「さぁなって…」
「別に何か思ってるわけじゃねえよ」
「こっから先、俺ん所にいようがいまいが」
「今より強くなって損はねえ」
「…魔族なら今の時代、まおさらだ」
「……それに」
「今のままだと、また同じこと繰り返すだろ。あいつ」
「そうね…」
「…大切なものを失った時」
「――それを乗り越えるには」
「強くなるしかねえ」
「…なるほど、そういうことね」
「なにがだよ?」
「…必死に親子を助けてくれって言ってたのは」
「…」
「相変わらず…不器用ねあんたは…」
ふふっと笑う。
「…うるせえな」
「久しぶりに訓練でもするか?」
「…勘弁してよ」
「あんたの訓練、地獄なんだもの」
「そら残念だ」
ニシシと笑うベルゼ。
「ボイラーは直ったんでしょ?」
「ああ。今日はすることねえな」
「なら、お店に遊びに来なさいよ。サービスするわよ」
「…やめとく」
「あら残念。イリアちゃんの働きっぷりも見せたかったのに」
「やりづれえだろ…あいつが…」
「…あんたそういうところ、妙に気が利くわね…」
「…俺が地獄見てんだ…」
「流石に、からかいに行く気は起きねえよ…」
「…前回トラブル起こしてるから、もう二度と手伝わせる気はないけど…」
「…見れないのは残念だわ…」
「…なにを?」
「エプロン姿」
「…あんたのね」
ウィンクするラグネス。
スッ
カチャッ
「よし。今から訓練だ。覚悟しやがれ」
「冗談よ。それ外して頂戴」
ガチャ
扉が開く音が聞こえ、振り向くとイリアが来た。
「あら?まだ時間あるわよ」
「ええ。ですから開店の準備を手伝おうと思って…」
「あんた…」
「あ…出過ぎた真似でしたかね…?」
ラグネスがイリアの前まで来る。
「マジで良い子ね。もうここでずっと働かない?」
「おい」
「こいつんところ辞めてさ」
「え?え?」
「やめろ。うちの従業員を引き抜こうとするな」
「あたしは本気よ」
「…マジ?」
「イリアちゃんの美貌を活かすならここしかないわ」
「び、美貌だなんて…そんな…」
「ハハハ。ヨカッタジャナイカ、イリア」
「あんた馬鹿にしてるでしょ…?」
「ソンナコトナイサ。ハハハ」
「…後で覚えてなさい」
「あんたら、ホント仲いいわね」
「良くないです!」
顔を真っ赤にして叫ぶイリア。
「あらあら」
「ほら、店の準備するから客でもないヤツは引っ込んでな!」
「へいへい。イリア、後はよろしくな」
「いーっだ!」
「イリアちゃん…あんた意外と子供ね…」




