祝杯
昼下がりの屯所。
沖田の熱も、だいぶ下がってきていた。
襖が遠慮なく開く。
「総司、生きてるか?」
原田が入ってくると、ぱっと座敷が明るくなる。
その後ろに腕を組んだ永倉。
そして、静かに戸を閉める斎藤。
沖田はゆっくりと身を起こした。
永倉がそっと手を貸す。
「熱は?」
額に手の甲を当てる。
「……まだあるな」
「うん。でも、少しだよ。だいぶいいんだ」
原田がどかりと胡坐をかいた。
「大変だったな」
しばし沈黙。
「えっと……その……ほんとに迷惑かけちゃって……」
やがて永倉が、にやりと笑う。
「まったくだ」
「肝が冷えたぞ」
沖田は少し困ったように笑った。
「実は僕……あんまり覚えてなくてさ。
その……いったい、何が……」
「覚えてない?」
「うん。水を飲みに行って、それで急に気持ち悪くなったのは覚えてるんだけど……
そのあとが、ぼんやりでさ」
永倉はちらりと斎藤と原田を見る。
「……そうか」
「おまえ、ちょっと具合悪くなってな。吐いたんだよ」
「それが喉に詰まってな。大騒ぎだった」
「喉に?」
「ああ。斎藤が かき出してくれた」
「斎藤、命の恩人だぞ」
「……そうか」
少しの間。
「息、止まってた」
斎藤が短く言う。
「えっ」
沖田の目がわずかに見開かれる。
「それって……死んでたってこと?」
「一歩手前だったな」
「うわー……」
「でも、今こうして生きてる」
原田が肩をすくめる。
「よかったよ」
沖田はゆっくりと息を吐いた。
「……そうか。ありがとう、みんな」
「おう」
そのとき、ちょうど市村鉄之助が茶を運んできた。
湯気が、やわらかく立ちのぼる。
誰からともなく湯呑みを手に取り、
小さく息をつく。
言葉にはしないまま、
それぞれが、同じことを思っていた。
——生きている。
それだけで、十分だった。
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