表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

目覚めを待つ

挿絵(By みてみん)


「医者を呼べ!急げ!」


俄かに屯所は騒然とした。


さきほどまで——

なにも変わらぬ日常だった。


竹刀の音が、まだ耳に残っている。


ピクリとも動かぬ沖田を抱え、座敷へと運ぶ。

耳元で、必死に名を呼ぶ。


——どうしてこんなことになったのか。


シロの吠え声は、いつの間にか、かすかな鼻鳴きに変わっていた。

蒸し暑い夏の空気が、重く彼らを包み込んでいた。



道場の奥座敷。


蒼白な顔で横たわる沖田を前に、近藤勇と土方歳三は言葉を失っていた。

つい先ほどまで、あれほど軽やかに竹刀を振っていた青年が、今は浅い呼吸を繰り返している。


医者は額の汗を拭いながら、低い声で言った。

「なるほど、嘔吐物が喉に入り、息が止まっていたのですね。

蘇生できたのは、幸運です。

蒸し暑い中での激しい稽古……こういうことは、健康な若者でも起こり得ます」


土方の拳が、わずかに震えた。


「助けてくれ」


「まずは、息がどれほど止まっていたか……

目が覚めるかどうか、それ次第です」


それ以上は、言わなかった。



虫の声が、やけに遠く聞こえる。


沖田は昏々と眠り続けていた。

その額は、じわじわと熱を帯びていく。


市村が手ぬぐいを取り替えるたび、布はすぐに温まる。

斎藤は壁際に座し、微動だにしない。

永倉は落ち着きなく庭を行き来し、原田は腕を組んだまま天井を睨んでいる。


「……熱が上がってる」


土方が低く言う。


近藤の喉が、ごくりと鳴った。

それでも、声が出ない。


「総司……聞こえるか」


返事はない。

荒い呼吸だけが続く。


その音が、妙に大きく感じられる。


「……水……」


かすれた声。


全員の視線が、一斉に集まる。


「ここだ、総司」


近藤が身を乗り出す。

だが瞼は開かない。言葉も続かない。


また、静けさが落ちる。


市村は何度も手ぬぐいを替え、

斎藤は壁際に座したまま微動だにせず、

永倉は庭と部屋を行き来し、

原田は腕を組んだまま動かない。


誰も、動こうとしなかった。


ただ、沖田の呼吸の音だけが、

部屋に残り続けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ