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精査

「三枝さん、勇気が要ったはずよね」


 ノートのコピーを机の上に並べる。


「そうですね…でも、これってきっと、氷山の一角なんでしょうね…」


「もちろん、適正に法を遵守している事業者がほとんどだと思う。でも違法を是認している事業者が事故を起こすと、業界全体が悪くみられてしまいかねない」


 正木が深刻な表情で福寿に視線を向ける。


「『傭車』《ようしゃ》って言うんだけどね。例えばA社が請け負った仕事をB社に流す。これが傭車。B社はC社へ傭車する」


 正木はメモを取る。


「そこでそれぞれ中抜きが発生すると、最後に受けた傭車会社は、下限を割り込んだ運賃でやらざるを得ないことになるのよ。発注した会社が適正な料金で出してもね」


「それでも、受けざるを得ない会社も存在する、ということですね」


「前にも言ったけど、事業者が増えたことで過当競争の面は否めないわ。だから、一件辺りを安く受ける代わりに、数多くこなして利益を確保する。やりたくてやっているわけではない筈」


「そうか…構造的な問題って先生が仰ったのは、そういう事だったんですね」


 福寿は、すっかり冷たくなったコーヒーを口にした。


 数日後、三枝が福寿の事務所を訪れた。新たな点呼記録や運転日報、デジタルタコグラフ(デジタコ)の運行記録のコピーを持参した。


 福寿がそれぞれを精査していく。


「休憩時間、点呼記録…いずれも全然守られてないわ…。連続運転時間については、バラツキがあるわね」


「連続運転時間については、二人体制で行ける場合はまだ良いのですが…」


 福寿はそれらの資料を元に、「改善基準告示」に対する具体的な違反を調査し、法的な書類を作成することにした。


「見て、この日のこの部分。デジタコ上では走行しているのに、手書きの日報には休憩時間になっている」


 正木が覗き込んでいる。


「他には…三枝さん、これは何かしら『その他控除7万円』って」


 福寿が、ある月の三枝の父の給与明細を見ている。


「それはこの前お話した、車庫内での接触事故の修理代です。バスの一部の部品が壊れてしまったようで、修理代を天引きするって…『自分が悪いのだから仕方ない』と父は話していましたが…」 


 三枝が説明する。


「過労状態でありながら、自己責任にするなんて…」


 正木が憤る。


「そもそもこれも駄目よ。故意ならともかく…」


 福寿がペンで書類に赤丸を書く。


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