違法
【3月12日 帰庫 23:45 / 3月13日 出庫 03:15】
「睡眠時間は3時間しかありません。実際には日報をまとめたり、給油作業などもあります。父はもう二週間、家に帰ってきていません」
「『改善基準告示』が全く無視されているわ。それで事故を起こすなという方が無理があるわよ」
「先生、その『改善基準告示』って何ですか?」
正木が福寿に尋ねる。
「簡単に言うとね、これ以上働かせたら危ないという、デッドラインのこと。正確には『自動車運転者の労働時間等の改善のための基準』というもので、年間・月間の拘束時間、1日の休息時間を示したものよ」
正木がメモを取る。
「休息時間は、勤務終了後から次の出勤まで継続11時間以上取れるように努めることを基本として、継続9時間は下回ってはいけないことになっているのよ」
「え…じゃあ、完全にアウトじゃないですか…」
正木が顔を上げる。
「もちろん、これだけではないんだけどね。ねぇ三枝さん、この状況を会社に指摘したことは?」
福寿が三枝に尋ねる。三枝は弱々しい視線を福寿に返す。
「はい。何度か社長と、運行管理者には言いました。でも、『補助者は黙ってやれ』『嫌なら辞めろ。会社に損害を与える給料泥棒はいらない』と」
「給料泥棒って…」
正木がつぶやき、ソファの隣に置かれた小さな椅子から立ち上がった。
「愛ちゃんは間違ってないよ、一人で抱えたら駄目だよ!ねぇ先生」
正木が熱を込めて話し、福寿に顔を向ける。
「三枝さんは、どうしたい?私にどうして欲しいかしら」
「父を助けていただきたいのはもちろんです。このままでは、取り返しのつかない事が起きそうで…でも…」
消え入りそうな声で、三枝は言葉を絞り出す。
「父だけでなく…他のドライバーも助けていただきたいです…」
視線を落とす三枝を、福寿が優しい目で見つめる。




