悲鳴
それから数日後
街中を歩いている際、福寿は旅行会社の前を通った。
足を止めて、ラックに挟まれているパンフレットを手に取った。その中に、バスツアーの広告も挟まれている。
[東京⇔大阪3000円]
[東京⇔名古屋2480円]
「え?随分安いのね…」
店員が声をかけてきた。料金の安さについて聞くと、繁忙期と閑散期での違いがあり、提示の料金はあくまでも閑散期のものであるとのことだった。
福寿はパンフレットを事務所に持ち帰り、改めてデスクの上で開いた。
「先生、ご旅行ですか?」
アシスタントの青年がコーヒーを運んできた。
「ありがとう、いただくわ。このバス料金。随分安いなと思ってね」
福寿は瞳と出かけた際に見かけた、バスの運転士の話をした。
「なんていう会社だったかな…とにかく、運転士さんが疲れている感じだったのよね」
「僕の知人がバス会社で事務職やってますけど、やっぱり閑散期は大変だ、って。利益削っても動かさないといけないから、なんて言ってましたね」
「正木君、バス会社に知り合いがいるんだ」
「はい。前に勤めていた会社の同僚なんです」
その時、事務所の電話が鳴った。正木が取る。
「先生、年金事務所から電話が入っています」
「ありがとう。はい、お電話代わりました」
福寿が正木に視線を送り、電話を受けた。そこで別の案件が入り、バスの話はそこで終わった。
数日後の朝
正木が福寿に相談を持ちかけた。
「分かった。じゃあ、アポは明後日の13時ね」
「先生、よろしくお願いします」
そしてその日、正木と同い年という若い女性が福寿の事務所を訪ねてきた。
「愛ちゃん、こちらは社会保険労務士の福寿先生」
正木が福寿を紹介する。
「はじめまして。三枝愛と申します」
福寿と三枝は応接室のソファに向かい合って座った。正木がコーヒーを運んでくる。
「彼の、前の会社の同僚さんだそうですね」
「はい、同期で入社したんですけど…正木君が辞めてから、私も退職しました。正木君、素敵なところで働いているのね」
三枝が正木に目を移す。
「うん。アルバイトなんだけど、先生のアシスタントでね」
「それで、正木君から概ね伺ってはいるのですが、改めてご相談をお聞かせ願えますか」
「実は…父を助けてほしいんです」
「お父さまを…?」




