異変
その日、福寿は学生時代の友人である瞳と、遠方へ観光に来ていた。久々の再会は五年ぶりであったが、仲の良さはその月日の経過をあっという間に縮めた。
二人はレストランで話に花を咲かせていた。
「紗知。社会保険労務士の資格って、すごい難関試験だよね。それに合格して、社労士さんかぁ、すごいね」
「瞳だって看護師さん10年目でしょ。もうベテランさんじゃないの」
二人が笑い合っていると、コーヒーとケーキが運ばれてきた。福寿はコーヒーを口にした後、何気なく窓の外を見ると、一台の大型バスがレストランの駐車場に入ってきた。
大勢の客が降車し、団体客用の別棟に吸い込まれていく。ここは日帰りバス旅行などのコースにもなっている。
福寿はバスに目を向ける。
[希望観光バス]と車体に印字されている。運転席に目をやると、ハンドルにうつ伏せになるように、運転士が伏せていた。
福寿が目を細める。
[体調が悪いのかな…]
「紗知、紗知、ねぇちょっと」
瞳に声をかけられて、はっとした。
「どうしたのよ、窓の外なんか眺めて」
「あぁ、ごめんね。何でもないよ」
笑顔を見せて、ケーキにフォークを入れた。
二人が店を出た際、まだバスは停まっており、運転士は相変わらず伏せたままだった。
「ねぇ瞳。あの運転士さん、大丈夫かな…」
福寿が看護師の瞳に話す。
「え?もしかして、さっきそれを気にしていたの?」
瞳もバスに視線を向ける。
「わかった。ちょっと見てくるね」
瞳は福寿に言うと、バスに走って行き、運転席の窓越しに声をかけた。運転士は頭を上げ、「大丈夫」と表すように、手を何度か振った。しかし、その手は弱々しく、一層状況の深刻さを感じさせた。
瞳が戻ってきた。
「一応声かけてきたよ。大丈夫だって言ってたけど…。でも、顔色が良くなかったな。ちょっと疲れていたみたいだし。目の下に隈ができていた…」
「それ、過労運転じゃないかな…」
福寿が眉をひそめた。
「紗知、仕事のクセが抜けてないな。労務環境が気になっているんでしょ」
瞳が笑いながら覗き込む。
「いや、ちょっと気になっただけ。ありがとね」




