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義元英雄伝  作者: 日向 守
上洛編

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第七十七話 長慶再起 七


松永・内藤勢の放つ鉄砲の轟音と、茨木城から響く三好長慶の狂おしい咆哮。今川軍は前後を殺意の壁に阻まれ、泥濘の中でかつてない混迷の淵に立たされていた。

その時、全軍の喧騒を圧するような、高く、澄んだ声が戦場に響き渡った。


今川義元は、愛馬の背に飛び乗った。泥にまみれ、血煙に霞む戦場の中央へ、軍配を高く掲げて進み出る。


「皆の者、聞け! この苦境を、法の終わりと思うな! かつて、我らは桶狭間の雨の中で一度死んだ。あの時、我が身を盾にして余を守り、散っていった松井宗信らの血を忘れたか!」


義元の声には、過去の悔恨を乗り越えた、凄まじいまでの覚悟が宿っていた。


「宗信らは、余という一人の男を救うために死んだのではない。余が掲げる『黄金の法』、この日の本に平和をもたらす志を信じて命を託したのだ!ここで倒れれば 宗信らの死は無駄となる! 」


義元は松永勢を睨みつけ、叫んだ。


「桶狭間の雨は、我らを強くした! この摂津の泥は、我らを再び磨き上げる試練よ! 余が先頭に立つ。宗信たちが守り抜いたこの命、今こそ道を拓くための矛とせん。京への道を、自らの手で切り拓くのだ!」


その言葉は、疲弊した将兵たちの魂に火を灯した。桶狭間を知る古参の兵たちは涙を拭い、再び槍を握り直して黄金の旗を仰ぎ見た。


「元信、弾正の鉄砲を封じよ!」


義元の鋭い下知に応じ、岡部元信が動いた。


「……御意。松井殿らの魂、今も我が槍の先に宿っております」


元信は松永勢が誇る鉄砲隊の「呼吸」を読み切り、連射の隙間を縫って肉薄する。


「撃たせるな! 銃身を叩き折れ!」


元信の部隊が鉄砲隊の陣を「点」で穿ち、久秀の銃撃網を一時的に機能不全に追い込んだ。


だが、その奥には内藤宗勝率いる精強な槍の壁が、依然として京への街道を塞いでいた。


「……余が自ら、その壁を砕こうぞ」


義元は武田信虎より譲り受けた『宗三左文字』を抜き放つと、黄金の甲冑を輝かせ、最前線の内藤勢へと真っ向から突っ込んだ。


「法を背負う王の道、塞げると思うな!」


義元の剣筋は一閃ごとに内藤の精鋭を薙ぎ払い、鋼の防壁に亀裂を穿った。主君自らの鬼気迫る突撃に、今川兵の士気は爆発。内藤の堅陣が崩れ始めた。


義元が切り開いたその突破口を、柴田勝家は見逃さなかった。


「 光治、行くぞ! 扉が開いた!」


勝家は、義元が穿ったその亀裂に、全身の力を込めたくさびとして突っ込んだ。


「かかれッ、かかれッ! 穴を広げろ! 京への道をこじ開けるのだ!」


勝家の大身の槍が内藤勢の第一列を弾き飛ばし、不破光治もそれに続く。荒武者たちが泥を跳ね飛ばし、松永の本陣をかすめるようにして京へ通じる北の街道筋を確保した。

崩れゆく敵陣の隙間から、はるか東の空、京の方向を指し示し、義元は叫ぶ。


「全軍、突き進め! 弾正、其方の計算に、余の『魂』は含まれていたか?」


松永久秀は、強引に包囲を突き破り、自陣を蹂躙しながら京へと脱出を図る今川軍の猛烈な勢いに、初めて「計算外」の驚愕を浮かべた。


「おのれ!追え、追え!長逸の部隊と挟撃せよ!」


久秀が命ずる間もなく、今川の主力は泥濘を蹴り立て、京への撤退という名の「突破」を開始した。

義元の突撃により内藤勢が突破され、京への道が拓かれる。今川主力は脱出を開始するが、殿の元康は依然として三好長慶の猛攻の渦中にあった。


ここまで読んでいただき誠に有難う御座います。

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