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義元英雄伝  作者: 日向 守
上洛編

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第百八話 畿内の残照


永禄七年冬。かつて天下をその手に収めかけた三好家は、今や巨大な時代の激流に呑み込まれようとしていた。

今川義元が堺を「黄金の法」で接収し、今井宗久ら豪商たちが今川へ帰順したことで、三好家は最大の軍資金源と物流の拠点を完全に喪失したのである。


現在の三好家が保持するのは、畿内では本拠である摂津と、丹波、和泉のわずかな断片のみ。

かつて四国から近畿一円を覆った「三好の海」は、今や今川という巨大な防波堤に遮られ、干上がりつつあった。


「……堺さえ、堺さえあれば、このような屈辱は!」


摂津・茨木城で、若き当主・三好重存(後の義継)は拳を震わせていた。先代・長慶の死後、名門の重圧を一身に背負った彼はまだ若く、荒くれ者揃いの家臣団を統御するにはあまりに経験が不足していた。


重存の権威が揺らぐ中、実権を握り始めたのが三好三人衆(三好長逸、三好政康、岩成友通)であった。


「殿、若さゆえの焦りは禁物にございます。今、今川に正面から挑めば、三好の種は絶えましょう」


筆頭の三好長逸が、冷徹な声で諭す。しかし、その瞳には主君への忠義ではなく、混乱に乗じて己たちの権益を守ろうとする「老獪な野心」が宿っていた。

彼らにとって、重存は掲げるべき旗印に過ぎない。三人衆は、今川の「黄金の法」が及ばぬ丹波や、摂津の国人衆を独自に抱き込み、密かに軍備を増強し始めていた。


「法などという目に見えぬ鎖で、この畿内が縛れるものか。我らには我らの、血と力の理がある」


三人衆は、今川義元が「法」によってもたらした静寂を、再び戦火で焼き払う好機を虎視眈々と狙っていたのである。


一方、和泉の残存領地では、三人衆と松永久秀の対立が表面化しつつあった。

堺に近い和泉の国人たちは、今川に従うべきか、三好に殉ずるべきか、あるいは久秀の調略に乗るべきか、激しく揺れ動いていた。


「三人衆は、長慶様が築かれた三好を壊すつもりか」


久秀は信貴山城から、三人衆の動きを冷ややかに見つめていた。彼は義元に対し「仕えぬ」と宣言したが、同時に三人衆のような「法」を解さぬ者たちが畿内をかき回すことも、美学に反すると感じていた。


そんな折、三好の本陣に不穏な影が忍び寄る。

かつて三好長慶が存命だった頃、協力を申し出て「要らざる手を出すな」と一蹴された、あの甲州透破の頭領出浦盛清である。


「……武田信玄公からの伝言にございます」


闇の中から現れた盛清は、三人衆を前に不敵な笑みを浮かべた。


「今川義元は、法をもって貴殿らの誇りを縛り、富を奪った。我が主・信玄公は、その法という名の鎖を断ち切るため、三好の志ある者たちに力を貸したいと仰せられておる」


かつての長慶なら、武田の火事場泥棒的な野心を見抜き、即座に追い返しただろう。しかし、堺を失い、焦土の中で飢え始めた三人衆にとって、猛虎の誘いは甘美な毒薬であった。


三人衆は、盛清を通じた信玄の提案を呑み、さらに過激な策へと打って出た。

それは、阿波に逃れていた足利義維(義冬)の系統――いわゆる「阿波公方」を担ぎ上げ、京の足利義輝を廃して自らが政権を握るという、起死回生の反逆であった。


「阿波公方を奉じれば、我らこそが正義。義元が盾とする義輝など、ただの今川の傀儡に過ぎぬと天下に知らしめてやる」


長逸の目が、狂気の色を帯びて光る。三好家は、かつての長慶が守り抜いた「畿内の静謐」を捨て、武田信玄という「外部の毒」を招き入れることで、義元の築き上げた新秩序を正面から叩き壊す道を選んだのである。


三好三人衆、ついに阿波公方を擁立し、武田信玄と密約。畿内は再び、戦乱の炎に包まれようとしていた。


ここまで読んでいただき誠に有難う御座います。

評価及びリアクションいただけると幸いです。

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