File11 学校の七不思議♯10
凝りもせず鏡の中にやってきたあたしとイタチを待ち構えていたのは、コピーされたあたし達3人とトカゲだ。
「私が複製されないのはやはり弱いからでしょうか……」
イタチは場違いにもコピーされないことにがっかりしている。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。笛はちゃんと持ってきたわよね」
「はい!では、ひーふーみーよっ!」
イタチが前奏を吹く。心地よい笛の音が響き渡る。人前で歌えるほど歌が上手ではないあたしがボーカルなんてバチが当たるのではないだろうか。これまで全校総会の月の歌でしか歌ったことはない。それもピアノ伴奏なしのアカペラ。
まさか3年後に引越し先で、しかもソロで篠笛付きという歌手レベルの環境で歌うことになるとは。間もなく曲が始まる。あたしはスゥーッと息を大きく吸う。
「赤い目玉のさぁそりぃ〜⤴」
最悪だ。裏返った。それでも演奏は止まることなく、あたしもここでやり直すわけもなく、歌なんだか叫んでいるんだか分からないまま続ける。
そしてようやく1番が終わった。イタチが間奏に入る。これは火に油を注いだのではないかと恐る恐る見ると、なんと三毛猫とかっこう、母子の鼠がいるではないか。
「アンド、ロメダのくーもわぁー」
思わず吹き出しそうになるのを堪え、2番目に入る。まだだ。まだ隙を作るんだ。
「そらのめぐりのめあて〜」
そして間奏を挟み、ラストの1番。
「ひかりのへびのとぐろ〜」
イタチが篠笛を最後まで吹き上げると動物のコピー達がパチパチパチと囁かな拍手をした。すかさず、ぬっとタオと雨が後ろから出てきて、4体に白い布を被せた。
「上手く行きましたね!2人のコーラス!江利様のお歌、見事なまででしたよ!まるで絶世の歌姫を彷彿とさせるような!」
イタチがパァッと顔を輝かせてこちらに振り返る。 お世辞にも程があるんじゃないか。あたしだって自分の歌の絶望なまでの下手さは自覚しているんだし。
「イタチ、お世辞も失礼なときがあるんだぞ。しかし、あんなんで上手くいくんだな。声が裏返った時はどうしようかと思ったぞ」
タオは嫌なことを思い出させる。
「妖怪と人間の感性で別物だから、イタチ君達にはあれが上手に聞こえるんだね。……10年修行しても怪異達の琴線に触れられる者は極少数なのにドンピシャを叩き出せるとは、やはり天任者の家系は云々ドウノコウノ……」
雨がこちらを見ながらブツブツ呟いている。うちの家系に関わりがあることだろうけど聞くことでまた面倒なことに巻き込まれかねないのであたしはスルーする。
「よしじゃ、これでさっさと回収して尋問を……」
『後方より正体不明の巨体が接近!警戒態勢に入ってください!』
Eの叫び声とタオ達の悲鳴が重なる。
「手遅れみたい……」
あたしの目前に広がるのは巨大なタコみたいな触手に哀れにも捕まってしまったあたし除く2人と1匹。歌おうにも篠笛の相棒がいないのではどうすることもできない。
『今どうなっていますか!?』
辛うじて紫鏡を持っているタオだったが、巨大タコに気が付かれて取り上げられてしまった。
「鏡がぁ!!」
タオは取り上げられジタバタともがくが、ビクともしない。
「何これ吸盤?!気持ち悪いー!!」
雨が泣き喚く。あのうじゃうじゃ触手に張り付いている目玉みたいなものが自分の肌に直に当たっている様を想像すると鳥肌が止まらない。タコは茹でられているか輪切りにされているほうが可愛いよ。イタチも手も足もでないようだ。
「歌です、もう一度歌を唄うのです!」




