File11 学校の七不思議♯9
ずしゃーっと音を立てながら地面に放り投げられる。
「大丈夫でしたか?!」
落ちた先は研究室の車の中だった。タオも雨もイタチもずぶ濡れで息が荒かったが、無事なようであった。
「これ普通の水よね?下水じゃないわよね?変な匂いしない?」
「あー、はい……、その、大丈夫だと、思います」
なんだそのEの間。
「凛君は天界の聖なる水を使っているから綺麗だからね!!下水とか排水溝を通したものじゃないからね!」
雨が必死に言い訳すればするほど疑惑は確信に変わる。浄水場で働く人達には感謝しなくてはならない。
「着替え持ってきてないんだけどぉー。タオ、なんか香水持ってない?」
「持ってきてても鞄の中と一緒にドブ水でびっしょりだ」
「人が言わないようにしてたのにドブ水とか言わないでよ!」
「派手にやったな」
すけさんがどこからかホースを引っ張ってきて、あたし達が外に出るよう促すと冷たい水をぶっかけてきた。冬じゃなくて良かった。ついでにシャンプーも持ってきて欲しかったが、任務中だ。欲は言えない。Eがタオルとドライヤーを持ってきてくれた。
「まさかトカゲもコピー出来るとはね」
「凛君なら誰にも真似出来ないと思ったのに」
雨はしょんぼりとする。
「貴船凛さんは現人神。妖怪が保持している妖力を大幅に越えています。それでもコピーできるとは思いもよりませんでした」
「本来であれば雲外さんは自分たちと同列の妖力を持っている方しか複製できなかったはずです。それが、龍之介様のところのお孫さんの能力も模倣できるとなると」
「何者かが介入したのは間違いないようですね」
「攻撃をしても跳ね返ってくるだけだし、コピーに何かしらの制限がないってほとんど無敵だよ」
「あれでは隙を見て布で覆うことも、破壊することも無理だ」
こちらの攻撃はコピーされ、どんなに強い攻撃を仕掛けたところでも跳ね返ってきて、逆にこちらが大ダメージを喰らう。となれば、攻撃しないほうがいい。
『ベートーヴェンの目が動いたとか』『吹奏楽部』
『篠笛が苦手で』『怪獣さん、歌は嫌い?』
「音楽?」
「「「は?」」」
「音楽で解決した怪獣っていなかったっけ?」
「知らないよ」
「そういう神回があったの!ほら、こっちの攻撃をコピーしてくるなら攻撃じゃないのはどうなるのかなって。音楽ならノッてくるんじゃない?」
「そんなハートフルストーリーみたいなことあるか?」
「俺はいいと思うぞ。これ以上やつらを刺激してどんなしっぺ返しがくるか分かったもんじゃないしな。ほれ、着替え」
すけさんは研究室の制服を手渡す。しっかりクリーニングをしているのか肌触りもよく、布も真っ白だ。着替えの間すけさんとイタチは外に出ていった。
「音楽と言っても何か歌うんですか?3人で」
「タオ、あんた篠笛持ってたでしょ。豆腐屋でも演奏しなさいよ」
「だから私苦手って言ったよなぁ?!むしろ京都人の雨がいいんじゃないか?」
「私も無理だよ〜。舞も笛もやりたくなくて給仕ばっかりしてたし」
「笛なら私にお任せ下さい!」
あたし達が着替え終わるのを見計らいイタチが入ってきた。
「吹けるのか?」
「はい!かの有名な安倍晴明様から伏見のお狐様まで私の演奏に虜になった方々は数知れず!どんな曲も演奏してご覧に入れましょう!」
それ同一人物じゃないよな。
「じゃあ『妖怪体操』がいいんじゃないか?」
「ここは『らしさ』でしょうが」
「『ありのまま』がいいんじゃないかなぁ?鏡だし」
「なんですか?その曲?」
「今ヒットしてるアニソンよ」
「アニ、アニソン?」
「ダメだ、ヒットソングが平安で止まっている」
「平安時代の歌なんて祇園精舎の鐘の声しか知らないわよ」
「イタチ君、どんな曲なら知ってるの?」
「童謡とかですかね」
「「「童謡」」」
「アルプス一万尺とかは?」
童謡と言えば定番の曲である。
「なんですかそれ?」
またしてもキョトン顔である。
「アルプス一万尺は1950年くらいにできた曲みたいなので、平安なイタチさんには難しいのかもしれないですね」
それは知らなかった。
「それ以前の日本の曲となると……」
「花とかは?有名だろあれ」
「隅田川の?」
「それそれ。だが2番目が出てこないな。荒城も結構難しいな」
「その人の作品だとかちかち山はフルでいけるけど、さすがにねぇ」
復讐に燃えたうさぎが出てこられても困る。
「すみません、私最近の曲なら東北地方だとついていけるのですが」
イタチの最近っていつなんだろうか。まさか100年前とか言わないよな。
「それだとあたし、星めぐりの歌しかフルで歌えないわ」
「星めぐりの歌ってあの作家さんの?」
「詩集のほうしか分からないんだが」
「岩手県人の義務教育よ」
「星めぐりの歌!いい歌ですよね!」
「知ってるんだ」
流石大先生である。




