↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
PR
98/98

File11 学校の七不思議♯11

 カッコウが必死に羽ばたきながら言葉を発した。

「あんたら!人に下水ぶっかけておいてよくいけしゃあしゃあと出てこられたな!」

「そんな些細なことで言い合っている場合ではないのです。早く歌を!!」

 カッコウがあまりに必死に言うものなので、あたしは怪訝な顔で尋ねる。

「歌って言われても……」

 するといつの間にか肩に乗っていた鼠の親子がしくしくと泣き始める。

「下級妖怪の私共の目は覚まさせていただいたのに、あのような高貴な方にはできないとは、あんまり情けないことでございます」

 このセリフ、あたしがセロ弾きみたいではないか。

「さっきの歌で正気に戻ったの?」

「そうでござりまする」

 今度は地面にちょこんと座った三毛猫が答えた。

「あの心からズンっとくるような低音、かと思えば狂ったように高音を突然発し、笛の音色とともに奏でられる不協和音。我らの目を覚ますのにぴたりでござりました」

「……それ、あたしのこと音痴って言ってる?」

 自覚はあるけどはっきりと言う奴があるか。

「いいから歌を!」

 相変わらずカッコウは急かしてくる。あたしは再び息を大きく吸う。

「赤い目玉のサソリ〜」

「それでは無駄でござります」

 折角また音痴な歌を聞かせようと思ったのに。

「何が無駄よ。そういうあんた達はばかだわ」

「先程よりも懐かしく、穏やかなものが必要でござります。幼い頃の、翌朝には消えてしまうような遠い記憶でございます」

「難しいことを言うわね」

 人は物心つくのが3歳くらいで、記憶もそのくらいだったはず。記憶力がいい人だと、お母さんのお腹の中にいる頃から覚えているようだけどあたしはまっっったく覚えていない。それに1番古い記憶は狭いアパートに住んでいた時で、思い出したくもない奴のことも思い出してしまう。

「人間は良い出来事よりも悪い出来事を記憶し易いと言いますが、それはただ忘れているだけでござります。きっとあったはずです。あなたの哀しく古い記憶に穏やかなものが」

 随分険しい顔をしていたのだろう。子鼠に気を遣われてしまった。

「そうは言われてもねぇ……」

 そう言いかけて薄らと記憶の彼方にある情景が思い浮かぶ。あれはいつのことだったろうか。

 水平線まで広がる真っ青な水。奥羽山脈に囲まれて育ったあたしにとって、その日初めて海を見た。打ち寄せる波が面白くて、追いかけては陸に連れ戻され、また逃亡して追いかけては陸に連れ戻された。遂に痺れを切らし、あたしと自分を抱っこ紐で括り付けてしまった。

「磯ーで、名所はー」

 その人はあたしの頭を撫でながら、故郷を思い出すように海を眺めていた。

「それだ!!」

 物思いに耽っているとカッコウが叫び思い出の邪魔をする。

「どれよ」

「気にせずに唄われよ!さぁ皆の者!長殿の目を覚ましますぞ!」

 カッコウがいつの間にか海女さんになって三味線を抱えていた。三毛猫は漁師のような格好で太鼓を叩く。母鼠は着物を着た女の人になり、音楽の教科書の巻末に載っているような昔の笛を持つ。

「ハァーサイショネ!」

 海人さんと漁師が突然叫ぶ。

「なになになに?!」

「良いから続けてください!」

 子鼠が耳元で囁く。この歌そんなに知らないんだけど。うろ覚えであたしは不安になりながらも息を大きく吸う。ええいままよ!

「磯でぇ〜名所ぅはぁぁぁ〜ぉ大洗さ〜ま〜よ〜」

「ハァーサイショーネ!!」

 タコの触手に捕まっているはずのタオも合いの手を入れ始めた。イタチと雨が間違って他人の排他的経済水域に迷い込んでしまったような顔をしている。

「松がぁ〜、見えます〜、ほの〜ぼのぉと〜」

「オヤ松がね!」

「見えま〜す〜、イソーほのぼのと〜」

「ハァーテヤテヤテヤ〜 イササカリンリン」

 全く知らない暗号のような囃子を海女さんと漁師、タオが捲し立て、三味線の音が響き渡る。役目を終えてほっと一息ついていると、頭にずしりと重いものが乗った。そうだ襲われている最中だった。これは相手からの攻撃?まさか戦闘中に別のことを考えるなんて。自分の失態に頭が真っ白になる。が、いつまでも襲われる気配がない。それどころかいつかのような手付きで頭を撫でられている。そおっと目を上げるがその人物の顔が見えない。演奏はピタリと止んでいた。

『室長……』

「長殿……」

「迷惑をかけた。暫く君達に任せる」

 ようやくあたしの頭に乗っけていた手を退けた。あたしはバクバクする心臓を抑えながら、顔をゆっくり上げる。

「江利、大きくなってね」

 あたしの前にいた人物は忽然と姿を消し、金属が落ちる音が鏡の中に反響する。拾い上げるとそれは使い古しの鏡だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。