File11 学校の七不思議♯7
「どの鏡でもいいんでしょうが、ここが1番妖力が強く感じられます」
大洗中の校舎に不法侵入したあたし達は、サングラスの上にゴーグルをかけ更に謎が深まるEと共に1階の3年生の教室の前にある手洗い場の鏡の前で立ち止まった。鏡は水垢も汚れも1つなく、今日もちゃんと掃除したようだ。
「関係ないけどそれ見えるの?」
「はい、よく」
「Eは能力で100個の目玉を日本各地に配置しているんだ。このくらいしないと眩しくて仕方ないらしい」
「目玉が100個?!」
想像したら気持ち悪くなってきた。
「目玉が本当に100個付いているわけじゃないですからね。正確には意識を任意の100か所に飛ばすことができる能力です」
「お陰で研究室の人員不足を多少なり補ってくれている」
「多少で悪かったですね、ほらいいからさっさと紫鏡で中に入ってください」
「そうだったそうだった」
タオは持ってきたカバンからきちんと包んでいた紫鏡を取り出す。タオは恐る恐る紫鏡と洗面台の鏡を合わせた。
「なんにもならないけど」
「手を入れてみてください」
洗面台の上に上り、半信半疑で鏡に触れようとすると、なんと鏡が水のようになって手が入った。
「何これ気持ち悪っ」
「ほらいいから」
タオに後ろから背中を押され、でんぐり返しで鏡の中に侵入した。鏡の中は真っ暗で、ひんやりとしていて、足音が反響する。
「押さないでよ!鏡の中の怪人が出てきたらどうすんのよ」
「それはそれでいいじゃないか」
続いてイタチと雨も入ってきた。
「鏡の中ってこんな風になってるんだぁ」
「皆さん侵入は成功しましたでしょうか?」
タオの鏡から声が聞こえる。覗いてみると、鏡はあたし達を反射せず、Eの顔を写していた。
「なんとかな」
「鏡の中への侵入は初の試みですので、明確な指示が出せず申し訳ございません。ですが、研究室の少数精鋭がリアルタイムで観測いたします。危険が迫っているときはこちらから警告いたしますが、犯人の行動パターンは未知数です。慎重に行動してください」
「注意事項多すぎて怖いんですが、私達生きてここから出られるんですよね?」
「万全を期します。が、警告がなくても危険を感じたら速やかに紫鏡に念じてここから退避してください」
Eの言葉にタオも雨もビクビクしてあたしにしがみついてきた。イタチも飛びついてきたので仕方なく抱える。
「私は車に戻ってモニターで観測しておりますので。取り敢えず鏡の中を探索してください。検討を祈ります」
足音が遠ざかって行く。冷たいやつだ。
「探索ったってねぇ。地図もないんじゃどこに行けばいいのやら。雨はその辺京都で鍛えられてるんじゃないの?」
「江利ちゃんは京都をなんだと思っているの。妖力探知は京都でも教わったけど、ここは揺らぎがないから難しいね」
「そうなのよね。一定というか強弱がないから自分の場所も把握できないわ」
「ちょっと私を置いていかないでくれ。そういうのあるのか?」
「分かりやすく言うとオーラって言うのかな。妖怪だけじゃなくて人間にもあるんだよ。みんな一人一人違うんだ」
人間全員にあるんだ。あたしは妖力メーターがなんとなく感じるだけで、妖怪以外の妖力探知はてんでダメだ。すると辺りを犬のように嗅ぎ回っていたイタチがミーアーキャットのように二本足で立った。
「この感じ、雲外さんにやはり間違いありません。こっちです!」
イタチはそう言うと四足歩行で駆け出す。その後にあたし達も続く。見渡す限り暗闇で、前に進んでいるのか後ろに進んでいるのか分からないままとにかくイタチに付いていく。と、1分も経たないうちにタオが持っていた紫鏡が光出した。
『聞こえますか?』
「Eの声だ!通信良好。こちら桃原、どうぞ」
『良かった。私が戻っている間だいぶ奥に行っていたのでどうしたことかと』
「そんなに歩いてないはずだけど」
100mも歩いていない気がするが。
「幽世ですから、感覚に歪みが発生しているのでしょう。Eyeさん、雲外さんの痕跡を見つけましたので、我々はそっちに向かっています」
『のようですね。モニターにはその先に妖力の大きな揺らぎが観測できます。通信もいつ途絶えるか分かりません。くれぐれもご注意ください』
Eのお墨付きももらって、イタチを先頭にあたし達は先に進む。
「ふふふっ」
「は?誰?今笑ったの」
「私じゃないぞ!」
「私でもないからね」
「御三方とも!気をつけてください!これは」
「ふふふっ、迷い餌が1、2、3……」
数まで数え始めやがった。ただでさえ虫の居所が悪いのに。
「ちょっとタオ、こいつら耳障りだからなんかない?」
「なんかって言われても」
タオは持ってきた鞄をゴソゴソと探る。未だに耳障りな笑い声が反響している。
「あっ、篠笛があった」
「タオちゃんも篠笛のテストなの?」
期末前なのに。
「そうなんだよ。私篠笛がどうしても苦手で家で練習しようと思ったんだ」
「ちょうどいいわ。吹いてみなさいよ」
「無茶言うなよな」
と言いつつも、タオが篠笛に口を付ける。息を吹き込むと
「プピー!!!」
と間抜けな音がする。
「音を出せるのならあともう少しですよ!」
「本当か!もう少し頑張ってみる!」
イタチの言葉にやる気が出てきたのかプピー!プピー!と何度もタオは吹かす。それに対抗するように笑い声も大きくなる。途中から騒音対決みたいになっている。
「もう!うるさいよ!」
「江利ちゃんが悪いんじゃん!」
「「篠笛でリコーダーみたいになると思わないじゃない」」
「っっっ!」
あたし除く2人と1匹は後ずさる。いや、2人のあたしと言うべきか。あたしはほぼ反射的に風を起こし、あたしを騙る不届き者を吹っ飛ばそうとした。
「そういう感じね」
向こうも同じ行動をしたらしく風は相殺され、偽江利に届く前に掻き消えた。




